第13話 作戦変更
第03節 リュースデイル解放戦(後篇)〔2/6〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ウィルマーに戻って来て。ボクらはアマデオ殿下やモビレア公、そしてギルマスに対して、作戦を変更する旨具申した。
「従前の作戦を遂行する為には、猫獣人の集落址の防衛が不可欠です。
が、現状では集落址とリュースデイルの町の両方に、戦力を分散することは出来ません。
なら、集落址は一旦放棄して、リュースデイルの要塞化を優先します。そしてそれが完了したら、全軍を以て関に攻め上ります。その時の戦術目標は、関の占領ではなく破却。だから、平衡錘投石機や大型弩砲のような攻城兵器を、遠慮なく投入することとなるでしょう。
実際、リュースデイルの拠点化が完了し、そして関の破却に成功すれば、集落址の両端がスイザリアの治政下となる訳ですから、集落址の集積拠点化はそれからでも遅くはないと思われます」
関の南側は、平衡錘投石機などの攻城兵器を組み立て、そしてそれを展開するスペースはありません。けれど、はじめから斜面で固定することを前提とした攻城兵器を別の場所で組み立て、ボクらの〔倉庫〕を経由して運び込むことは出来るのです。
またこれまでは「関の占領」を戦略目標にしていましたから思い切った攻撃は出来ませんでしたが、「関の破却」が戦略目標になれば、わざわざ接近して剣を振り回す必要さえなくなるんです。
「だがその結果、関を攻略するお前たちの負担が大きくなる。リュースデイルに運び込める物資だけで、リュースデイルの要塞化工事と関の攻略の両方を行わなければならないのだからな。
それに、戦力の問題もある。お前たちの物資収容力に頼るにしても、それはつまりお前たちと同行している、或いはお前たちと合流する事が出来る部隊のみが、その恩恵に与れるという事だ。増援部隊はだから、手弁当でリュースデイルを目指さなければならない。
増援が到着するまで、お前たちは低下した現有戦力のままで戦わなければならないという事だ」
飯塚くんの説明を受け、モビレア公が懸念を口にする。けど、それは既に想定済みの問題でもあるのです。
「おっしゃる通りです。そして、カラン王国は、未だその戦力の底を見せていません。
先の防衛戦では2,000に及ばんとする喰屍鬼と二体の牛鬼で攻めて来ました。言い換えると、指揮官である小鬼一体であれだけの戦力を動員した、という事でもあるのです。
指揮官であるゴブリンが特別なのか、それともカランのゴブリンは皆同等の事が出来るのかは知りません。けれど、最悪を想定すると、リュースデイルを守り切ることは不可能です。
けれど、時間を稼ぐことは出来ます。
関が――というよりも現在関のある峠が――スイザリアの支配下に入れば、リュースデイルで時間を稼げれば、峠経由と猫獣人の集落址経由、二方向から敵を挟撃出来るようになるでしょう。
だから、今は集落址の再整備より、関の攻略を優先すべきなのです。
とはいえ、確かに俺たちの現有戦力のみで関の攻略が出来るか、といわれると、リスクが大き過ぎるでしょう。
だから。関を南から攻めているアルバニー伯爵領軍に、協力を要請します」
「そうか、お前たちが伏兵となるのか!」
「そうです。南から総攻撃を加えていただきます。ゴブリンたちが、余所に注意を払う余裕もないほどの、総攻撃です。
そして、タイミングを合わせて俺たちが北から攻め込みます。
俺たちの部隊は少人数ですが、それゆえ行動の自由が利きます。また、関の占領ではなく破却を目的に攻撃する為、細かいことに拘泥する必要がなくなります。
ついでに、ゴブリンたちに対しても。
ゴブリンたちを全滅させることを目的とすると、戦力の不足が指摘されるでしょう。
けれど、関の破却が目的でありゴブリンが逃走するというのなら逃がしても構わない、という立場を採ることで、兵の目的も単純化出来るのです」
「目的の単純化、か」
「はい。戦略目標は、関の破壊。そしてそれを行う為に、関の門を開きアルバニー伯爵領軍を迎え入れる。
邪魔をするゴブリンは斬りますが、そうでなければ特段相手をする必要もないのです」
「……スイザリアとローズヴェルトを悩ませるゴブリンたちに対して、『相手をする必要もない』、か。
善いだろう、〝ア=エト〟。お前の作戦案を承認しよう。
それで、作戦の開始はいつになる?」
「やはり、最低限の準備は必要になります。リュースデイルの要塞化の為の資材や、関攻略の為の攻城兵器など。ですから、10日後。10日後に作戦を開始します」
◇◆◇ ◆◇◆
王子様たちの下を辞して、次は関攻略用の砦に向かいます。砦までなら日帰り出来ますから。
「でも飯塚くん。この作戦って、大局的に見たら〝双頭の蛇〟ですよね?」
「そうだな。ウィルマーが胴体部分で、南北から挟み込む。形式的に見たら確かに〝双頭の蛇〟だけど、決してそうはならない」
「何故?」
「〝双頭の蛇〟は、複数の優秀な指揮官が、高度に連携をして相手に二正面作戦を強いることに意味がある。けれど、俺たちは砦のアルバニー軍と連携のしようがない」
「……確かに。アルバニー軍が飯塚くんの指示に従ってくれるとは思えませんしね」
形の上では確かに〝双頭の蛇〟。だけど実際は、アルバニー軍を囮とした時間差攻撃でしかないということですか。
「だから、俺たちが勝手にアルバニー軍の動きを察知して、それに応じた部隊機動を行う。要になるのは、ソニアだ」
「え? 私、ですか?」
いきなり話を振られた所為で、ソニアも驚いています。
「あぁ。上空から、アルバニー軍並びにゴブリンたちの動きを読んで、美奈の〔泡〕を通じて報告してほしい」
「かしこまりました」
そうこうしているうちに砦に到着し、司令官(アルバニー領軍方面隊騎士団長)に面会を申し出ました。その待ち時間に平衡錘投石機の追加を兵士たちに預け、決戦の日が近いことを伝えておきます。
ここにいる領兵・冒険者は、もう一年近くこの砦に張り付いているのです。冒険者にはその分日当が出る、といっても、普通に依頼を熟していた方が当然実入りは良いでしょうし。そして、最弱の魔物と謂われるゴブリン相手に劣勢を強いられ、消極的且つ散発的な攻撃しか出来ない現状に、皆ストレスを感じていたようです。
だから、遠からず決戦、という報は、彼らの士気を復活させるいい活性剤となりました。
そして砦の司令官に、決戦の日時や基本的な戦略等を伝え、その日に備えるのでした。
(2,784文字:2018/07/23初稿 2019/03/01投稿予約 2019/04/16 03:00掲載予定)




