第22話 王貨
第03節 帰国〔7/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ボクらは、今回のベルナンド行きで見た事知った事、そしてやったことをギルマスに報告しました。
カラン王国の背後にいるのは、魔王国だということ。但し〝魔王〟陛下の思惑は未だ不明であること。
カラン王国では魔王国で製造され実用化されたガトリング式機関砲を実戦に投入しており、正面戦闘でこれを撃破しようと思ったら多大な犠牲を強いられること。
カラン王国を経済的に封鎖して、その補給を断つ『兵糧攻め』を国家単位で行うことが、時間はかかるものの犠牲を少なく出来る戦略であること。
その為には、南西ベルナンド地方を近隣国家が正しく統治し、治政権を確立させる必要があること。
また一方で旧ハティス市の周辺にある三迷宮並びに、南東ベルナンド地方の未発見ダンジョンの発見とマッピングが急務であること。
同時に、「異世界から〝ガトリング式機関砲〟を召喚し、また魔物を使って国家を建設した〝悪しき魔物の王〟『サタン』」の居所を突き止める必要があること。
ボクらがこの世界に召喚された理由。交わした〔契約〕に記された標的である〝魔王〟を、『ドレイク王アドルフ陛下』と切り離し、〝悪しき魔物の王〟『サタン』と再定義すること。
〔契約〕の解釈変更は、〔契約〕の効果にどの程度影響を及ぼすかは実は不明。やってみないとわからない類の問題です。けど、第三者に対する言い訳としては立派に成立するのです。
また、その最中、「領主様の紋章が付された書状」の重さを理解しない受付嬢の暴走で、ベルナンドシティのギルドがベルナンド伯爵に対する叛乱を実行したとして、ギルマスが処刑されギルドが一時閉鎖されたことなどを話しました。
◇◆◇ ◆◇◆
「またお前らは、とんでもないことを考えてとんでもないことをはじめた、という訳だ」
「けどこれが、一番軋轢の少ないやり方です。
旧ハティスを巡る戦いで、小鬼相手に無謀な突撃をして無意味に死者を量産することを回避出来ますし、同盟国であるローズヴェルト王国とドレイク王国の間で国家紛争になることも避けられます。
南西ベルナンド地方の統治問題に関しては、国家紛争に発展する危険もありますが、こちらはむしろ通常の人類国家間の領土問題。やり方を考えれば一滴の血も流さずに外交のテーブルで当面の妥協案を見出すことも出来ましょう。
そして南東ベルナンド地方の探索は、ローズヴェルト王国とスイザリア王国の冒険者の管轄。この活躍如何では、カラン王国崩壊後の同地方の統治問題を優位に進めることも出来ましょう」
「取り敢えず、お前たちがこの二ヶ月間でやってきたことはわかった。領主様と会って打ち合わせなければならないことの要点も理解した。裏にアイツがいる事などは、確かに隠し通すべきだという事もな。というか、アイツが何を考えているのかわからない以上、下手に事実を広めれば、どんなことになるかもわからないからな。
だがその上で、お前らは自分が何を始めたか、本当に理解しているのか?」
「何を、って、ボクらに出来ることをしただけのつもりですが――」
「複数の国家の上に立ち、それぞれの国家の政略を超えた判断をし、敵味方の別なく民衆を導く。それが出来る者のことを、人は〝英雄〟と呼ぶんだ」
英雄。そんなモノにはなるつもりはないけれど。
「英雄になりたくてなる奴なんて、いやしない。英雄とは、意図せずに『なってしまう』モノだ。むしろ、英雄に至る道筋を正しく描いていながら、その行き着く先をイメージしていないお前らみたいなのの方が珍しいよ」
褒められているのか貶されているのか、わかりませんね。
「で、だ。未来の英雄であるお前たちに、ベルナンド伯爵から渡す物があるそうだ」
ボクらがギルマスに渡したものは、書状が一通と小さな箱が一つ。その、小さな箱をボクらの目の前で開いてみせた。中に入っているのは、一枚のコイン。
「これは?」
「〝王貨〟と呼ばれている。価値は、金貨一万枚、と一般には言われている」
「一般には?」
「通常の市場には、出回らないんだよ。絶対にな」
「どういうことでしょう?」
「まず王貨は、それを発行した国内でしか使用出来ない。また、市井の商人ギルド内の通貨交換所や商人たちの商取引の現場では、これを使うことは出来ない。
使い方は、その国の上位貴族(伯爵以上)のところに持ち込み、換金を依頼する。それだけだ」
つまり、まず貴族に面会を申し出る事が出来る立場であることが求められる、という事ですか。
「そして、王貨の持ち主の身分は、その裏に刻まれた紋章が保証する」
そう言いながらギルマスは、王貨を返して裏側を見せた。そこには、ベルナンド伯爵の紋章が刻まれていました。
「だからその換金目的次第では、金貨一万枚どころか、国家財政の緊急出動を要請することも可能になる。一方で、例えば酒だ博打だ女だ、の為に換金したいなどと言えば、金貨の10枚も渡されたうえで王貨を没収されるという事もあるがな」
だから、使う時は、使い方を考える必要があるということ。これを換金する場合、これを受け取る貴族は、ボクらの振る舞い、その換金目的の向こうにベルナンド伯爵の姿を見るのですから。
「これが、お前たちがローズヴェルト王国内でやったことの、成果だ。これを渡されるほどのことをしたという事だ。
……ドレイク王アドルフの冒険者時代、アイツでさえどこかの国から王貨を託されることはなかった。それ程のモノだ」
「……有り難う、御座います」
「それを告げる相手は、北にいる」
「はい。」
「そして、これをお前らに渡すと同時に、お前らは金札に昇格になる」
え?
「どうして、ですか?」
「戦闘力を理由とした昇格じゃない。お前たちの行いに対する、正当な評価だ。
今後お前たちは、国境を跨いで行動することが増えるだろう。特に『対〝サタン〟包囲網』関係では、関係する多くの国に赴き、地方領主ではなくその国の国王と直に対面し、その意味を語る必要も出てくる。実際、遠からず我が国の国王陛下からの召喚はあると思った方が良い。
銀札でも、陛下の前に立つ身分としてはギリギリだが不足はない。
だが、他国の領主貴族から王貨を託された冒険者のランクとして、銀札はあまりに不足がある。そういう事だ」
ボクらが金札の冒険者に。何か実感が湧きません。
(2,803文字:2018/05/17初稿 2018/11/30投稿予約 2019/01/28 03:00掲載予定)
・ 当然ですが、彼らのクエスト報酬は王貨ではありません。モビレアギルドから正規に金貨で支払われています。
・ 武田雄二くんは、以前木札のクエスト絡みで「王貨」の話を聞いていました。けれど、一般の商人が理解する「王貨」の使い方等と、実際のそれは全く違っていました。
・ ドレイク王アドルフ陛下は、冒険者時代商人も兼ねていました。その為、「王貨を貰う」というよりも、「領主貴族に貸しを作る」立場だったといえます。
・ 破産寸前の貴族や、政争に敗れて都落ちした貴族の紋章が刻まれた王貨は、二束三文でしか換金してもらえません。それを持参してきた相手と、換金を依頼された貴族、その換金目的などの理由から、仮令そうであっても無碍には扱えない、という場合も当然ありますが。




