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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
断章:魔王とギルマス・2
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断章04 査問会(前篇)

断章 魔王とギルマス・2〔1/4〕

◆◇◆ ◇◆◇


 (ハティス)暦20年((カナン)暦724年)の末。ドレイク王国では、有翼騎士団内で二つの事件が明るみに出た。

 ひとつは、有翼獅子(グリフォン)の調教法が外国(リングダッド)に流出したというモノ。

 もうひとつは、隊の一部が独断専行の挙句他国(スイザリア)の民間の冒険者に攻撃を行い、結果一方的に敗北したというモノ。


 しかも、後者に関して攻撃を受けた冒険者は、現地の独立騎士を通じて前者の事件の解決を依頼した冒険者であり、騎士たちを打ち負かした挙句、その騎士たちに犯人の護送を依頼してきた始末だったのである。これは恥の上塗りどころの話ではない。その冒険者がその事実を吹聴してまわったら、王国の権威が失墜するレベルの失態だ。

 だからこそ。この部隊を指揮した有翼騎士テレッサは、国王臨席の査問会でその失態を追及されることになったのである。


◆◇◆ ◇◆◇


「ではまず、有翼騎士テレッサ。此度(こたび)の一件を、改めて報告しなさい」


 査問会を取り仕切るのは、二つある有角騎士団の一方、〝紅の有角(レッド)騎士団(ホーン)〟の団長であり、第二王妃でもあるルビー=シルヴィア・ローズヴェルト女公爵。


「はい。陛下に刃を向けんとする冒険者を確認しました。

 その者たちは、ローズヴェルト王国ベルナンド(シティ)で起こった事件の中心人物であり、その決着の手際(てぎわ)から、その戦闘力よりその在り方が、放置すると危険だと判断しました」

「その判断は、誰が行いましたか?」

「はい。私が行いました」

「つまり貴女は、陛下の命を(おびや)かしかねない冒険者の処遇を、誰にも相談せず、自分一人で判断し、挙句その判断に基づいて隊の出動を決定した、という事ですか?」

「は、はい。そうです」

「この時点で、独断専行と国軍戦力の私用目的での濫用(らんよう)が、ともに成立しますね。

 当時の貴女の任務は、あくまでもベルナンド(シティ)との連絡役であり、陛下の護衛でも敵要人の暗殺でもありませんでした。陛下の命を脅かす存在を確認したら、貴女の立場ですべきことは、それを一刻も早く本国に報告することだったはずなのですから。

 すべき報告をせず、連絡も怠り、誰とも相談せず自分の中で判断し、挙句自分の考えに基づいて隊を動かした。

 騎士位の剥奪(はくだつ)(まぬが)れません。わかっていますね?」

「はい」


「次の質問です。

 その冒険者たちには、独立騎士ソニアが随行(ずいこう)していたはずです。

 にもかかわらず、その冒険者たちが陛下に(あだ)()す存在だと判断した理由は何ですか?」

「独立騎士ソニアは、もし彼らが陛下にその刃を突きつけるのであれば、一番槍は自分だと声高らかに宣言しました。

 独立騎士ソニアが、彼らとともにいた理由は存じません。が、その時点で独立騎士ソニアは、国に(そむ)き向こう側に付いたと判断しました」

「何故、独立騎士ソニアの任務を確認しませんでしたか?」

「どのような任務であれ、それが陛下に刃を向けることを()とするものではないと考えました。この件に関しては、今でも考えは変わっていません」


「だがそれこそが、(われ)がソニアに直接与えた任務だ。彼らを、我が前に立つに(あたい)する戦士となるように導け、と」


 テレッサの答えを聞いて、アドルフ王がそれを否定した。その『あり得ない』ことこそが、正しく任務。しかも〝勅命(ちょくめい)〟であった、と。


「有翼騎士テレッサ。其方(そなた)(われ)が定めた、我が国の王位継承のルールを知っているはずだ。つまり彼らは、とある理由により、王太子候補の一人になっているという事だ。その〝理由〟までは告げられないがな。

