表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
152/382

第20話 亜人と魔剣

第03節 帰国〔5/7〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


「そう言えば、シンディ妃殿下。どうせならおひとつ、教えていただきたいことがあるんですが」


 金属加工を得意とするという、シンディ妃殿下。それも、神聖金属の加工が本業なのだという。なら、もしかしたらボクの疑問に答えてもらえるかも。


「なぁに? 政治的なことは、よくわからないわよ?」

「剣のことです。鉄剣と神聖鉄(ヒヒイロカネ)の剣の違い。

 ヒヒイロカネは、融解温度に達しても、()けることは無いって聞いています。特定の魔法、〔神鉄炉〕を使わない限りは。

 また、鉄剣に魔力を込めた〝魔剣〟は、鉄鉱石を製鉄する段階で触媒(しょくばい)大鬼(オーガ)(つの)を使うと聞きました。

 これって、どういう事なんでしょう?」


「ふぅん、さすが陛下の……。

 うんわかった。じゃぁある程度のことは話しましょう。

 けど、これから話す内容は、科学的な証明がされたモノじゃないから、そのまま鵜呑みに出来るかわからないけれどね」


 この、〝剣と魔法の世界〟で、「科学的な証明」という言葉が出てくること自体が、不思議ですけど。


「まず、普人(ヒューマン)亜人(デミヒューマン)魔物(モンスター)。違いはどこにある?」


 ……この旅が始まる前、モビレアのギルマスとその話題で口論になりましたね。


「魔石を有するのが魔物で、持たない者が人類、ですか?」


 だから、ギルマスの言葉、この世界の常識に沿った回答をまず投げてみます。


「あら? 魔石を持たない魔物もいるわよ? それに、それならキミは人と出会ったら、まずその胸を裂いて魔石がないことを確認するの?」

(いいえ)。魔石があろうとなかろうと、相手が友好を求めて手を差し伸べてきたら、その手を取りたいと思います。それで裏切られたら悲しいけれど、それでも差し伸べられた手を払い除ける人間にはなりたくありません」

「うん、立派。それで良いと思う。


 ドレイク王(あたしたちの)国ではね? 意志があり、知性があり、それを伝える能力があり、そしてこちらの意思を受け取れる存在を、〝ヒト〟と定義しているわ。だから女郎蜘蛛(アラクネ)小鬼(ゴブリン)などの中にも、市民権があるヒトもいるのよ。

 魔石っていうのは、単なる魔力――あたしたちは〝魔素〟と呼んでいるわ――の(こご)り。普人族(ヒューマン)とか妖精族(山妖精(ドワーフ)森妖精(エルフ))、獣人族などは、体内に魔素が凝る前に意識無意識を問わず魔法としてそれを消費してしまっているというだけだから」


「昔、身体に魔石を埋め込むという人体実験をした人がいたと聞きます」

「そうね。あれは酷い実験だった。〝人体実験〟という手法を、表面だけで模倣(もほう)して。比較実験も反証実験もない。ただ『やってみただけ』という、子供の遊びレベルの実験だった。あれじゃぁ何百人犠牲者を出しても、目的は達成されなかったでしょうね。

 その一方で、あの実験は人間を強制的に魔石に適合させる方法としては有効、という思いがけない成果も見つかったけど。


 モビレアギルドの受付嬢、プリムラさん。彼女、今36歳だって信じられる?」


 ……嘘。


「20代中盤、だと思っていました」

「あれも、魔石を身に宿した副産物、ね。しかも、一度自分の体内に受け入れた魔石を、肌身離さず持っているみたいだし。

 それはそうと。ドレイク王(あたしたちの)国では、高濃度の魔素により、遺伝子レベルで変化した結果、野獣(けもの)魔獣(まもの)になり、普人は亜人になると考えられているの。

 この世界に魔素は遍在(へんざい)しているけれど、どうしても濃淡はある。ここ、『ドワーフの里』は、かなり魔素が濃くあるわ。そして魔素が濃過ぎて重力崩壊を起こすかのように凝縮してしまう場所。それが迷宮(ダンジョン)。つまり迷宮(ダンジョン)(コア)は、ダンジョンを魔物と看做(みな)した場合の魔石。(いえ)、逆に『魔物の体内』こそが、最小のダンジョン、なのかもしれないわね。

 それはともかく。魔物の体内で、魔素が溜まり易い場所は、骨。というよりも、骨髄(こつずい)。魔素の影響を受け易いものは、蛋白質(たんぱくしつ)。というよりも、アミノ酸。

