第35話 有翼騎士対有翼騎士
第06節 最強殺し〔3/8〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
フィーネさんは、今回美奈たちが捕縛すべき対象であることは間違いありません。
そしてフィーネさんが会った相手は、バロー男爵の使いの者。おそらくフィーネさんとの連絡係でしょう。
今回はバロー男爵については放置で問題ありません。けど、この連絡係さんを放置しておくと、ちょっと面倒なことになりそうです。
だから。美奈たちは、この連絡係さんの身柄も抑えることにしました。
そしてその為に、美奈たちは二手に分かれて行動します。
一方はフィーネさんを追い、出来ればフィーネさんの愛騎である有翼獅子の所在を確認する。
もう一方は連絡係さんを追い、この連絡係さんが他の誰とも接触しないうちに拘束する。
フィーネさんを追うのは、美奈とソニア。〔泡〕による探索が求められるので、美奈はこっちです。
残りの四人が、連絡係さんを追います。
◇◆◇ ◆◇◆
連絡係さんは、フィーネさんが屋敷を出たすぐ後に馬車を出しました。
むしろこれは、好都合。町外れまで馬車を追い、おシズさんの弓で馬を射抜いて馬車を停めます。
「何が起こった?」
「何者かの襲撃です。――がっ!」
間髪を容れずにショウくんの弩で馭者の脇腹を射抜き、無力化します。
そして半身を出した連絡係さんに向けて、武田くんが微塵を投擲。けれどこれは、回避されました。
「何者だ、貴様ら?」
「俺たちの素性は、先ほどフィーネが伝えたんじゃないのか?」
「ドレイクの手の者か!」
「そう捉えてくれて構わない」
連絡係さんは、戦闘の心得もあるようで、構えた小剣に隙がありません。
けれどそれに対し、正面をショウくんが、左右をおシズさんと柏木くんが位置し、連絡係さんを逃がさない包囲陣を形成しています。そして後ろから、武田くんが戦闘投網を投射する準備をしています。
先手は、ショウくん。その二叉長槍による刺突は、躱されることが前提。けれど躱したその瞬間、おシズさんの薙刀と柏木くんの長柄棍杖が襲い掛かって来るのです。
そしてこの三人の連携も、最早慣れたもの。ただでさえおシズさんは、一対一なら相手が一流でも、そうそう後れを取りません。そして、その太刀筋を邪魔せず的確に合いの手を入れられるようになっているショウくんと柏木くん。これだけ優位に立てば、相手を殺さないように無力化することも、無理な注文ではなくなるのです。
やがて柏木くんの一撃を受けて悶絶した連絡係さんを、武田くんのレーテで縛り上げます。そして、馬車と馭者ごと林の一角に連れて行って、そこで美奈たちとの合流を待つのです。
◇◆◇ ◆◇◆
別行動しているショウくんたちは、美奈たちの様子を知ることは出来ません。
けど、今の美奈にとっては、ショウくんたちの所在を知ることも、会話を聞き取ることも造作もありません。
だから。美奈たちが用件を済ませたら、美奈たちがショウくんたちのところに行くのです。
「待って、フィーネ先輩」
町外れの森の中。フィーネさんが歩む先、500mくらい向こうに、大型の魔獣を〔泡〕が捕捉しました。多分あれが、フィーネさんの相棒であるグリフォン。
そこまでわかれば、もう充分です。
「ソニア。何の用?」
「もうわかっているはずです。自首してください」
「何のことだかわからないわ」
科学捜査などないこの時代、犯人逮捕の決め手は証拠と自供、それだけです。
そして自白の強要など簡単に出来る以上、真っ当な司法を貫きたいのであれば、証拠は欠かせません。
ただ今回は、そこまで厳密に対処することが求められているのか? という疑問があります。容疑者を本国に送還し、一時的に監視下に置く。取り調べの結果誤認逮捕らしいと判断されたなら、釈放しけれど内勤に異動させる。自供せずけれど本当に犯人だったとしても、この仕儀なら再犯が不可能になるから。
つまり、「疑わしきは監視する」ですけど、冷徹な考えですがこれは他の不正悪事を目論む人たちに対する警告にもなるんです。疑われた時点でもうアウト、と。
だから。証拠不十分は承知の上で、フィーネさんを拘束します。
「そうですか。ですが有翼騎士団独立騎士の権限で、哨戒騎士フィーネ、貴女を逮捕します。申し開きは、本国でなさってください」
「遠慮させてもらう。私はこの地でしなければならないことがあるから」
二人の有翼騎士は、そう言って構えます。
とはいえ、二人とも人目を気にして武装していません。メイドでありながら箒を持っていないんです。
その手にあるのは苦無。その小さな刃物が、二人の武器になります。
けれど、残念なことに地力が違います。近接格闘戦は護身術レベルのフィーネさんと、ただでさえ独立騎士、その上おシズさんから杖道講座で無手格闘も学んでいるソニア。
フィーネさんは、ソニアを殺すつもりで刃を振るい、ソニアは殺さないように苦無を盾にして格闘術主体で立ち合ってはいますが、それでも力の差は明白。時折無詠唱の魔法が交錯し、慣性を無視して体勢を崩すこともありますが、接近距離では魔法よりも剣よりも、無手の方がはるかに速いんです。
と、フィーネさんは、苦無を美奈に向けて投擲しました。足手纏いの美奈を先に害すれば、ソニアの隙に繋がると考えたのでしょう。
けど、投擲された苦無は、フィーネさんの意思を無視して軌道を逸れていき、またその勢いも急激に減衰して美奈まで届かず地に落ちました。その様子にフィーネさんは吃驚したようですけれど、美奈だってただボケっと見ていた訳ではありません。剛柔入り混じった〔泡〕を周囲に展開させ、自分の身を守っていたんです。
それを知っているソニアは、美奈に対しての攻撃を気にも留めずにフィーネさんを仕留めに掛かり、抑え込んで手足を拘束しました。
◇◆◇ ◆◇◆
その場はソニアに任せて、美奈は取り敢えずショウくんたちと合流することを選んだんだよ?
まずショウくんたちのところに行き、馬車と馭者さんと連絡係さんを〔倉庫〕に放りこみ。その際おシズさんの弓で射貫かれた馬と、ショウくんの矢弾が突き刺さった馭者さんを治療してあげました。で、〔倉庫〕の一角に留置部屋(但し時間凍結)を作って、馭者さんと連絡係さんを縛ったまま放り込んだの。
そして五人でソニアがフィーネさんを拘束しているところに戻ると。
ソニアが、グリフォンに襲われていたんだよ。
(2,543文字:2018/06/13初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/23 03:00掲載 2021/05/20誤字修正 2022/06/15誤用修正)
・ フィーネさんは、〔無属性〕で苦無を誘導していれば、髙月美奈さんの〔泡〕の防御陣を突破出来たでしょう。けれどその場合、意識をそちらに集中せざるを得ず、ソニアさんの攻撃に対する防禦は不可能になったと思われます。