 だが、その意味でも。

 其方の行いは、王位継承試練に対する干渉。王権に対する叛逆(はんぎゃく)看做(みな)すことも出来る」


 さすがにこの事実は、テレッサは予想も出来なかったようだ。

 まず驚愕(きょうがく)し、次いで自身の行いの意味を理解して顔色を変えた。


「続けましょう。

 貴女はその冒険者たちと戦う為に、如何(いか)なる戦力・如何なる装備を申請しましたか? そしてそれが必要と断じた理由は何ですか?」

「……有翼騎士12騎。並びに、各員それぞれ〝ヴォルケーノ(20mm)〟とその弾丸2発、焼夷弾(ナパーム)2発、爆弾(マイト)6発、です」

「たかが冒険者5人と独立騎士1人に対し、過剰戦力だとは思いませんでしたか?」

「思いました。けれど、独立騎士ソニアを相手にすると考えると、過剰なくらいで丁度いい、と思いました」


「ではそれだけの戦力を投じて、その結果どうなりましたか? 戦況の推移を時系列に従って報告しなさい」

「はい。最初に、ヴォルケーノを撃ち込みました。距離おおよそ200m、その時の対地高度約30mでした。初弾は命中しませんでした。

 直後、彼らが騎乗していたはずの馬は消えました。それから徒歩で、彼らは逃走を始めました。

 彼らは短距離の転移を繰り返しながらの逃走でしたが、短距離ゆえに全体の速力はグリフォンのスピードの比ではありませんでした。転移をしながらの逃走でしたから、ヴォルケーノによる命中弾は期待出来ないと判断し、攻撃の主体を爆撃に切り替えました。

 しかし、高空からの爆撃は、投下と同時に転進することで回避され、低空からの爆撃は、独立騎士ソニアの〝ドラグノフ(12.7mm)〟に迎え撃たれました。

 独立騎士ソニアのドラグノフは、通常携行用の単発式のはずでした。けれど、何故かほぼ間を置かずにそれを連射して来たので、接近することが危険だと判断し、距離を置いて追撃することとしました」


「ちょっと待ちなさい。有翼騎士のドラグノフで連射? そんなことあり得ないでしょう?」


 口を開いたのは、シンディ・ドヴェルグ・ナーギニー女公爵。国際外交の舞台ではその立場で振る舞うことはないが、(れっき)とした王妃殿下だ。


「〝黒影部隊〟に、シリンダー式の連発型ドラグノフが試験配備されたという話を聞いたことがあります。ですから、独立騎士ソニアの(ほうき)にも、そう言ったシリンダーがあれば不思議には思わず、むしろ警戒したと思います。

 ですが、少なくとも見た目の印象は、通常型の箒でした。ですから、連射出来たその理由は想像もつきませんでした」

(2,600文字:2018/06/17初稿 2019/01/31投稿予約 2019/03/15 03:00掲載予定)

・ ドレイク王国は、その王位継承に血縁を重視しません。だから一定の条件を満たす事が出来たなら、誰であれ「王子」(王位継承候補者)になれるんです。そしてその「王子」のうち、一定の試練を突破する事が出来たら、「王太子」(次期国王)候補となります。もっとも、これまで「公子」「公女」(王妃の子女)以外にそれに相応しい人物がほとんどいなかったことも事実ですが。といっても、これまでで最も王太子に近いのは、旧フェルマール王子であるムート子爵と謂われていました。飯塚翔くんが「王子」となっている理由についての詳細は、第六章をお待ちください。

 とはいえ多くの国民はそう簡単には血縁信仰から脱却出来ないので、飯塚翔くんは「魔王陛下の落し胤(おとしだね)」と、彼の事を知る者の更に一部(ソニア含む)からは理解されています。それが事実であっても誰も不思議には思わないくらい、魔王陛下はあちらこちらに(たね)()いているという話も。

・ 「黒影部隊」とは、昔「特務部隊」と呼ばれていた、諜報と暗殺を任務とする部隊です。また、スイザリア王国王都スイザルに駐在していた〝影〟は黒影部隊所属です。

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