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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第44話 王子の決断

第07節 王家骨肉〔4/4〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 この三日間でオレたちが知った事は。スイザリア王族の、王城にある隠し通路の使い方だった。

 王子たちは王城にある隠し通路の全てを知っている訳ではなく、けれど自分の知っている通路がその全てだと思っているらしい。ちなみに国王の私室に通じる隠し通路は、通路側からは開かなかったり、無理矢理開こうとすると(わな)が作動するようになっていたりしている。通路側から開く事が出来る隠し通路の所在は、どうやら王子たちは知らないようだ。

 王太子の手の者が使う隠し通路と、アマデオ王子がお忍びの為に使う隠し通路は違い、だから隠し通路の中で偶然ぶつかり合うという事は起こらないようだ。

 これは(すなわ)ち、王子たちは自分たちがその隠し通路の存在を知った理由、その情報源の精査が不足していることを意味する。つまり、〝誰か〟が敢えて、理由があって、そしてその通路を選んでそれぞれの王子たちに教えていた、という事なのだから。


 そんな事を知り得た理由は、当然髙月の〔泡〕だ。粘着性の〔泡〕を付けたアマデオ王子の侍女(じじょ)と、同じく先日敢えて泳がせた間者(かんじゃ)。それぞれが使う通路が違っていたことから、それがわかったという訳だ。ちなみに、国王の私室から操作して、その通路内の罠を発動させることも出来るらしい。敵による侵入者対策か、王子たちが謀叛(むほん)を起こす可能性を考慮しているのか、その目的は不明だけど。


 そう。当然と言おうか一周廻って意外と言おうか、例の間者は王太子の手の者だった。そしてこの三日間、オレたちの周りにも王太子の密偵が出没し、オレたちのことを探っているようだった。


 だから。オレたちは、勝手な都合で取引の場所を変更することにした。

 オレたちの周囲の密偵を、雑踏(ざっとう)を利用した〝ゼロの転移攻撃〟で()き、再捕捉されないうちにその包囲の輪の外に出て、隠し通路から出た直後の侍女(じじょ)(つか)まえて会合場所の変更を告げた。


◇◆◇ ◆◇◆


「……いや、優秀にも(ほど)があるだろう。この短時間で、キミたちはどこまでの事を知り得たんだい?」

「殿下は自身を〝放蕩(ほうとう)王子〟と自嘲(じちょう)なさっておいででしたが、見る目のある者が見れば、その聡明さは隠しきれていません。『隠しきれない』というところが、現在の殿下の限界なのかもしれませんが」


 ここは王城ではなく、王子もその身分と立場でオレたちの前にいる訳じゃない。だから、最低限の礼儀を守ったまま、作法は無視して松村は言葉を(つむ)ぐ。


「耳が痛いね。こちらの情報は全て王太子(あにうえ)側に筒抜けで、一方こちらは王太子(あにうえ)側がどこまで知っているのかさえ知らない。

 王太子(あにうえ)は善人とは言えず、腹の黒い人だけど、それだけに多くの事を知っているのかもしれないな」

「『フェルマールが滅びたのは、善良な王家ゆえ』と申します。統治者が善意を(もっ)て家臣を見守れば、家臣はその信頼を盾に悪行に走る、と。王者は家臣から(おそ)れられるくらいが丁度いいのではないでしょうか」


 珍しく、ソニア。何だかんだ言って、〝魔王(サタン)〟に思うところがあるのか?


「畏れられるくらいが丁度いい、か。だとすると、確かに王太子(あにうえ)は王者の(うつわ)だな。そして、私と王太子(あにうえ)は、並び立てない」


 それは、確かにそうかもしれない。アマデオ殿下が次期国王になれば、王太子殿下はアマデオ殿下の寝首を()くだろうし、王太子殿下がこのまま即位すれば、優秀過ぎる弟君は濡れ衣を着せられて投獄・処刑の一方通行。

 アマデオ殿下がそれを避ける為には、王太子殿下と彼を支える貴族たちを、一斉に粛清(しゅくせい)しなければならない。けれど、王太子殿下を支える貴族たちは、同時に王国の重鎮(じゅうちん)でもある。兄弟の骨肉の争いの結果、王国の屋台骨が揺らぐようなことを、国王陛下が許すはずがない。

 つまり。その「王国の屋台骨を支える重鎮貴族」の多くを味方につける事が出来なかった時点で、アマデオ殿下の敗北が確定していたという事だ。


 多分。(ドレイク)王国から盗み出された「有翼獅子(グリフォン)調教法」。それは、そう言った現状を打破する為の、乾坤(けんこん)一擲(いってき)の策だったのだろう。もっとも、それを知っていたはずの王太子殿下が動かなかったところを見ると、仮令(たとえ)アマデオ殿下がそれを手にする事が出来たとしても、どの程度状況が動いたかは不明だが。


「実は、私には縁談が来ている。その相手は、モビレア公女アドリーヌ嬢。

 実質的には婿入りの形になる。臣籍(しんせき)降下だな」


 アドリーヌ公女は、年が明けたら12になる。アマデオ殿下との歳の差、11。

 現代日本なら、色々問題になる年齢だが、貴族の結婚ならそれくらいが妥当なのかもしれない。もっとも、貴族は16で成人と看做(みな)されるから、結婚まではあと4年待つ必要があるだろうけれど。


「だけど多分、これが唯一、私が生き延びる道だろう。

 そして、この縁談が国民にとって兄弟骨肉の争いの結果の(みやこ)落ち、と映らないように、モビレア公からの要請が利用されることになる。

 つまり、南東ベルナンド(ハティス)地方の防衛、『対〝サタン〟包囲網』が、だ。

 その最前線指揮官として、第二王子アマデオを派遣すれば、国民の士気は雲の上まで上がるだろう。そしてそのまま、スイザリア西部方面の各作戦の指揮を(にな)う。

 それが国王陛下(ちちうえ)の描くシナリオだという事だ」


「そうですか。でしたら、此度(こたび)の取引は、殿下がモビレアに来てからとした方がいいかもしれませんね」


 と、飯塚。だが、何故?


「ドレイク王国は、一定量の情報の流出は織り込み済みのようです。なら、上手く取引をすれば、リングダッド王国が入手出来た程度の情報なら、正規のルートで取得することも出来るかもしれません。

 その結果は、アマデオ殿下が王都に返り咲く道を断絶する形になるはずです。今以上に力を得る殿下のことを、王太子殿下がお認めになるはずがありませんから。その一方で、王太子殿下がモビレアに来たアマデオ殿下を処するには、物理的に距離があり過ぎ、また力に差があり過ぎます。

 『遠交(えんこう)近攻(きんこう)』と申します。これは国際外交の考え方なのですが、国の平和と安定の為には、遠くの国とは仲良くし、近くの国には軍事的な圧力をかけろ、という意味です。

 同じ考え方を当て()めれば、アマデオ殿下と王太子殿下は、距離を置いた方が仲良く出来るのではないでしょうか」


「国際外交を、王家の人間に指南する、平民の冒険者。やはり、そんな存在が増えたら(たま)らないな。

 だが、この〝縁〟。私自身の未来の為に、有効に使わせてもらうことにしよう」

(2,828文字:第四章完:2018/06/17初稿 2019/01/31投稿予約 2019/03/13 03:00掲載予定)

【注:「遠交近攻」は、〔兵法三十六計〕の第二十三計に当たります。ちなみに〔兵法三十六計〕の著者は中国六朝時代の宋の将軍檀道済です】

・ モビレア公が要求した予算の増額は、アマデオ殿下の婿入りの持参金代わりとして供出されます。

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