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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第37話 〝最強殺し〟

第06節 最強殺し〔5/8〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


「0!」


 それに気付いた瞬間、俺はとっさに振り向いた。

 と同時に響く、美奈の0(コール)


「今のは、一体?」

「確認出来た。上空に、有翼獅子(グリフォン)の群れ。

 その背に、人間――女性――を乗せていた。

 その女性が放った、〝何か〟。発砲音が遅れたという事は、その弾速は音速超え。

 以前見たガトリング機関砲のサイズを考えると、はるかに洗練されていると思える」

「でも発砲音は、爆発音じゃなく破裂音。ガトリング銃のような火薬式じゃなく、『エンデバー号』の艦砲のような、ガス銃ですね」


 俺が確認した内容を、武田が補足する。

 相手の正体など、聞くまでもない。有翼(グリフォン)騎士(ライダー)(ドレイク)王国の有翼騎士団だ。


「ソニア。ソニアのことは信じているけど、確認させてくれ。

 これがはじめからの計画、か?」

「違います。少なくとも、私の指揮系統には、そのような目論見はありません。

 おそらくあの隊は、別の指令を受けているか、何かの間違いか、或いは独断か。

 どちらにしても、陛下の指示ではありません」


 だが、事実を確認する為には、会話をする必要がある。

 けれど、有利な上空を占めている有翼騎士が、わざわざ地上に降りて来るか?


「ねぇ、ショウくん。美奈は、あの先頭にいるグリフォンに(またが)っている女性、見覚えあるよ?

 あの日、ベルナンドシティの門番に留置された時。ソニアに会いに来た騎士(メイド)さん、だよ?」

「テレッサ、ですね。だとすると……」


 美奈から貴重な情報。相手を特定出来るのなら、そこからプロファイリング出来る。


「その、テレッサという騎士は、どんなタイプだ?」

「一言で言えば、盲目的な陛下至上主義者、です」


 ……うわ、厄介(やっかい)だ。

 しかもあの時、ソニアはテレッサに対して「俺たちはドレイク王に対する刺客だ」と言ってしまっている。

 その上で、今回の襲撃となると。有無を言わさず俺たちを殺し、その存在を抹消するつもりだろう。また、テレッサはソニアの実力も知っている。なら、わざわざ自分たちの有利を捨てて地上に降りてくることもあるまい。多分、必勝不敗の戦法を(もっ)て、俺たちを攻撃する。


「ソニア。有翼騎士団には、複数の〝最強殺しの戦術〟がある、んだよな?」

「え、はい。それは――」

「高空からの、飽和爆撃。或いは、通常の飛び道具の射程外から超音速の狙撃。またはそれらの応用。そんなところか」


 有翼騎士団が機関銃等を所持している可能性は考慮する必要はない。何故なら、グリフォン上で使用出来るほど小型・軽量・小反動の機銃が完成しているのなら、カラン(ゴブリン)王国のゴブリンたちはリュースデイルの(せき)でそれを使用していただろうから。


「……、おっしゃる通りです。何故?」

「想像ついたかって? 空軍による、対地攻撃の必勝パターンだよ。

 だけど、ひとつ勘違いしている。

 〝最強殺しの戦術〟は、弱者が使って初めて意味を持つ。

 何故なら、〝最強殺し〟が意味を持つのは、相手が『絶対に勝てる』と信じたその状況でだからだ。

 そして、空軍は陸軍に対して圧倒的に有利だ。通常、空軍が陸軍に対して負けることは想定し(づら)い。

 なら、見せてやろう。本当の〝最強殺し〟を」


「って、飯塚がそれを言うのか? たいして強くもないくせに」


 ちょっと格好付けてみたら、早速(さっそく)松村さんのツッコミが。


「普通に戦ったら勝てないよ。当然だろ?

 だけど、戦場と戦法で、その〝当然〟を(くつがえ)す。それこそが、〝最強殺し〟だ」

「でも、『あそこ』までかなりの距離があります。『あそこ』に辿(たど)り着くまで、ボクらはグリフォン相手に生き延びる事が出来るとは、普通思えません」


 俺の考えを理解している武田は、けれどその場所までの距離を不安材料に掲げた。

 そう。ゲマインテイル渓谷。あそこでなら、地に足を付けていながら、グリフォンの飛翔高度に手が届く。


「繰り返す。その〝普通思えない〟ことが、〝最強殺し〟を実現する(かぎ)だ。

 具体的には、走る。全力で、ね」

(いや)、走っても無理だろう。追い付かれるし、音速の弾丸からは逃げられないぞ?」


 柏木のツッコミ。だが、果たしてそうか?


