第03話 男子の秘密
第01節 サウスベルナンド伯爵領〔3/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
以前。
ボクらの〔亜空間倉庫〕は、水回りに大変不自由していました。
確かにボクらの〔亜空間倉庫〕は容量無限。それこそ町一つ造ることが出来るだけの資材を、いっぺんに運び込むことも出来ます。
けれど、水は。
これまでは、いちいち樽や桶に汲んで運び込む必要があったんです。そして、大量の物資をいっぺんに運び込むことが出来たとしても、「樽や桶に水を汲む」作業は、人力です。誰かに手伝ってもらったら当然対価を支払わなければならないし、自分でやったら汲める量に限度があります。お風呂に入りたいと思ったら、バレル樽に一杯汲み上げて、六人で力を合わせて運び込んで、ようやく一人分。体や頭を洗う水は、改めて用意する必要がありました。
だから、桶に汲んだ水を温めて、それでタオルを濡らして体を拭くのが関の山。女子には申し訳ないけれど、髪を洗うのは週に一度に限らせてもらいました(ちなみに男子は二週に一度。我慢が出来なくなったら――季節にもよるけれど――近くの川に飛び込みました)。
ところが、ソニアの〔アイテムボックス〕を活用した汲水と、無属性魔法動力羽根車式給水機のおかげで、水の利用に制限がなくなったのです。
ソニアの手伝いで、10人くらいがいっぺんに入れる大浴場を〔亜空間倉庫〕内に作り、その他洗い場も完備。この世界では他に見ない、シャワー付きの洗い場です。言うまでもありませんが、〝10人くらいがいっぺんに入れる〟と言っても、女子と混浴することなどはしません。「おっきなお風呂で気兼ねなく手足を伸ばしたい」という女子のリクエストを聞いたら、このサイズになっただけのことなのです。
一回の入浴に、ざっと数トン単位の水量を使うことになるのでしょうけれど、それでも現在の〔倉庫〕内の貯水量を考えると、微々たるもの。しかも、ソニアは汚れた水を浄水する魔法を、当たり前のように使えるのです(魔王国のメイドが最初に学ぶ魔法のひとつだとか)。その為、〔倉庫〕内で水を循環させるシステムも作り、またトイレ用の水(使い捨てられるトイレットペーパーがないので、お尻は水と手で洗います)も風呂の上り水を活用することで、節水も考えているのです。
そして、そんな大きなお風呂だから。女子は(エリスも含めて)四人で一緒に入浴します。結果、〔倉庫〕内の生活空間には、現在、男子だけ、となるのです。
◇◆◇ ◆◇◆
「で、武田。報告してくれ」
「はい。まず、タブレットには動画と画像が多数。うちアダルト系は、システムフォルダ内に隠しフォルダを作っていました。ハードディスク内検索のやり方を知らない人相手なら、隠し通せるでしょう」
柏木くんに依頼されて確認したのは、入間史郎氏のノートPC並びにタブレットPC内の、〝女子に見せる訳にはいかない〟危険なデータについてです。
「また、ノートPC内のゲーム。同じくアダルト系は隠しフォルダを作っていたようですが、ショートカットを作成していては意味がありません。
けど、ショートカットの作成日時が、『平成32年』となっていました」
「平成32年って、バグっているってことか?」
「否、妥当なタイムスタンプです。
入間氏が地球時間で七年前にこの世界に来て、それから七百年〔状態保存〕で中身が凍結され、〝魔王〟がこれを受け取って、何らかの方法で給電して使えるようにし、そして今から約20年前にこのショートカットを作成した、ということになるんです。
ちなみに、PCの内部時計の指し示す暦は、平成51年ですから。
現実的には、内部バッテリーが二十年も持っているってことに理論的整合性が取れませんけれど、その辺りは〔状態保存〕の魔法が何らかの作用をしているのでは、と思います」
「だけど、だとするのなら。
そのショートカットを作ったのは、〝魔王〟、ということになる。
〝魔王〟が、王妃様たちに隠れてギャルゲーをやっていた、という事か?」
ノートPCの時間経過等を話したら、飯塚くん。それはそういうことになります。
