第06話 ブリーフィング
第02節 リュースデイル解放戦(前篇)〔1/6〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
この、リュースデイル解放戦。三つのフェーズに分かれて作戦が進行します。
第一フェーズが、リュースデイルの住民の避難。
第二フェーズが、リュースデイルの町の要塞化。
第三フェーズが、リュースデイルの関に陣取る小鬼の駆逐と関自体の破壊。
そしてこの作戦の中核は、ボクら【縁辿】です。
第一フェーズでは、第二フェーズで使う資材をリュースデイルに輸送すると同時に、市民の避難中の野営用のコンテナハウスを運びます(なおこれは、ウィルマー新町に着いたら避難民の仮設住宅となる予定)。
第二フェーズでは、ボクらの機動要塞がリュースデイルの仮天守として機能させ、防衛拠点を確立させます。
そして第三フェーズ。リュースデイルから出撃した部隊は機動要塞を本陣として、関を北方から攻めるのです。
関は、北からの攻撃を想定していません。その一方で、その更に後方・山林部はゴブリンたちが自由に行動出来る空間です。関を守るゴブリンを、南北から挟撃するのがこの第三フェーズの概要ですが、逆にボクらが挟撃されないとも限らないんです。
だから、山林遊撃戦に慣れた人材が必要。特に、地の利があれば尚善。
そんな事情で、ベルダさんに呼集がかかったのでした。
◇◆◇ ◆◇◆
今回の作戦で、ボクら自身も覚悟を決めなければならないことがあります。
それは、『ゴブリンとどう向き合うのか』ということ。
ゴブリンは敵。それは今更変わりません。
いくらその後ろに魔王国がいるからと言っても、彼らを哀れな家畜や奴隷だと思うつもりもありません。彼らは自分の意思で人類軍と敵対している訳ですから、マキアゲリラ(と討伐軍が断定した村人たち)とも違うんです。
けれど、彼らは〝人間〟なのでしょうか。それとも〝魔物〟?
魔王国では、「意志があり、知性があり、それを伝える能力があり、そしてこちらの意思を受け取れる存在」を〝ヒト〟と定義していると聞きました。だから、ゴブリンたちもその意味で、〝ヒト〟なんだそうです。
ボクらは、出来ることなら「人殺し」はしたくありません。特に女子に「人殺し」はさせたくありません。けど、そう言いながら魔獣や野獣を殺すことには、気が咎めません。
「人殺し」はしたくない。では「ヒト殺し」は?
ゴブリンたちは敵。だから戦わなければならず、そして殺さなければならない。
でもそれは、「魔物を駆除」することなのか。それとも「ヒトを殺す」ことなのか。
他の冒険者たちのように、余計なことは考えずに『ゴブリンは魔物だから駆除』すればいいのでしょうけれど。
ボクらの立場も、『マキア独立戦争』の時とは違っています。あの時のボクらは、一輜重兵に過ぎませんでした。けれど、今回は現場指揮者。二等兵と少佐くらいの違いがあるのです。
「あんまり、気を使い過ぎることはない」
考えていたら、松村さんが。
「もう既に、覚悟は出来ている。
個人的な理由で殺し合うんじゃない。国の都合で戦争するんだ。
相手が憎くて殺すんじゃない。戦争に勝つ為に剣を振るうんだ。
殺しはしたくないけれど、これが戦争で、しかも前の時のように徴兵されたから否が応でも戦わなければならないのではなく、これはあたしたちの戦いだから戦うんだ。相手がヒトか魔物かの違いはない。敵だから斬る。敵だから射る。それだけだ。
勿論状況が許すなら殺さずに済ましたいし、殺さなければならない状況ではなるべく魔物じみた振舞いをしてくれると良心が痛まずに済むだろうけれどね」
それでもやっぱり、女子にヒト殺しはさせたくないと思うのは、ボクの我儘でしょうか?
◇◆◇ ◆◇◆
今回のリュースデイル奪還作戦。戦力は、以前のマキア独立戦争に比べて多くはありません。
理由は、相手はゴブリンと、ゴブリンが使役している魔物だという事から、対魔物戦に慣れていない一般兵を多く引き連れていっても足手纏いにしかならない、と判断されたからです。
その為、単独戦闘や小規模戦に慣れた兵士200名がモビレア領軍より選抜され、他に冒険者が50名。工作部隊として非戦闘要員の大工や鍛冶師が20名。ちなみに、輜重はボクらが全ての責任を持つという、思い切った構成です。
作戦展開としては、まず全員でリュースデイルの町に突入します。
次いでそこで第二フェーズで使用される物資を取り出し、工作部隊と兵士たち、そして冒険者の一部が町に留まって要塞化作業を開始します。
ボクらは町の住民100名程度を連れて、ウィルマーの町まで戻ります。現在リュースデイルの町の住民は600名弱、うちまともに歩くことも出来ない人の数は約200名。
取り敢えず4往復して歩ける四百名を避難させるのです。その後、歩けない二百名に関しては、回復の見込みがあり且つ本人にその意欲があるのなら五便目で連れていく。そうでなければ諦める、という事になりました。回復の見込みがないのであれば、その労力は無駄にしかなりませんし、本人にその意欲が無ければ助力する意味もありませんから。
住民の避難とリュースデイルの要塞化が完了したら、斥候からの報告を待って関に進軍。これも状況によっては250名の戦闘要員では足りなくなる恐れもありますので、住民避難の復路に増援を連れていくことも考慮されています。
また、この関を攻略する際、南側から攻略をするアルバニー伯爵領軍とも連携する必要があります。
そして、ここからはボクらの独断ですが。
関の攻略に際し、可能なら指揮官級の――不可能なら立場は問いません――ゴブリンを、殺さずに捕縛したいと思っています。そしてそのゴブリンは、こちらからの伝言を託して解放するのです。
この件はまだアマデオ殿下にも話していないのですけど、この先延々と続く戦争に物資と財貨と人材を投じるよりも、リュースデイルの町とベルナンドシティまでの通行の安全を勝ち取った方が、スイザリアにとって(そしてローズヴェルトにとっても)結果的に有利になるはずです。場合によってはカラン王国と交易することも考えられるでしょう。
ボクらは〝サタン〟と戦争します。
けど、その尖兵に過ぎないゴブリンたちと、種の存続をかけた潰し合いなどをしても虚しいだけです。
人間が「万物の霊長」を謳うなら。
賢い選択をすべきではないでしょうか。
(2,736文字:2018/07/06初稿 2019/03/01投稿予約 2019/04/02 03:00掲載予定)