「まず、対ライフル戦術。どれだけ早くても、狙撃手(スナイパー)は狙いを定めてから弾丸が飛び出すまで、約1秒かかる。それは、『認識』『判断』『行動』のタイムラグだ。だからこそ、一流のスナイパーは、1秒後の標的の未来位置を予測してそこを撃つ。

 そして、100mを20秒かかる人でも、1秒あれば5m移動出来る。だけど弾丸を(かわ)すには、1mで充分だ。相手の未来予測を1m以上ずらしてやるだけで、もう当たらない」

「簡単に言うけれど……」

「俺たちにとっては、簡単だ。秒単位で〔倉庫〕を開き、〝ゼロの転移〟で数メートル単位の瞬間移動をし、更に〔倉庫〕開扉前とは走る針路をランダムに変えれば、もう未来位置の予測は不可能になる。

 そして、今『100mを20秒』という例を出したけど、その結果『1秒あれば5m』というのは、あくまで平均速度だ。人間の足の速さは動物の中では遅い方だけど、それでも数秒単位で転移を繰り返せば、上空からの狙撃を翻弄(ほんろう)し続けることは、出来る。


 加えて、ソニア。あの銃撃は、どれくらい続けられるんだ?」


 弾切れのリスクは、地上部隊より航空戦力の方が致命的だ。


「装弾数は、2発です。それ以上の連射は不可能です」

「なら更に簡単だ。美奈、相手の発砲音を、カウントし続けろ。俺たちは長期戦を想定しているけど、向こうは短期決戦のつもりだろうから、序盤でかなりの弾数を消費するはずだ」

「うん、わかった」

「他に、追尾式ミサイルのようなものはあるか?」

「つい……、なんですか?」

「知らないなら良い。問題ない」


 そして、対高空爆撃。


「爆撃に対しては、前方上空だけ相手にすればいい。そして前方上空からの爆弾の投下に関しては、投下してから着弾まで、普通に考えて10秒くらいはある。

 進路を変えて、爆風圏から逃れることは出来る、と思う」

「出来る、か?」

「相手が核兵器や気化爆弾を持っていたら、何をしたって勝てないよ。

 だけど、この世界の航空戦力が、そこまで武装する必要あると思うか? それも、都市や城砦(じょうさい)攻略じゃなく、個人に対する暗殺戦で、だ」


 柏木の不安も、一蹴。そもそも、爆弾だってどれだけ使用するかはわからない。どう考えても、人を5-6人殺すのに、絨毯(じゅうたん)爆撃していたらコストパフォーマンスが悪過ぎる。


「外界で、多分4時間以上全力疾走することになる。勿論(もちろん)数秒単位で〔倉庫〕を開いて休憩するけれどね。

 普通の人間は、それだけ長時間全力で走り続けることは出来ないし、加えて有翼騎士団も、そんな長時間戦闘を続けた記録はあるか?」

「……ありません」

「グリフォンのスタミナがどの程度かは知らないけれど、騎士の方が先に(つぶ)れる可能性もあるな。

 場合によっては、ただ逃げるだけで連中が勝手に潰れるかもしれない」


 小鬼(ゴブリン)が地形と戦術で恐ろしい敵になるように。

 弱者が頭を使って戦うとどうなるか。

 〝死を運ぶ魔女〟たちに、学んでもらうとしよう。

(2,958文字:2018/06/13初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/27 03:00掲載予定)

・ ゼロスタートでも、どんなに鈍足でも。1秒あれば、3mは移動出来ます。つまり、未来予測不可能な移動が出来るのなら、その〝1秒〟で、充分狙撃を回避出来るんです。

・ 飯塚翔くんたちの現在位置から、ゲマインテイル渓谷の決戦予定地点までの距離、約50km。最後の10kmは、山道(既に雪が降り積もっている)です。

・ 10mダッシュ×5,000本。〔倉庫〕内で〔再生魔法〕で筋肉疲労を解消出来、食事も休憩はおろか睡眠も採れるとはいえ、かなりハードになることは予想出来ます。と言うか、運動量よりクリアするまでそれを続けることの精神的負担が。なお、〝ゼロの転移〟で約10m移動出来ますから、直線距離であれば10mダッシュの本数は半分になるという計算も。

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