「多くのゲームのセーブデータの最新日時は平成51年ですから、おそらくつい最近までやっていたんですね」
「……お妃さまが何人もいて、女性の方が望んで御手付きを求めるという立場にいながら、ギャルゲーに熱中する〝魔王〟。イメージ崩れまくりだな」
柏木くんも、頭を抱えています。
でも。このPCのタイムスタンプの中には、ちょっとあり得ないものもあったんです。
「ただ。一つ気になるのは、そこにある戦略美少女シミュレーションゲームです。
プレイ時間が、5万時間を超えていました。これは、セーブしたその日時を記録するタイプではない為、最新のセーブデータのタイムスタンプは不明です。けど、5万時間超という事は、一日24時間ずっとゲームしていたと仮定して、6年近くかかります。
二十年間でこのプレイ時間を記録したとなると、毎日6時間以上このゲームをしていたことになります。いくらなんでも、〝魔王〟陛下には不可能でしょう」
「それが出来るのは、二十年間〝ニート〟を続けていた人だけ、という事か」
「やっぱり飯塚くんもそう思いますか? でも、こういうゲームって、女性でも楽しめるものなんでしょうか?」
「別に不思議じゃないだろう? うちの叔母さんも同じゲームをやっていたし」
「……飯塚くんは、どうしてそれをご存知で?」
「俺と美奈も一緒にプレイしたから。」
「当時、お二人はまだ小学生だったはずですが?」
「美奈は興味津々だったな。『ショウくんもおっきくなったらあんなにおっきくなるの?』って聞かれたけど、『虚構と現実を一緒にするな』って窘めておいた」
「――本当に、お前はエリスの兄姉を作っていないんだろうな?」
柏木くんの懸念も深刻さを増します。はい、不純な交友をして、責任を取らなければならない事態になっていたとしても、全然不思議ではない環境にしか見えません。
「その辺りは俺の自制心を褒めてほしいくらいだな。
一体どこの小中学生が、ガールフレンド相手に、子供の立場から見た親の年齢に対する世間の目を諭すんだよ? 相手は抵抗しないどころかウェルカムなんだぞ? 隙を見せたら逆に襲われかねない環境なんだぞ? そして周りの大人たちは年齢問題で一言言うくせに、そういう関係になること自体は反対していないんだぞ?
どんだけ験されていると思う?」
もしボクが、同じ環境なら、耐えられない自信があります。
「まぁそれはともかく、そのPCにインストールされているゲームは、プレイ済みだから俺は必要ない。というか、叔母さんの猥談と美奈の好奇心に基く質問攻めを思い出すから、逆に興奮しない。
画像と動画は、――史郎さんは年上好みのようだな。俺の嗜好とは合わないから、そっちも気兼ねする必要はない」
「史郎兄さんは、お前とは違って幼女趣味はねぇよ」
柏木くんもツッコミを。エリスがストライクゾーンに入るのなら、巨乳お姉さんは確かに飯塚くんの趣味じゃないでしょうね。
(2,990文字:2018/06/29初稿 2019/01/31投稿予約 2019/03/27 03:00掲載予定)
・ 当たり前ですが、アダルトゲームを未成年にプレイさせてはいけません。ましてや小学生カップルと一緒にプレイするなんて言語道断です。また、如何にニート(世間一般にそう呼ばれる存在)でも、一日7時間近く二十年間毎日プレイし続けることはさすがに不可能(充電に要する時間もあるし)。この場合疑うべきは、〝ニート〟妃殿下が時間軸を歪めてプレイしていた可能性。分身作ってプレイしていた可能性もない訳じゃないですが、魔王陛下がPCを使うタイミングというのもあったはずですから、時間が歪んでいたという可能性が最有力。
・ 『子供同士でも、愛さえあれば』とは言いますが。生まれた子供が小学生になった時、その親が高校生・大学生だったら、やっぱり好奇の視線に曝されるでしょう。その子供のことを考えたら、親の側も一定の年齢に達するまでは、子作りすべきじゃない。って、こんなことを考える男子小学生って、どこかおかしいですよね?
・ 飯塚翔くんにとって、モビレア公女アドリーヌ姫は既に「年増」の年齢域に突入しているという可能性も、微レ存? 否、彼女は「妹」枠です。




