第25話 二つの依頼
第04節 国王からの召喚状〔3/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
この世界に来て、506日目。
ウィルマーの山間はすっかり秋色に染まった頃。
ボクらは、モビレア領主様に呼び出されました。
これまでも何度か食事に誘われて登城しましたが、今回は仕事です。
但し、〝冒険者として〟というよりも、〝ア=エトとその一党〟というご指名でしたから、つまり『対〝サタン〟包囲網』関係。
細かいようですが、この辺り結構面倒臭いんです。「冒険者として」直接依頼を請けに行くのであれば、むしろ平服で訪れるべきですし、会食などの場合は領主夫人から贈られたドレス(タキシード)で行くのが礼儀です。
が、同じ冒険者でも〝ア=エトとその一党〟となると。TPOを考えると、学校制服が着ていくべき礼服になります。他の領主相手ならまた話は違うのですけれど。
「よく来てくれたな。早速だが、依頼の内容について話をしよう」
ボクらが立ったのは、所謂「謁見の間」。マキア戦争の論功の時以来です。衣装も同じ。ただ違うのは、帯剣が許されていることと、ソニアがボクらから一歩下がった場所に立っていることだけ。
ソニアの衣装は、メイド服。その風体は、ソニアの身分・立場を明確に物語っています。以前なら、敵国の間者が、とひと騒動起こったことでしょう。けれど最近は、この領主城内を含めてモビレア、スイザリアの空を有翼獅子が飛行することはもう珍しくありません。
それはともかく。領主様からの依頼の内容は。
スイザリア王に謁見を求め、此度の『対〝サタン〟包囲戦』の意義を訴え理解を促すこと。
……面倒くさいことこの上ない、それは依頼でした。
けれど、よく話を聞くと、これは一つの口実で、スイザリア王はボクら、と言うより〝ア=エト〟に興味を持っている、というのが本当のところのようでした。
わざわざ王家の紋章入りの短剣を、身分証明書代わりにボクらに渡してきたのです。
モビレア公爵の紋章入りのブローチと、王家の紋章入りの短剣。
モビレア公爵とモビレアのギルドマスター連名の書状と、〝ア=エト〟の名。
短剣やブローチだけだと、盗んだ物である可能性を否定出来ませんし、書状は悪意ある者がすり替える可能性もあります。けど、〝ア=エト〟の名は、ギルドの名簿や冒険者証には記載されていませんから、〝ア=エト〟の名を知るというだけで既に、この一件の関係者と考えられるのです。つまり。
この四つが、組み合わせの符牒となり、身分の無い冒険者であるボクらが国王陛下への謁見が叶うことになる、という訳です。
◇◆◇ ◆◇◆
領主さまからの依頼は、あくまで「訴え促すこと」であり、「説得し納得させること」ではない、という事実を確認した上で、その依頼を受注しました。
で、冒険者ギルドに場を移し、具体的な話。
あと二ヶ月と少しで新年。国王陛下の新年の演説で、この話を盛り込むことが出来たら、新年度の国家歳出計画に『対〝サタン〟包囲網』の予算を組み込むことが出来るようになり、色々と都合が良くなる。
というのが、身も蓋もない内幕だったみたいです。まぁ確かに、公爵領の運営予算から南東ベルナンド地方探索のクエスト報酬を捻出するのは、確かに領主様にとって負担が多いです。それを中央の予算である程度賄ってもらえたら、先年のマキア戦争でのモビレア領からの持ち出しも、それなりに補填出来る。というのが本意という、なんとも世知辛い話でした。
ともかく、依頼はクエスト。請けると決めた以上、全力を尽くします。
モビレアから王都スイザルまで、馬車で約二ヶ月。早馬で、三週間。
新年が一つのタイムリミットである以上、あまりのんびりとはしていられません。
色々準備を考えないと、と思っていたら。
「皆様。私、ソニアは、皆様の侍女としてではなく。
魔王国の有翼騎士団・独立騎士として、旅団【縁辿】に依頼をしたいのですが」
ギルドに戻ってすぐ、ソニアがいきなり口を開いた。
「ソニアくん。それは、彼らに対する直接依頼かい? それとも、ギルドを介したクエストかい?」
ギルマスは、動じずソニアにそう問います。
「ギルドを介した指名依頼です」
ソニアの応え。ボクらは、取り敢えずその依頼内容を聞いてみることにしました。
「ドレイク王国の秘中の秘、グリフォンを調教する方法を、リングダッド王国に齎した者がいます。この者の捕縛とドレイク王国への引き渡しを、皆様に依頼します」
リングダッド。スイザリア王国と二重王国を構成する国家です。
二十年前のフェルマール戦争に於いて、スイザリアがベルナンド地方から侵攻し南部ベルナンド地方を占領したのに対し、リングダッドは北のロージス地方から侵攻したにもかかわらず、寸土たりとも領地を増やすことが出来なかったのだとか。
更にその後に、隣国カナリア公国との戦争に介入してきた魔王国により、完膚なきまでに派遣軍は打ち砕かれ、高額の戦費賠償と北部方面での軍備を禁じられたのだとか。
その為、スイザリアとリングダッドの国力バランスは、圧倒的にスイザリア側に傾いているのが現状なのだと謂われます。
そして、問題の魔王国から情報を盗み出してリングダッド王国に伝えた者の正体は、未だ不明ながら、その情報に基づいたグリフォンの牧場は、スイザリアとの国境近くにあるのだそうです。
この話。最初はローズヴェルト王国ベルナンド伯爵領に出向していた有翼騎士テレッサから聞いたのだそうですけれど、その追加情報を、今回モビレア領主城を訪れていた有翼騎士から聞いたのだとか。
けれど、スイザリア王国並びにスイザリアと二重王国を構成しているリングダッド王国で、今自由に動ける有翼騎士は、ソニア一人。けれど、ソニア一人では荷が重過ぎる。
という事で、今回の依頼になったのだそうです。
依頼人は、ソニア。ではなく、魔王国有翼騎士団。延いては、ドレイク王国行政府。
依頼の決着点は、犯人の逮捕と引き渡し。出来れば殺さないでおいてほしいが、そこまで無理は言わない。
指名依頼であることを除いても、報酬も結構美味しい話。しかも、ソニアが同行する以上、ハメられるという可能性も少ないし。領主さまからの依頼と並行して行えるのがメリットでもあり、ボクらはそれを受件することにしたのでした。
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武装等は、ウィルマー新町の鍛冶村で整備・新調しました。
生活物資等は、同じくウィルマー新町で整えました。
食料品等の不足分は、モビレアで買い揃えました。
焦る必要のない旅とはいえ、わざわざ時間をかける必要もありません。
全員で騎乗し、いざ、スイザリア王都スイザルへ!
(2,947文字:2018/05/21初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/03 03:00掲載予定)




