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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第五章:婚約破棄は、よく考えてから行いましょう
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第04話 女子の密談

第01節 サウスベルナンド伯爵領〔4/5〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 ……あの莫迦どもは、こっちに聞こえていないとでも思っているんだろうか?


「美奈?」

「うん、今はもうわかっているよ。虚構(フィクション)だからこその誇大表現だって」

「実物を見た事は?」

「……えへ♡」


 ――深くは追求すまい。


「考えてみれば、飯塚だけじゃなく男子には結構自制を()いているからな。多少のガス抜きは必要か」

「そうだね。でも考えてみれば、あれからもう20ヶ月以上経っていて、そのまま学校に通っていたらもう卒業って頃なんだよね。

 なら少しくらい、大人のステップを踏んでも……」

「男子が全員、飯塚のように自制を通り過ぎて悟りを開いた聖者のような貞操観念の持ち主だと思うなよ。それにその飯塚だって、(たが)(はず)れたら他の男子同様サルになるぞ?」

「そうですね。特にショウさまは小さな頃から我慢を強いられていたようですし。

 中途半端に許容するくらいなら、いっそのことちゃんと所帯を持つまでは今の状態を続けた方が良いのではと思います。

 そして私も。

 今の皆さま相手なら、寝所の世話をしても構わないかと存じますが、ミナさまとショウさまのことを考えると、そういうことはすべきではないと思います。

 逆に、シズさまはこの〔倉庫〕内では無防備過ぎる振舞いをなさいますので、少し配慮した方が宜しいかも」


 ソニアに叱られた。そういえば以前、エリスと初めて出会った頃。美奈に言われたっけ。「色んな意味で許している雰囲気が気になる」って。

 確かに、仮に飯塚に押し倒されたとしても、あたしが気にするのは美奈のことであって飯塚の行為自体じゃないだろう。そんな〝許している雰囲気〟が、ただでさえ自制を強いられている男子を刺激している、という事か。


 あたしたちは、この世界に来た当初、トイレさえプライバシーを守れない環境だった。だから、羞恥心より生命の保全を優先して、〝隠さない〟ことを選んだ。

 それが日常になると、むしろ男子相手に無防備に振る舞って不安が無いというこの関係が、快感だった。だからこそ、いっそ無防備を通り越してその視線(正確には目を逸らそうと努力しているその男子の振る舞い)が心地よかった。

 でも、その露出狂じみたあたしの行いが、男子に余計な負荷をかけているのなら。それは、迷惑行為に他ならないだろう。


「少し、考えることにしよう。

 ちなみにソニアは、これまで好きになった男とかは?」

有翼騎士(メイド)は皆、陛下のお声がかかり御手付きとなることを夢見ております。私もそうでした。

 陛下の寝所に呼ばれ、子胤(こだね)(いただ)き、お子を宿すことが出来たなら。

 それは有翼騎士(メイド)の本懐と申せましょう。


 けれど、それが恋愛感情であったのかと問われたら、やはり違うと答えます。

 ミナさまとショウさまを見ていると、ミナさまのように殿方を見つめることの出来ない自分が情けなく思います」


 これは、やはり社会と立場、生まれと教育の違いというモノだろう。

 サバンナのライオンのように、より優れた男の子胤(DNA)を女たちが共有して当然の環境。「好意を持っているけれど劣った男」と「好意は無いけれど優秀な男」を比べて、後者を選んで当然という、その在り方を、あたしたちは責められない。

 一方で美奈のように、「その優劣に関係なく、飯塚(ショウくん)でなければ嫌」というのだって、「(メス)の本能に反している」なんていう批判も的を外しているだろうし。それにこの二年で成長した飯塚は、その劣等感(コンプレックス)さえも武器に出来る程度には大人になっている。少なくとも飯塚以外の誰が指揮をしても、有翼騎士団相手に勝つことは不可能だったろうから。ならむしろ、美奈の先見の明を(たた)えるべきかもしれない。


「優れた男性の子胤を求める。それも一つのやり方かもしれませんが、ミナさまのように、好いた男性が立派に成長なさるのを支えるのも、女の生き甲斐なのかもしれませんね。


 ミナさま。

 もし将来、それこそミナさまがショウさまと所帯を持った後、私がショウさまの子胤を欲しいと申し上げましたら。

 ミナさまはお許しくださいますか?」

「うっ……

 昔なら、条件反射で拒絶出来たけど、今はそれも難しいんだよ?