 勿論(もちろん)、遺伝子工学レベルの研究を進める事が出来る技術はドレイク王国(うち)にもないから、仮説に過ぎないけどね」


 すとん、と腑に落ちました。

 確かに、仮説の域を出ないでしょう。今後遺伝子工学が発展し、また魔素を素粒子工学レベルで発見しその組成を解明し、その上でその影響を分析しなければ、証明出来ない仮説です。けど、現状ではその解釈で充分なのかもしれません。


「オーガの角。これは、鹿の角のように皮膚が硬質化したものじゃなく、牛の角のように頭蓋骨が突起したものなの。その中にある髄液やその他の体液成分はまだ解明出来ていないけど、それらの作用もあるのでしょうね。

 骨の基本組成はリン酸カルシウムだけど、焼くとそれがリン酸()カルシウムになる。その過程で、オーガの角に溜まっていた魔素が遊離して、一緒に焼かれて溶解した鉄に浸透する。この際、遊離した魔素に直接意思を(とお)せば、この鉄は特定の魔力を持った鉄になる、ということ。大抵は〔状態保存〕、すなわち不壊(ふえ)の属性だけどね。


 だけど、わざわざ外から魔素を継ぎ足さなくても、充分に魔素が浸透している金属鉱石も存在している。それが、神聖金属と呼ばれるものなの。

 そして有史以来人類が、鉄に求めたものは『武器として』の性質だったわ。だからこそ、ヒヒイロカネという金属は〝不壊〟と〝破壊〟という、矛盾する二つの特性がはじめから宿っている。〝破壊〟というのは、物理的な慣性や質量が増すというモノじゃなく、相手の〝不壊〟の魔力を打ち(はら)うというモノ。オーガの角を触媒にした魔法の鉄剣程度なら、ヒヒイロカネの前ではただの鉄剣になり下がる。硬質化した皮膚に魔素を浸透させて鎧にした魔猪(ボア)程度なら、ブタを屠殺(とさつ)する感覚でヒヒイロカネの刃は沈み込むでしょう。勿論、ヒヒイロカネの剣同士なら、それを打った鍛冶師の実力によりその〝矛盾の加護〟の優劣が定まる。もっともその場合、その前に使い手の技量で決着がつくでしょうけれどね」


 シンディ妃殿下の解説は、実際には証明されていない、または証明出来ない(たぐい)の理論。科学的なレポートとしては不十分でしょう。

 けれど、この〝剣と魔法の世界〟では、充分実用的な理論として成立しています。この理論に基けば、所謂魔力付与(エンチャント)の魔法に応用出来ますから。

 そして、〔神鉄炉〕。ヒヒイロカネの、というよりも神聖金属の〝不壊〟属性を解除出来る、特定の魔力波長(パルス)を持っている、という事だと思われます。


 魔力の波長。これは、研究する価値のあるテーマかもしれません。

(2,817文字:2018/05/15初稿 2018/11/30投稿予約 2019/01/24 03:00掲載予定)

・ 人間の体は、体内に魔石があると、それを異物と判定してそれを排出しようと無意識に様々な力を働かせてしまいます。けれど外科的手法でなければそれを取り出せない為に、魔力が暴走して自家中毒のような状況に陥ってしまうのです。その上その魔力は魔石を成長させてしまい、臓器その他を圧迫して生命を脅かすことになってしまいます。

 けれど、身体に馴染んですぐに摘出し、けれど肌身離さず持っていれば。魔石の魔力は空間から収集されて宿主の魔力を消費せず、宿主もそれを排出する為に無駄な魔力を使う必要がなく、その一方で自身が使う魔力に魔石の力を頼れるという、高効率な魔力バッテリーと化すのです。なおプリムラ嬢は、その余剰魔力は(無意識に)若さを保つ為にのみ使用している模様。

・ ドレイク王国では、一つの仮説があります。「経産婦ではない女性の身体に魔石を埋め、その後その女性の胎内で卵子が受精したら。着床した胚は、母体に埋め込まれた魔石の魔素を全て吸収して先天的に厖大な魔力を有する胎児になるのではないか?」と。但し、この仮説を記したレポートは、禁忌指定されて王宮の奥に封印されています。

 その論文(レポート)作成者:「やべぇよこんな発想ばれたら狂人扱いされるよ妃たちに白眼視されるよでも後世の資料になるから捨てる訳にはいかないけれど、うん、俺の権限で禁忌指定な?」やっぱこいつが諸悪の根源のようでw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