第17話 システマティック・バトル
第03節 冒険の準備〔7/7〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
宝石魔獣は、一角兎より格上の魔物。
ベテラン冒険者でも討伐に失敗することがあるんだって。
それを、美奈たちだけで斃す。
不安が無い、と言ったら嘘になる。けど、おシズさんやショウくん。柏木くんや武田くんがいれば、何とかなる。自然とそう思える。
「松村、柏木。俺はここから狙撃するから、二人は左右に分かれて射線から外れてくれ。
美奈、武田。二人は補給係。全員の弩に矢弾を装填しろ。
美奈は、俺が撃ったら次のクロスボウを俺に渡してくれ。武田は俺が撃ったクロスボウを回収してクォレルを装填する。そうすれば、連射出来る。
武田、一基のクロスボウにクォレルを装填するのに、どの程度時間が掛かる?」
「30……40秒かな?」
「なら、10秒に1発発射する。美奈はカウント。
カウント10で発射。3までに俺は発射済みのクロスボウを武田に渡す。
5までに美奈は俺に装填済みのクロスボウを渡してくれ。
松村さんと柏木は、美奈のカウントが8を数えたら誤射を避ける為に距離を取ってくれ」
「わかった。なら柏木、カウント6か7で、強めの一撃を入れろ。敵の攻撃に勢いがついている時に引いたら、逆に距離を詰められる」
「わかった。その辺りの実戦勘は、松村の指示に従うよ」
「そうしてくれ。
じゃぁ位置に付こう。柏木は左から、カーバンクルの背中方向に位置を取れ」
「どうして右じゃ駄目なんだ?」
「お前の動きじゃ、相手の目前を動いて悟られないなんて無理だろう?」
「確かにな。ならそっちは任せるよ」
◇◆◇ ◆◇◆
そして全員が位置に付き、5基のクロスボウにクォレルが装填された。
攻撃開始の合図は、美奈の〝10〟のコール。なんだか大役を仰せつかったようで、緊張してきた。
「大丈夫だ。落ち着いてカウントしてくれれば、すぐに終わるさ」
「うん」
うん、大丈夫。
ショウくんが構え、狙いを定める。
美奈はショウくんにだけ聞こえる声の大きさで、まずカウントする。
「5、6、7、8、9……」
ショウくんの指先に力が籠る。
そして、皆に聞こえる大きさで、
「10!」
開戦のコールをした。
◇◆◇ ◆◇◆
「10!」
そのコールが聞こえ、カーバンクルはこちらを振り向く。
その真正面にクォレルが飛来し、吸い込まれるように右脇腹に刺さった。
また同時に、左右からおシズさんと柏木くんが飛び出してくる。
「1!」
おシズさんの鋭い突き。けどこれは、魔物は飛び上がるように避ける。
「2!」
と、まるでモグラ叩きをするかの如く、柏木くんが飛び上がった魔物を上から戦槌で殴りつける。
おシズさんも、突いた分だけ踏み込んで、横薙ぎの一閃。
「3!」
おシズさんの大刀を、魔物は爪で打ち返す。
「4!」
打ち返された勢いをそのままに、おシズさんは大刀の石突(後ろ側)で魔物を討ちすえる。
「5!」
仰け反った魔物に対し、また柏木くんの一撃。
「6!」
おシズさんの大刀は、大上段から打ち下ろされたけど、これは躱された。
と思ったら、その大刀は魔物に引っ張られるように跳ね返り、その胴を薙いだ。
「7!」
取り決められた、引き際。
柏木くんが掬い上げるように戦槌を打ち込み、その反動で距離を取る。
「8! 9!」
思った以上の連携攻撃の所為で、魔獣の脚はふらついている。
どうやら逃走を選ぶらしい。後ろを向いた。けど。
「10!」
再びやってくる、ショウくんの射撃チャンス。
しかも今度は、魔獣は背を向けている。避けようもない。
ショウくんのクロスボウから放たれたクォレルは、魔獣の後頭部に突き刺さり、その動きを止めたのでした。
◇◆◇ ◆◇◆
動きを止めたカーバンクルに対し、おシズさんが油断なく近付き(「残心」、というのだそうだ)、その絶命を確認したの。
「見事、だな。
連携に隙が無い。また非戦闘員であるユウとミナも、自分の役割を粛々と熟ししていた。
これなら格上相手の、もう少し時間をかけた戦いになっても、充分対処出来るだろう」
と、エラン先生のお褒めの言葉。
「敢えて難点を言えば、ヒロ。
攻撃が大雑把過ぎる。今回はシズが連撃で隙を作ってくれていたから、お前の大振りの攻撃も効果があったが、言い換えればそれだけシズに負担がかかっていたという事だ。お前も小技による連撃を攻撃に交えることを考えた方が良い。
シズ。お前は自分の技術を過信している。小技はパワーで跳ね返される。そして、腕力に劣るお前は、力比べになったら不利だ。時と場合によるが、最初から突っ込み過ぎるな。
ショウ。クロスボウのローテーションを利用した連射策は見事だが、ただ撃つだけなら3カウントで撃てるはずだ。なら、カウント5までにミナから受け取る、のではなく、手元に常に3基のクロスボウを置いておけ。場合によってはカウント無視で撃たなければならない状況もあるからな。
例えば、敵がお前たちめがけて突進して来たら? 後ろのミナとヒロを守るのは、ショウ、お前だ。ならカウントを無視してでも撃ち続ける必要があるだろう。しかし手元にクロスボウが無ければ、それも出来ない」
褒められて、少し嬉しくなったけど、すぐに駄目出しの嵐。
「だがまぁ、これが初陣だと考えれば、充分な戦果だ。初めての探索行で、カーバンクルを仕留める冒険者旅団はそうそういないぞ。実力もだが、運もある。自信を持っていい。
お前たちの場合、1人だとあまりにも未熟過ぎる。だが、残りの4人がフォローすることで、ベテラン冒険者並みのことが出来るだろう。勿論、まだまだ学ばなければならないだろうがな。
他の冒険者と同じことをする必要はない。お前たちの出来ることを、お前たちのやり方でやればいい。そうすれば、必ずお前たちの目的を果たせるだろう」
◇◆◇ ◆◇◆
カーバンクルは、小型魔獣のリーダーで、その額の宝石目当てに寄ってきた人間(冒険者)を、配下の魔獣に襲わせる。そのような噂もあるそうです。
けど、心配した他の魔獣による襲撃もなく、美奈たちは魔獣を解体し、魔石と柘榴獣石を取り(皮はボロボロだったので、剥ぐ価値が無かった)、美奈たちはこの野外実習に終わりを告げ、帰路に着いたのでした。
(2,624文字:2017/12/07初稿 2018/03/31投稿予約 2018/05/03 03:00掲載 2018/06/09誤字修正byぺったん)
*「ぺったん」は、ゆき様作成の誤字脱字報告&修正パッチサイト『誤字ぺったん』(https://gojipettan.com/)により指摘されたモノです。