 ただ子胤(DNA)が欲しいだけなら、ショウくんを愛してもいない女がショウくんに抱かれるのを許せない、っていうのは本音だけど、美奈たちの世界の〝愛〟とこの世界の〝愛〟が、同じようでいて意味も違うんだよ?


 ううん、違う。多分同じ。

 でも、日本にいた時の美奈たちがイメージしていた〝愛〟は、それがあればどんな困難でも乗り越えられるってもので、でも今の美奈のイメージする〝愛〟は、困難を乗り越える原動力(モチベーション)になるものだから。

 その意味では、美奈も武田くんや柏木くんのことも愛しているし、おシズさんやソニアのことも愛している。エリスちゃんもだよ?

 でも、エリスちゃんに向ける〝愛〟と、他の人に向ける〝愛〟は、やっぱり違うんだよ? 皆に向ける〝愛〟は、『これまで』と『今』から生まれてきたものだけど、エリスちゃんに向ける〝愛〟は、『今』と『これから』を考えるものだから。

 それと同じ〝愛〟は、将来ショウくんとの間に生まれる子供に向けるものなんだよ?


 だから。もしソニアが、自分の子供に向ける〝愛〟を考えて、その〝(みなもと)〟にショウくんの子胤(DNA)を求めるのなら。美奈はどこまで拒絶出来るかわからないんだよ?」


 それは、さっき聞こえてきた美奈と飯塚の過去の話。

 「今」の悦楽とその結果の責任を考えるのではなく、その将来に向けて、社会的なものまで含めて丸ごと包むことが出来るのか。

 美奈は、飯塚の正妻の座までは譲らないだろう。だとすると、ソニアが飯塚の子を産むとなれば、それは私生児となる。

 (ドレイク)王国はその環境でも、子育てに支障はないのかもしれないけれど、それでもやはり両親が(そろ)っている方が子供にとってより健やかな環境といえるだろう。

 なら、選んで劣悪な環境を甘受するというのであれば。それは本当に子供を〝愛〟していたのか、疑問が生じる。


 けどこれは、別にソニアだけに限った問題じゃない。あたしだってそうだ。

 今、あたしが将来のことを夢想すれば、その(かたわ)らにいるのは武田か柏木だ。けれど、そんな消去法で選ぶのは、二人にとっても失礼に当たるだろう。


 あたしたちの、恋愛問題。

 これまでは棚上げしてきていたけれど。そろそろそれとも向き合う必要があるのかもしれない。


 そして、入間氏のPCに保存されているアダルト系のデータに関しては、見て見ぬふりをすることが女子会で決定したのだった。


◇◆◇ ◆◇◆


 そんなことがあったのを、もう忘れ始めてきたころ。


「ねえねえお兄さんたち。お兄さんたちが〝ア=エト〟とその仲間たち、なの?」


 ネコ耳と長い尻尾を持った、獣人の少女が声をかけてきた。

(2,821文字:2018/06/29初稿 2019/01/31投稿予約 2019/03/29 03:00掲載予定)

・ 給水管の配置の関係から、浴室は外の音が聞こえるんです(給水管が伝声管の代わりをするから)。一方外の部屋では、浴室内の音はあまり聞こえません。ちなみに〔倉庫〕は広いのですから、浴室に音が響かない場所はあるのですが(例えば地下の厩舎などは間違いなく。そうでなくても物理的に距離を取れば大丈夫なはず)、「声を潜める」ことに対して無頓着になっていた為、そういうことを考えなかったようで。

・ 「うん、今はもうわかっているよ。虚構(フィクション)だからこその誇大表現だって」。その心は? 1.エロゲのアレが大き過ぎる。2.飯塚翔くんのアレが小さ過ぎる。3.普段のアレは小さかった。さぁどれだ!

・ 「サバンナのライオンのように、より優れた男の子胤(DNA)を女たちが共有して当然の環境」。具体的には、2019/03/23の活動報告を参照、なんだよ?

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