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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第27話 機動要塞?

第04節 国王からの召喚状〔5/5〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 さすがに初冬・雨中の夜間行軍は過酷過ぎたんだよ。

 取り敢えず武田くんの熱は下がったけど、それで外界に出ても、時間は深夜、夜明けは遠く、天気は雨。雨宿り出来る場所も近くには無く。だから、外界に出て野営の準備(ソニアと出会った頃以来だから、大体一年ぶり?)。そして夜明けを待って近くの町村に立ち寄って本格的に休憩をすることにしたの。病み上がりの武田くんに無理させたくはなかったけど、他に方法もないし。


「今までこの問題が起きなかったのが不思議なくらいの、阿呆な見落としだったな」

「天候由来で体調を崩したら、避難して天候が回復するのを待つ場所もない、か。

 もう少し外界での野営の経験を積んでておくべきだったな」


 ショウくんとおシズさんが、反省の弁。でも、行軍中の野営地の設営が本来業務の有翼騎士(メイドさん)であるソニアがいてくれたから、かなり効率的に設営出来たんだよ?


「いえ、これだけ大量の資材を使えるのなら、簡易なもので良ければ家でも建てられますから。

 しかも、〔倉庫〕内で組み立てて、完成品を外界に持ち出せばいいなんて、簡単過ぎます」


 ソニアは謙虚。だけどこの言葉は、美奈たちにとっても一つの示唆になったんだよ。

 ネタ元は「トレーラーハウス」。耐震補強だのを考える必要がないから、土台はしっかり作る必要はない。むしろ外界野営中に洪水が起こっても浸水せずそのまま舟になる、みたいな構造なら、言うことがない。

 勿論(もちろん)今すぐにどうこう出来るものでもないけれど、アイディアを募ってモビレア(ウィルマー)に戻ったら資材を集めて作ることにしたの。


「でも、ちょっと考えてみてください。

 あたり一面何もない荒野。しとしとと雨が降り、星明りもない夜。

 そんな中、(あたか)も立派な家に見える、野営地の(あか)り。


 そんなモノが見えたら、そこの近くに立ち寄る人は、どう思うでしょう?」

「それがただの旅人(旅商人)なら、明かりと暖と、食のおすそ分けを求めてやってくる。

 盗賊(けだもの)どもなら絶好のカモだと思い、野獣(けもの)魔獣(まもの)も群れを成して襲い掛かってくる、か」


 武田くん(病み上がりにつき重労働禁止)とショウくん(交代時間で休憩中)が、そんなことを語り合っています。


「なら、防壁と最低限の迎撃手段が必要だな」

「野営施設は、オーバーハング型で作りましょう。簡単に上って来る事が出来ないように。縄文時代の、高床式住居って感じで」

「だがそれだと、野営する場所によっては柱が地面に埋まっちゃうんじゃないか?」

「埋まらないように、柱にスキーを履かせましょう。農作業に使う〝田下駄(たげた)〟や忍者の〝水蜘蛛〟みたいに」

「田下駄は実物を見たことがある。そこからイメージを膨らませた柱の足は、作れるな」

「それから、防衛手段ですね。大型の弩砲(バリスタ)と、連射が出来る諸葛(しょかつ)()連弩(れんど))の両方が必要でしょうか?」

「諸葛弩は、弦を引く作業と矢弾(クォレル)をセットする作業を同時に行うことで、連射が可能になっている。けど、矢弾の装填は重力頼り。装填失敗に伴う弾詰まりは頻繁に起こっていたはずだ。また、片手で引ける弓力でも毎秒一発程度。その場合の有効射程は数メートルで、ネットの動画を見た限りでは、場合によってはベニヤ板にさえ突き刺さらない程度の威力しかなかった」

「その辺りは知りませんでした。けどそれなら、〔マルチプル・バブル〕で散弾ガス銃でも作った方が効率的ですね」

「〔泡〕で散弾ガス銃? どうするんだ?」

「まず、圧力に耐える筒を用意します。そして筒の中に、〔泡〕を二つ。

 前方の〔泡〕には散弾の弾丸になる小石や鉄片を封入し、後方の泡には圧縮空気を封入します。

 で、撃針で後方の〔泡〕を割ると。

 後方の〔泡〕が割れた衝撃では、前方の〔泡〕は割れません。

 けど、後方の〔泡〕が割れることで、中の圧縮空気が解放され、それは前方の〔泡〕に向かいます。その圧力で、前方の〔泡〕が割れるんです。

 前方の〔泡〕を結構強めに作っておけば、その分後方の〔泡〕が割れて解放される空気の圧力は前方に向かうはずですから、威力も高まります。もっとも、前方の〔泡〕は、発射の瞬間まで散弾(小石)をその場に保持しておく為のモノですから、こだわらないんですけどね」

