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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第29話 戦争の方針

第05節 王都スイザル〔2/5〕

◇◆◇ 雫 ◆◇◆


 何だか知らないが、最近、特に礼法関連の話題になる時。

 あたしのことを鬼か悪魔のように、皆が思っているフシがある。


 厳しく指導している自覚はあるけど、(おび)えられるほどじゃないはずだ。

 特に歩法の修練など、〔倉庫〕の中では時間が無限にあるし、しかも〔再生魔法〕があるから仮令(たとえ)筋断裂を起こしてもすぐ治るし。

 歩法は、疲労の極に達し、余計な力が入らなくなった時にこそ最も美しい歩き方が出来ると()われる。一日に何度でもそのレベルを経験出来るのだから、理想的ともいえる環境だと思うけど。

 それに、適宜休憩(ちりょう)挟み(ほどこし)ながらの修練は、言うほど厳しくなかったと思えるんだが。


 それはともかく、あたしたちはアマデオ殿下の先導の下、謁見の間、スイザリア国王陛下の(もと)に向かう。

 そして作法に則り一礼し、(ひざ)をついて頭を下げる。あたしら女子も、ここでは同様だ。もっとも、あたしたちの衣装は、学校制服。女子はだから、スカートだ。けれど、「平民女子がスカートで、王様に謁見を求める」という事態を想定されていない(普通平民女性はズボンを穿()いているから男子の作法を踏襲(とうしゅう)し、スカートを穿く身分の女性はその身分(クラス)に合わせた作法を()る)為、ここは日本の礼法。正座をし、(ひじ)と手の甲を地に付けた上で(ひたい)もまた地に付ける。なお、「両膝・両腕(肘と手の甲)・額」の五箇所を地に付けるこの作法を、「五体投地」と呼び、仏教では最上位の拝礼だ。


(おもて)を上げよ、モビレア公の使者よ。

 其の方(そのほう)らを呼んだのは()だ。よって、平伏するには当たらぬ。


 小鬼(ゴブリン)どもの王国と、その背後にいるという〝悪しき魔物の王(サタン)〟。

 そのことを事前に察知し其の方(そのほう)らをこの大地に召喚したる、騎士王陛下。


 事情は理解した。

 だが一つ、確認する必要がある。

 その〝悪しき魔物の王(サタン)〟とは、ドレイク王国のアドルフ王のことか?

 直言(じきげん)を許す。其の方(そのほう)らの識見(しきけん)を述べよ」


「有り難う存じます。お答え致します」


 答えるのは、飯塚。今の彼なら、国王と直接言葉を交わしても、無礼にはなるまい。


「自分たちはアドルフ王に(まみ)えたことはありません。ですので断言は出来ませんが、おそらく違うと思われます」

「その理由は?」

「ゴブリンどもの使用している兵器です。あれは、この世界の人間の知識にあるものではありませんし、仮に何らかの事情で異世界の知識に触れる事が出来たとしても、それを再現するのは難しいと思わざるを得ません。

 また、この地上の国家の元首たる者が〝サタン〟であるのなら、その兵器を利用してこの世界に覇を唱えるのではないでしょうか」

「成程。では何故其の方(そのほう)らであれば〝サタン〟に届くと騎士王は判断した?」

「騎士王陛下の御心は、自分たちの考えの及ぶとことではありません。しかし結果的に、自分たちは〝サタン〟の存在を察知し得る知識がありました。勿論(もちろん)自分たちの仮説が事実であれば、では御座いますが」


「次だ。ローズヴェルトの軍が、ゴブリンども相手に全滅したと聞く。にもかかわらず、騎士王は、何故其の方(そのほう)らであれば〝サタン〟に届くと断じた?」

「まず、ゴブリンどもが使用している兵器。これについての概要は、既にモビレア公爵閣下がお書きになった書状に記されていると思われます。

 ですが、その兵器は重量があり、容易に持ち運べるものではありません。

 拠点防衛には使えても、侵攻戦には使えませんし、またその防衛線を突破出来れば、その兵器は事実上無力化されます。

 とはいえ、〝サタン〟が使用する異世界の兵器はそれだけとは思えません。

 何を持ち込んでいるかは想像も出来ませんが、防衛線突破後はそれら異世界の兵器に初見で対応しなければならなくなるという事です。

 そうなると、予備知識がある者がその任に()くか、或いは決死隊が情報を持ち帰って対策を検討するしか選択肢は有りません。

 そして決死隊たり得るものは、おそらくドレイク王国の有翼騎士団が考えられましょう。ですが、騎士王国はドレイク王国と敵対しており、仮令(たとえ)人類共通の敵だと(いえど)もドレイク王国と協同することは出来ないでしょう。

 よって、予備知識を持つ、我々を召喚することを選んだのだと思われます」


「よくわかった。だが、騎士王国の内情は、もしかしたら変化しているのかもしれないな」

「どういうことでしょうか?」

「ウィルフレッド王は、今年のはじめに退位し、イライザ王女が女王に即位したと聞く」

「イライザ姫が? あ、いえ、失礼しました」

「女王を知っているのか?」

「はい。姫、(いえ)、女王陛下には多くのことをお教えいただきました」

「王が変われば国の方針も変わる。先王ウィルフレッドはドレイク王国に個人的な憎悪を抱いていたと聞く。一方イライザ女王にはおそらくそのようなものはないだろう。

 なら、其の方(そのほう)らのみではなく騎士王国の軍の力を借りることも出来るかもしれぬな」

「その時は、自分たちと騎士王国の間に交わされし〔契約〕に基いて、助勢をするよう交渉させていただきます」


 そうだ。〔契約〕には、あたしたちの義務として「〝魔王〟を討つ」ことが、騎士王国の義務として「あたしたちをサポートする」ことが、それぞれ定められている。

 〔契約〕に定められた〝魔王〟が〝ドレイク王〟ではなく〝サタン〟であると人々が認め、騎士王国も神聖(アザリア)教国もそれを否定出来ない状況を作れば。

 騎士王国の全軍を、カラン王国のガトリング機関砲に対して正面から突撃するように命じることだって出来るようになる! 十万の兵が突撃すれば、さしものカラン王国だとて弾切れするはず。そしてそれは、必要な損耗なのだから騎士王国も拒否出来ない。

 通常の戦争なら、十万の兵士を使い潰すような作戦は立てられない。それが必要だとしても、それが自分の国の軍隊であることを許容することは出来ない。だからこそ、現在はカラン王国対策として、その兵站(へいたん)を断つことを選んでいるのだから。けど、〔契約〕により騎士王国は、それを拒絶出来ないのなら。


 もっとも。そんな非道な作戦は()りたくないし、飯塚も採らないだろう。そして、〝ア=エト〟の採る作戦として相応しいとも思えない。それでも。


 海を渡って、騎士王国が、過去の恩讐(おんしゅう)を忘れドレイク王国と協同し、犠牲を顧みずに〝サタン〟と戦う。

 その宣伝効果は、決して小さくはないだろう。

(2,747文字:2018/06/06初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/11 03:00掲載予定)

・ 「五体投地」というと、何故か大の字になって地に俯せると思っている人が多いようですが、作中の作法が正しい「五体投地」です。

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