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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第五章:婚約破棄は、よく考えてから行いましょう
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第22話 首輪を着けた使者

第04節 ウィルマーの新ギルド〔5/7〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 オレたちの昇進の儀の後。オレたちは領主様ご一家と会食することとなった。

 オレたちは(なか)ば領主様の身内扱いされている為、もう何度も食事の席に招かれている。今更礼服を着る必要はない、というのはそういう意味もあったのだ。

 が、ギルマス・プリムラ氏は、式典会食の末席に同席したことが何度かある程度。しかも当時のプリムラ〝嬢〟は、城内では許可なく口を開くことが許される立場ではなく、料理も実は違うモノを出されていた。

 けれど、ギルドマスターとなったプリムラ氏は、平時に於いてもサウスベルナンド伯爵の閣僚扱い。身分はだから、男爵級だ。これからは貴族と会食する機会も増えるはず。

 ちなみに、オレたちも「公爵の閣僚であるギルマスの配下」から「公爵(伯爵)直下の外交官僚扱い」になる為、爵位で言ったら子爵または男爵級。(おおやけ)にその身分を名乗る訳ではないけれど、その立場で(ぐう)されることになるんだ。


 それはそうと、領主様、というよりも領主夫人の真意は、会食後にあった。

 (いわ)く、「公爵様の旗幟(きし)を託された者が、貧相な格好をすることなど認めません!」という訳で、オレたち(ついでにプリムラ氏も)の礼装を仕立てることになったのだ。以前仕立てていただいた礼装があるが、「余所の貴族の館に二泊以上することもあるはず。その時一着の礼装を着続けるつもりなのですか?」と(たしな)められた。最低三着作るぞ、と意気軒高(けんこう)


 また、領主城出入りの馬車職人を呼ばれ、オレたち用の馬車を仕立てることになった。「他領の城下を訪れた時、徒歩で旗幟を掲げるつもりか」と言われ、その必要性に思い当たったという訳だ。町に出て車大工の(もと)に行き、そこで仕立ててもらっても構わないけど、当然格式というモノがある。オレたちが車大工の下に行って仕立ててもらうのと、領主城で出入りの職人を迎えて注文を出すのとでは、どうしても完成品の格が違ってきてしまうのだ。

 外交官僚は、他領に(おもむ)いた時の見栄(みえ)がある。公爵や伯爵の権勢を誇示する役目もある為、相応に飾らなければならないという訳だ。

 とは言っても。この馬車は、普段は〔亜空間倉庫〕に死蔵するつもり。〝ア=エト〟の仕事で、他領に公式訪問する際に、その都市の近くに来てから引っ張り出して馬に繋げばいいんだから。


◇◆◇ ◆◇◆


 そんな感じで、オレたちはまたモビレア領主城に数日間の居候(いそうろう)をすることになったのだが。


 オレたちの滞在中に、領主城に不意の来客があった。

 スイザリア王太子の旗幟を掲げた馬車に乗ってきた男、である。


「ア=エト。済まないが同席してもらう。彼はキミたちに用があるようだ」


 そしてその男は、何故かオレたちを(というか〝ア=エト〟を)指名したのだそうだ。


 ア=エトのことは、一部の者しか知らない。ことになっている。

 けれど、アマデオ殿下の(わき)の甘さゆえ、王子時代の子飼いの冒険者らを経由して、オレたちの情報は王太子殿下に流れているはずだ。それと同時に、名実ともに次期国王となった王太子殿下には、帝王学の一環として、国王陛下経由で『〝サタン〟包囲網』の話も伝わったはず。その辺りが理由だろうか?


 そして服装を整えて(まだ領主夫人に仕立ててもらった礼装は仕上がっていないから、以前仕立ててもらった礼服を着た)、王太子殿下の使者の前に立った。


 その使者の首には、〝誓約の首輪〟があった。


◇◆◇ ◆◇◆


其方(そなた)らが、〝ア=エト〟とその一党、か。

 王太子殿下の言を告げる。平伏して拝聴(はいちょう)せよ」


 〝誓約の首輪〟をしているという事は、奴隷? だが、王太子殿下の旗幟を掲げていた以上、この男は王太子殿下の正式な使者ということになる。つまり、待遇は侯爵級。

 一方でオレたちは、現状はモビレア公爵の客分でしかなく、職務としてこの場にいる訳ではないから、立場は平民。つまり、領主城内の使用人より身分は下になる(但し「城主の客分」という事で、使用人の皆さんは配慮してくださる)という事だ。

 だから言葉通り平伏し、言葉を待つこととした。


「王太子殿下の妹姫、パトリシア様が護衛を伴わずアザリア教国にご遊学あそばされた。

 ゆえに、其方らは姫殿下の(もと)(おもむ)くことを命ず!」


 ――は? 留学中の王女様の、護衛?

