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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第五章:婚約破棄は、よく考えてから行いましょう
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第15話 旗を掲げよ

第03節 リュースデイル解放戦(後篇)〔4/6〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 飯塚の戦術は、倉庫を守る数人から十数人の小鬼(ゴブリン)に対し、数十の戦力を一括投入するというモノだった。さすがに室内での戦闘だから長弓(ロングボウ)(たぐい)は使えない。出会い頭に(クロスボウ)盲撃(めくらう)ちし、彼我(ひが)の距離があるうちに抜剣して近接戦に移行。直接戦闘を担当しない中衛以降は迂回(うかい)して奥を目指す、というモノ。

 これだけ数の差があれば、(ゴブリン)の衛兵で全員の足を止めることは不可能。だからそうなると、前衛もまた「確実に(ゴブリン)(ほふ)る」ことを目論む必要がなくなる。時間を稼げば制圧完了した友軍が、(ゴブリン)の背後から迎え出る。

 そして、通常の対魔物戦闘ではあり得ない事ながら、今回の戦闘に限り、万一ゴブリンが降伏して来たらそれを受け入れろ、と飯塚は指示を出していた。ヒト殺しを最小限に、という情緒的な問題より、単に(とど)め刺しの労力を省略する為に、だ。わざわざ手間をかけてゴブリンを殺して、それで()られる魔石だって大したことがない以上、そんなのは後回しで良い。カランのゴブリンは魔石より装備品の方にこそ価値がある。なら投降したゴブリンの武装を解除し、その装備品を戦利品として接収すれば、それで充分戦果になる。

 同様に、逃走を選択したゴブリンを追う必要はないとの触れ(つうたつ)も出した。戦利品は得られないものの、余計な危険(リスク)を負う必要はない、と。今回の戦略目標は(せき)の破壊である以上、ゴブリン一匹にこだわる必要はないのだ。


 そして関の南方から撞車(どうしゃ)の衝撃音が響き始めた頃。

 〝機動(ドレッド)要塞(ノート)〟を集積地と関の中間地点に移動させ、更にドレッドノートのすぐ脇に、平衡錘(トレビュ)投石機(シェット)を展開した。攻撃目標は、(ゴブリン)の密集する屋上部分。最早(もはや)ゴブリンたちにとっては、「前後で挟撃」というよりも「上下で挟撃」という状況になっていた。


 南方の関正門が破壊される少し前。

 髙月が関の司令部と思われる場所を断定した。


◇◆◇ ◆◇◆


投石機(カタパルト)、攻撃止め! ソニア、降りて来て合流しろ!

 領兵隊長、指揮権を委譲する。戦況は最早終盤だ。損耗を抑える戦い方に専念しろ!」

「了解しました。司令官(ア=エト)殿も御武運を」


 戦況の終局に於いて、オレと松村と飯塚、そしてソニアの四人が突入することは、事前に発表してあった。ソニアや髙月は反対した(万一の時に〔倉庫〕に避難出来なくなるから)が、乱戦では〝ゼロの転移攻撃〟さえあまり効果的とは言えない。それでありながら髙月や武田を守る余裕がなくなるから、むしろ四人で突入した方が作戦の成功率が上がると判断したんだ。


 関の内部は、(れっき)とした城砦(じょうさい)。南部正門に通じる主幹道と、関の職員が使う通路。オレたちはその通路を走る。

 だが、オレたちの武装は皆長柄(ポール)武器(ウェポン)。オレの長柄(ポール)棍杖(メイス)に松村の薙刀(なぎなた)、そして飯塚の二叉長槍(ロンギヌス)。当然室内戦では取り回しに苦労する。

 が、ここでも松村の杖道(じょうどう)講座が役に立つ。柄の中ほどを広く持ち、穂先だけでなく石突も武具として使えば、事実上の二刀流として近接戦を戦えるのだ。


 積極的にゴブリンたちを屠ることは考えず、道を空けたらそれで充分。そのまま走り、そして司令室に飛び込んだ。


「スイザリア王国サウスベルナンド伯爵領軍司令、ア=エトだ。

 カラン王国リュースデイル方面軍司令部の者たちに告げる。降伏せよ!