「つまり、前方の〔泡〕の強度が強ければ一粒(スラッグ)弾みたいに対単体高威力を期待出来、弱ければ広範囲に散弾をばらまける、ってことか」

「そうですね、そんな感じです」

「それから、防壁と迎撃手段だけじゃなく、索敵施設も必要だな。美奈の〔泡〕に頼り切る訳にはいかないし」

「それなら攻城(やぐら)があるじゃないですか」

「というか、攻城櫓も(あわ)せて作り直すか? もともと以前の水害支援での出動で、あっちこっち(いた)んでいるしな。最上部の監視塔は、ボレアス(グリフォン)くんの離発着スペースにして」

「いいですけど、完全に要塞ですね。個人が戦術兵器を保有することを、国家(スイザリア)が許すでしょうか?」

「なら認める言い訳を作ればいい。例えば、野営用の拠点と攻城櫓。俺たちの〔亜空間倉庫〕とセットにしなければ使い()はないけれど、国家単位でそれを使用する場合は『対〝サタン〟戦争』に限定する。初運用は、リュースデイルの民の避難、だな」

「そう、か。ボクらの私費で高床式野営施設と多目的監視塔を作り、でも『対〝サタン〟戦争』で活用することで人類国家間戦争には使用しない根拠とする、と」

「ああ。そうなると、所有者の名義は、〝ア=エト〟、だな?」

「……つまり、飯塚くん、ですね?」

「違う。〝ア=エト〟は、俺たち五人の総称だ。〝魔王(サタン)〟と戦う者、の名前だ。あくまで俺は、その代表者に過ぎない。それこそギルマスの語っていた『英雄』の名前が〝ア=エト〟で、それは『飯塚翔』じゃない」

「まぁ、そういうことにしておきましょう」


◇◆◇ ◆◇◆


「……あいつら、一応病み上がりの半病人と休憩中の人間だよな?」

「えっと、あぁいう休憩の仕方もあるんだよ? きっと」

「あたしなら、頭が痛くなって逆に休まらないけれどな」

「ですが、ショウさまたちが話し合っている内容は、あとでしっかり検討する必要がありそうですね」


 ショウくんたちが、休憩と称して頭の痛くなるような話をしているけれど。

 でも、作るのは野営用の施設であって要塞じゃないよね? 何故か(すさ)まじく不安だけど。


◇◆◇ ◆◇◆


 その夜は野営地で過ごし、翌日お昼過ぎに到着した村で一泊宿を取り。それ以降の夜間行軍は、なるべく無理をしない行程を計画して。


 旅を始めてから16日目。この世界に来てから524日目。

 当初予定より二日遅れの、王都スイザルへ到着したのでした。

(2,644文字:2018/06/02初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/07 03:00掲載 2019/02/21衍字修正 2021/05/12誤字修正)

・ 「トレーラーハウス」は、キャンピングカーの大きいもので、牽引することが前提の車両です。が、上下水道やガス電気を公共サービスに頼れば永住可能な設備のモノもあり、海外ではトレーラーハウスに住んでいる人も少なくありません。

・ 「諸葛弩」は、三国志の時代、諸葛亮が考案・完成させた連弩という説がある為、このように呼ばれます。

・ 「ベニヤ板」は、正しくは「ベニヤ合板」。そもそもベニヤとは「薄い板」(桂剥きにしたモノ)を指し、「ベニヤ合板」は「ベニヤ」を複数層(奇数)重ねたモノを言うそうです。ちなみにホームセンターなどで売られている「ベニヤ板」は2.3mm~3.0mm程度の「ベニヤ合板」のことで、本来そのレパートリーは厚さ30mm程度まで種類が豊富。ちなみにここでイメージされている「ベニヤ板」は、3mm程度のモノを想定しています。

・ 西大陸にいた時(平成30年5月期)に、何故か感想欄(どこか)から「機動要塞を作れ!」との声が聞こえてきたのでwww

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