第24話 次を目論み
第04節 国王からの召喚状〔2/5〕
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ウィルマー新町の開拓。
それと並行して、ウィルマーの町全体の要塞化工事も行われることになった。
勿論「要塞」といっても、人類国家間戦争を想定しての要塞じゃない。対魔物戦を想定しての要塞だ。
これまでも、魔物対策としての空堀や柵などはあったけど、組織立って行動し、戦術を以て攻め、道具を使って攻撃する〝魔物〟を想定した防壁はなかった。だから、これを構築する。
これが完成したら、次は猫獣人の集落址の整備。同じく防壁を張り巡らし、物資集積拠点として使う。それと同時に、ウィルマーと猫獣人の集落址を繋ぐ林道を整備して街道とする。その次がリュースデイルだ。
猫獣人の集落址の整備が終わったタイミングで、冒険者に対して依頼が発注される。リュースデイルの民の、避難だ。だが劣悪な食糧事情、衛生環境、健康状態を考えると、多くの民は足萎えとなっているはず。長い距離は歩けない。だからまずは猫獣人の集落址に立ち寄る必要が出てくるんだ。
従来、街道上に置かれる町は、移動速度の遅い商隊の一日の移動距離、を目安に開発されると武田が言っていた。けれど、今回は。
「街道の途中で魔物の襲撃があった場合、即座に逃げ込める距離」に、防壁で守られた町を作る。これで南東ベルナンド地方全体を、と考えるとコストが膨大になり過ぎて割に合わない。けれど、リュースデイルまでなら。
ウィルマー――猫獣人の集落址――リュースデイル、と要塞線を繋ぐことで、リュースデイルから先のハティス地方を探索する冒険者の拠点となる。その先に有用な迷宮や鉱山等が見つかれば、更にもう一つ二つ拠点となる町を開発する予算を計上することも出来るかもしれない。
また、リュースデイルの関の南方の砦に籠っている攻略軍と連携して、リュースデイルの町からも出撃して挟み撃ちにすれば、関の奪還も叶うだろう。
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またこの時期に、オレたちは〔亜空間倉庫〕の整備も行った。
ソニアは自分で言うように、大工職人としての技術もあり、〔無属性魔法〕を駆使して多くの事が出来るようだった。とはいえメイドさん一人に大工仕事を任せたら、男が廃る(というよりも女子の目線が怖い)。臨時ユニット〝ソニアと三人の下僕たち〟を結成し、〔倉庫〕内を右に左にと大活躍することになったのであった。
倉庫内の、食肉処理施設(獲物を解体する場所)にも、天井に滑車とフック、そして吊るしたまま移送が出来るようにそれらをレールで固定した。そして貯水槽からホースを引き、ポンプで放水出来るようにした。これは枝肉(獲物の皮を剥いだ状態)に水をかけ、残存体温を減らすとともに、表面の雑菌を洗い流す作業という事だ。
オレたちの備蓄でいつも不安に感じていたのが、「水」だった。
今までは、桶や樽に水を汲み、それを〔倉庫〕に運び入れ、それから〔倉庫〕内に作った貯水槽に移す、という手間をかけていた。〔倉庫〕と外界を繋ぐ扉を開けっ放しにすることが出来れば、ポンプなどを使って大量の水を汲み上げることも出来るだろうけど、それは無理。結果人力となり、一回に約50L程度の水量しか汲み上げる事が出来ないという事だ。
そして、風呂に入りたいと思ったら。「ユニットバス」の水量が90L~180L程度、と考えると、気が遠くなる。その他にも食肉処理や洗濯その他で大量の水を必要としているのだから。
けれど。ちょっとしたことから発想を転換し、大量の水を〔倉庫〕に持ち込むことが出来るようになった。
まず、〔倉庫〕内のソニアの部屋の中の荷物を、一旦エントランスホールに運び出す。
次いで、その部屋と貯水槽を給水ホースで繋ぐ。
その後〔倉庫〕から出て、ソニアの〔アイテムボックス〕を清流に沈め、収納出来る限りの水を〔アイテムボックス〕に収納する。……「事実上無限量」だそうだから、正しくは「ある程度」。さすがに下流の水量が目に見えて激減したのには驚いたけど。
最後にまた〔倉庫〕に入り、ソニアの部屋と貯水槽を繋ぐ給水ホースのバルブを解放。結果、外界時間ほんの数分の作業で、数千トン単位の水量を貯水槽に移す事が出来た。これで水の使用を遠慮する必要がなくなったし、減ってきたら同じように補充すれば良い。このやり方なら、湖の水を(棲んでいる魚ごと)丸ごと貯蔵することも可能だろうから、食材調達という意味でも有効だろう。