 其方(そなた)らが人間であるか否かに関わらず、其方らの誇りを毀損(きそん)せぬ待遇を約束する」

「ぎ? 降服(ごうふく)、だと? そんな()とがあ(でぃ)得るモノ()!」

「これ以上の戦闘は無意味だ。無意味な戦争(いくさ)で死ぬまで戦う愚かさを、其方らは知っているはずだ。

 今ここで其方らが死んで、誰の命を()かすんだ? 死に場所を定められるのが、其方らカランのゴブリンの誇りじゃないのか?」

「……お前()にとって(おで)たちはただの魔物のはずだ。

 魔物と約束(やぐそぐ)()わす人間、その言葉(ごとば)をどこまで(すぃん)()ば良い?」

「信じれば、救われる命があるかも(・・)しれない。信じなければ、全ての命が確実に(・・・)(つい)える。選択の余地は無いはずだ」

「わ()った。降伏(ごうふぐ)(すぃ)よう」


「よし、美奈! 拡大音声。俺の声を全域に伝達しろ!


 リュースデイルで戦闘している全人類、全ゴブリンに告げる。

 当地は既にサウスベルナンド伯爵領軍が占領した。これ以上の戦闘は無意味である。

 ゴブリンたちは全員、武器を捨てて投降せよ。

 人類軍諸君に告げる。投降したゴブリンたちを殺傷することを禁ずる。速やかに武装解除を行い、ゴブリンたちを収容せよ。但し抵抗が激しい場合は斬って構わない。また武装解除したゴブリンの装備は、戦利品として接収することを許可する。


 旗を掲げよ、スイザリアの旗を!

 モビレアの旗を、アルバニーの旗を。

 サウスベルナンドの旗を、アマデオ殿下の旗を!


 兵士たちよ、勝鬨(かちどき)を上げよ!

 我ら人類軍の勝利だ!」


☆★☆ ★☆★


 魔王戦争。

 その戦いの第二幕と()われる、〝エトの峠〟攻略戦。そこは、当時〝リュースデイルの峠〟と呼ばれていた場所に作られていた、関を巡る戦いだった。

 序盤は魔王の尖兵たるゴブリンたちが圧倒的に有利に戦っていたものの、ア=エトがウィルマーからの林道を迂回(うかい)路としてリュースデイルの峠の北方に回り込み、関を挟撃することで当地のゴブリンたちを撃退することに成功した。

 これは人類軍にとって最初の勝利であると同時に、今後の反攻作戦の鋒矢(ほうし)ともなる、それは勝利であった。


 この戦いで、ア=エトは四百名弱のゴブリンを捕虜(ほりょ)にした。


 言うまでもないが、人類と魔物の間で行われた戦いで、相手を捕虜(・・)としたのは、史上初めてのことでもある。

 なおこの戦いにちなみ、後にこの峠は〝エトの峠〟と呼ばれるようになったという。


★☆★ ☆★☆


(おで)たちを、どう(すぃ)ようって言うんだ?」

「捕虜交換、といっても、其方らは捕虜を取ってはいないはず。

 なら、そうだな。其方らの装備は接収させてもらったが、其方らを〝捕虜〟と考えるなら、これは人道的対処とは言えない。だから、そのゴブリンたちの装備を(もっ)て、その持ち主の生命の対価とする、というのはどうだ?」

「だが、(おで)たちは武装解除(がいじょ)要求(ようぎゅう)()ていない」

「そうだ。其方らには、別の対価を要求する」

(2,819文字:2018/07/31初稿 2019/03/01投稿予約 2019/04/20 03:00掲載予定)

【注:「めくら撃ち」は差別用語で放送禁止用語に該当します】

・ 峠の名称改名に関するエピソードは、今後。ちなみに、改名直後は〝ア=エトの峠〟と呼ばれていたとか。

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