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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第41話 王子様への土産話

第07節 王家骨肉〔1/4〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 第546日目。美奈たちは、王都スイザルに戻ってきたんだよ。

 そして、戻ってきたその足でお城に向かい、アマデオ殿下への謁見を申し込んだの。

 けど、前回登城(とじょう)した時には、美奈たちの身分証明としてモビレア公の紋章入りのブローチと王家の紋章入りの短剣を渡したけど、今回は〝ア=エト〟の名前だけ。短剣は(美奈たちの持ち物じゃないけれど)前回渡したっきり美奈たちの手元には戻ってきていないし、ブローチは戻って来たけど今回は使わなかったの。

 その理由は、今回美奈たちが会う相手が、王様でも王太子様でもない、第二王子のアマデオ殿下だという事と、今回の用事はアマデオ殿下が「会う必要もない」と判断()されたのなら、それ以上美奈たちが面会を求める理由もないから。


 そして宿に入って、また身支度をした翌朝。

 馬車で王城に向かったの。


 前回同様、待合室に通されたけど、今度は腰を落ち着ける間すら置かずに呼び出されたんだよ?

 そして、行った先は、当然国王陛下の謁見の間、ではなく、その他の王族用の謁見室でもなく、アマデオ殿下の私室だったの。


◇◆◇ ◆◇◆


「よく来てくれた、〝ア=エト〟、ショウとその仲間たち。

 この月が一巡りする(ひとつき)間の、キミらの冒険譚、聞かせてくれ」


 美奈たちは、アマデオ殿下の子飼いの冒険者じゃなく、またその依頼を請けた訳でもない。だから、殿下は「旧知の冒険者から旅の話を聞く」という体裁(ていさい)を保たなきゃならないんだっておシズさんが言っていた。

 王子様の私室には、当然監視部屋なんかはないけれど。

 侍女(じじょ)さんや侍従(じじゅう)さん、使用人さんたちは同じ部屋にいる。

 そして、アマデオ殿下は「第二王子」。つまり、「王太子殿下のスペア」。

 その立ち位置だけで政敵はいる(それが誰かは敢えて言わないけれど)し、仮令(たとえ)アマデオ殿下に野心が無くても、〝殿下の政敵〟に(くみ)する貴族の誰かが、密偵を殿下の(もと)に派遣していないとも限らない。

 だから、下手な情報を()らしたら、殿下の立場が危うくなりかねないの。


 前回は、王様の謁見の後に立ち寄っただけだし、そもそも殿下が美奈たちに依頼したい内容なんか〝政敵〟さんもお見通しだったと思うけど、その結果は殿下だけじゃなく〝政敵〟さんもまだ知らないはずだから。


 とはいえ美奈たちは、このスイザリアの政治的勢力図なんて知らない。誰がどの立場で、何を言ったら誰を利するのかなんて、想像もつかない。

 だから、現状は当り障りのない話をするんだよ。


「実は、北のゲマインテイル渓谷を見てきたんです」

「ほう、ゲマインテイルを。何故そんなところに興味があったんだ?」

「はい。ゲマインテイル地方は、リングダッド王国とローズヴェルト王国の間にありながら、どちらにも属さない地域だと聞きました。そしてどちらの国も、その地方に食指を伸ばさないことで、結果的に安定している。

 (いく)つかの国境紛争を目の当たりにした立場から、敢えて戦わないことで安定を(もたら)すその在り方に、興味があったんです」


「戦わないことで、安定を齎す、か。王族としては、耳が痛いな」


 今のショウくんの言葉は、戦争をして周辺地域を平定している国家に対する、或いは兄弟同士で骨肉の争いをしている王家に対する皮肉にも聞こえます。


「必ずしもそうとは言えません。

 隣接する国どちらにも与しない。そう言えば聞こえはいいですが、変化を拒絶する閉鎖性が、あの地方にはありました。

 その気になればローズヴェルトの文化とリングダッドの文化、その両方を取り入れて、新たな独特の文化を生み出すことも出来たでしょうに、余所者(よそもの)の前に戸を閉ざし、表面上の友好だけで変化を望まない。結果として、ゲマインテイル地方は、文字通りの〝辺境〟になっているんです。

 ゲマインテイルの平安は、その渓谷の両端がそれぞれ別の国であり且つその両国が不和であるという前提の上で成り立っています。

 もし、ローズヴェルトとリングダッドの間で、仮初(かりそめ)でも友好が約されれば、ゲマインテイルという集落は、あっという間に時代に取り残されることでしょう」


「そうか。キミは平民の冒険者のはずなのに、政治家の視点を持っているんだな」

「まだ勉強中の身です」

「政治を学ぶ平民。そんなのが何処(どこ)にいる?」

「この世界では、どうやら北に。

 それがもっと増えれば良いと思いますが」

「冗談じゃない。キミのような平民が増えたら、王族の居場所がなくなってしまうよ」


 美奈たちの知る歴史では、王族などの特権階級は、最後には平民に滅ぼされます。それが良いことなのか悪いことなのかはわかりませんけど、それが時代の流れだということは間違いないと思います。そして、美奈たちの生きている現代日本は、確かに不満はあるでしょうけれど、おおむね自由で平和な国。なら、多分それは良いことだったと思います。

 けど。だからといって、この世界やこの国の未来を、それこそ余所者に過ぎない美奈たちが指図(さしず)して良いとは思えません。


「大丈夫だと思いますよ。仮令(たとえ)平民が多くを学び多くを知っても。

 それは、王家の偉大さを再認識する結果にしかならないでしょうから」


「それは、()め言葉と受け取っておこう。平民が王族を褒めるなど、普通に考えたら不敬だが、キミの言葉はそんな風には聞こえないからな。

 だが、国王(ちちうえ)の前では言うなよ?」

「口が過ぎました。殿下のお耳でお留め置き(いただ)けましたこと感謝申し上げます」


「それで、キミらはこれからどうする?

 もうすぐ新年だ。町も新たな年を呼び込む為に(にぎ)わっている。

 もしキミらに、急ぐ予定が無いのであれば、新年の祭りを見物して行かないか?

 特に町の南の(はず)れで開かれる屋台市は、一見の価値があるぞ」

「有り難うございます。では祭りに賑わう町並みをのんびり見物してから、モビレアに帰ることに致します」

「それが良い。そうだ、南の屋台市に行くのなら、そこにちょっと面白い石細工を扱っている店がある。その店にある、双子石(・・・)が素晴らしいんだ。店主に言わないと、見せてくれないかもしれないけれどね」

「是非見せていただけるよう、店主に交渉することにします」

「それが良いだろう。


 さて、そろそろ私は次の用事がある。

 〝ア=エト〟、楽しい話を有り難う」

「こちらこそ、お時間を()いていただき光栄に存じます。

 では、御前失礼致します」


◇◆◇ ◆◇◆


 お城を辞去した美奈たちは。


「さて、次は宿探しだな。あまり高い宿に連泊するような勿体無い真似は出来ないし」

「で、祭りが始まるのを待って、南の屋台村で石細工を扱う店を探し、双子石を見せてもらう、か。

 王子様ってのも大変だな」


 そう。最後の話は、アマデオ殿下子飼いの密偵との連絡方法。多分もうワンステップかツーステップあるでしょうけれど。

 それでようやく、話が出来るようになるのです。

(2,863文字:2018/06/15初稿 2019/01/31投稿予約 2019/03/07 03:00掲載 2019/03/07脱字修正)

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