 それが、わざわざ王太子殿下の使者が、その旗幟を掲げて、モビレア公の居城に来て、排籍(はいせき)した弟王子の子飼いの冒険者に、命じる内容か?

 色々聞きたいことがある。けど、聞いていいことなのか? オレたちには(公式の場で)言う事が出来ない内容だから、符牒(ふちょう)を混ぜている、という事か? だとしたら、その解読はどうしたらいい?


 半ばパニクって答えを見出せないでいたら。


(かしこ)まりました。一命に換えましても、御命(ぎょめい)、果たしてご覧にいれます」


 飯塚が、承諾の言を述べた。


◇◆◇ ◆◇◆


「さて、聞きたいことはあるか?」


 公爵閣下が使者を別室で歓待している間、アマデオ殿下がオレたちに語り掛けてきた。


「そうですね。〝誓約の首輪〟を着けた官僚、というのは初めて見ましたから吃驚(びっくり)しました」


 問われた言葉に対する、飯塚の回答。って、確かにそれも気になったけど、もっと他に聞くことがあるだろう?


「はじめに言う感想が、それか? だけど、確かにそうかもしれないね。

 キミたち自身もそうだけど、〝誓約の首輪〟は奴隷に対して使われる。それが普通だ。この城の、最下級の労働者も〝首輪〟をしているが、それもやはり奴隷と言う意味になる。

 けれど、貴族や王族の外交官は。背任や離反、亡命等を防ぐ為に、〔契約魔法〕で〝首輪〟を掛けるのが一般的なんだ。これは、〝首輪〟を着けていることでその使者は主人を裏切ることが出来なくなる訳だから、その使者を迎えた王侯貴族がその使者を拷問しようが懐柔しようが、決して(なび)かないということになる。あとは、気に喰わなければ使者を殺してしまえ、という話になるけど、殺しても、状況は悪化すれども改善しない。なら殺す価値さえないということになる。

 本人は主人に対して〔誓約〕することで隔意(かくい)がないことを示し、同時に主人にとっては自分に〔誓約〕させることで、その使者の生命を保護する役割も持っているんだよ」


 それはつまり、裏を返せば王太子殿下にとって、ここは半敵地と認識しているということ。だからこそ、アマデオ殿下が直接使者殿を歓待する場に居合わせると問題が生じる、という訳か。


「それで、パトリシア姫は、現在おいくつでしょうか?」

「先の正月で16になった」


 髙月の興味は、王女殿下の年齢。この世界の年齢は、数え年。だから満年齢なら、14-5歳、ということになる。

 一方オレたちは、もうあとひと月も待たずに、オレたちの定めた誕生日(周年紀)が来て18歳になる。大体三歳(みっつ)年下、か。


「で、パトリシア姫の駆け落ちの相手は、一体何方(どなた)なんですか?」


 続く、髙月の質問。

 ……って、なんだって?

(2,903文字:2018/08/06初稿 2019/03/31投稿予約 2019/05/04 03:00掲載予定)

・ ギルドマスターに対して「嬢」呼ばわりは、さすがに失礼でしょう。ちなみに英語でも、成人女性に対しての「girl」は侮蔑語として扱われます。だから若い女性に対して〝girl(こむすめ)〟扱い或いは〝Miss.(いきおくれ)〟呼びは、場合によってはセクハラなんです。〝Mrs.(ミセス)〟が(男尊女卑的な意味で)相手を尊重した敬称なのかは議論が分かれるところですが。だからといって〝Ms.(ミズ)〟呼びなら良いと言われても、ね。日本語の「さん」みたいに、性差無い表現があればいいのに。

・ サウスベルナンド伯の閣僚と言えるのは、現時点では「外交特使」〝ア=エト〟と「冒険者ギルドマスター」プリムラの二人だけです。

・ 「首輪を付けた外交官僚」に対し、その〔契約魔法〕の内容を問うのはマナー違反であり、場合によっては(それだけで)「その外交官僚に対して引き抜きを掛けようとした」と解釈されます。だからア=エトに〝首輪〟をしたのは騎士王国でありながら、彼がサウスベルナンド伯爵の外交官僚として行動する場合、必然的にアマデオ殿下との間の〔契約〕に基づき〝首輪〟を課せられた、と相手は判断するのです。

・ 「留学」と「遊学」は、基本的には同じ意味です。使い分けるとしたら、「本拠を故郷に留めたまま異郷で学ぶ」のが「留学」で、「本拠から離れて異郷で学ぶ」ことが「遊学」です。最近では「遊学」は、「留学の名目で遊びに行くこと」とされていますが。

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