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ところで。ウィルマー新町で鍛冶村を作ったルシアおねーさんだが。
おねーさんが使う製鉄炉には、魔石動力の送風機が据え付けられている。それにより、高効率で酸素を供給する事が出来、鉄鉱石を高温還元出来るのだという。
けれど、この「魔石動力の送風機」の核となる魔石。これは、何でも良いという訳でもないのだそうだ。
魔物の体内から採れる魔石だと、その魔物特有の〝色〟が付いている(一般にはそれが〝属性〟だと認識されている)のだそうだ。例えば豚鬼の魔石は〝加熱〟に性質が偏向しており(その為「火の魔石(小)」と呼ばれる)、小鬼の魔石は〝空気誘導操作〟(「風の魔石(小)」)、という具合だ。純粋運動を齎す「無属性の魔石」は、現在魔王国からしか輸入出来ないのだとか。
それでもいいから、とオレたちは、「魔石動力羽根車式給水ポンプ(魔石なし)」を作ってもらった。このポンプを使うのは、その場に人がいる時だけだから、別に魔石に頼らずとも人力で〔無属性魔法〕を発動させればいい。羽根車をハンドルで回すのと大差ないけど、単純にその絡繰りをオレたちでは作れなかったというだけなのだから。
それから、魔法。
以前から武田が、水属性と謂われる魔法原理から冷却魔法を研究していた。
(顕熱を伴わない)水の相転移で氷を生み出し、(潜熱を伴う)水の相転移で氷を蒸発させる。これを繰り返すことで、空気の温度を際限なく冷却させる、というモノだ。
武田は、これを攻撃魔法として研究していたが、結果それは「自爆魔法」。自分を中心にした周辺空気をマイナス数十℃まで下げても、自分が凍えるだけだ。
けれど。例えば氷室で空気をマイナス数十℃まで下げておけば、その温度をかなり長時間維持出来る。〔倉庫〕内は時間が動かないんだから冷凍庫がある必要はあるのか? という疑問を投げたら、「一旦低温冷凍させることで、旨味成分を凝縮させる事が出来る食材もあるんだよ?」と、髙月。ちなみに、ある種の寄生虫等は一定の温度以下では棲息出来ないので、生食危険の食材は、一旦冷凍してから解凍⇒加熱をすると良いのだとか。
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オレたちの、次の依頼は。
ハティス地方の探索、じゃない。
多分政治がらみ。戦闘が起こるとしたら、対人戦となる可能性もある。
だからこそ、環境を整える必要があるんだ。
(2,930文字:2018/05/20初稿 2019/01/03投稿予約 2019/02/01 03:00掲載予定)
【注:〔アイテムボックス〕を活用して〔亜空間倉庫〕に水を大量移送するというアイディアは、感想欄の[2018年05月19日12時09分]のさくれんさんの書き込みから生まれました。さくれんさん有り難うございます】
・ ソニアの〔アイテムボックス〕で〝一度に収容出来る容量〟は、その〔ボックス〕のサイズまで。のはずでした。が、〔亜空間倉庫〕と繋がりそこに「部屋」として確保されてしまったことで、〝一度で収容出来る最大量〟は〔亜空間倉庫〕内の部屋のサイズ(但し固形物は〔ボックス〕に入る大きさが限界)、となりました。ちなみに『部屋』のサイズは、柏木宏くんたちが直前に認識したサイズで、その時点で〔アイテムボックス〕内に収納されている物資を全て収納出来るサイズ。現状は、床面積が30平米くらい。なお高さは〔倉庫〕の天井高準拠で10m超? ちなみに、ソニアさんの〔アイテムボックス〕は「生き物を(そのままでは)収納出来ない」という性質がある為、魚は取り込まれません。
・ 低温冷凍について:家庭用冷凍庫は鮮度保存がその目的なので、冷凍殺菌に関しては能力不足の場合がほとんど。冷却速度が不十分だと、凝固点(凍結温度)ごとに成分がバラバラに凍結してしまい、食材の細胞組織が破壊されてしまいます。また庫内温度が高い(マイナス10℃前後)場合は、多くの寄生虫等に対して殺菌効果を期待出来ないのと、成分凍結しないこともあります。急速冷凍でマイナス60℃以上にまで冷やさないと、期待している効果は得られないモノが多いです。




