第13話 自主練習
第03節 冒険の準備〔3/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
お互いの呼び方の確認が終わった後、改めて飯塚くんの護身具の分配を続けました。
「タクティカルペンは武田、お前が持て。
いつも色々メモっているお前の場合、いざという時に武器に持ち替える手間が省ける」
ボクにはタクティカルペン。
勿論わかっています。これは、どこまで行っても「護身具」です。
だけど、これら「護身具」を持つ最大の意味は、「いざという時に頼れるという安心感」でしょう。
「ファイアスターターは、美奈、使い方憶えているよな?」
「うん。だけど、魔法を使えば必要なくなるんじゃない?」
「そうだと思うけど、手段は複数必要だ。何があるかわからないからな。
それから、レニガードも美奈が持て。代わりに、痴漢撃退ブザーは武田に渡せ」
「良いけど、どうして?」
「レニガードにも、警報ブザーはあるから。二つ持つ必要はないだろう?」
「わかった」
懐中電灯は、柏木くんに。
「これは、柏木だ。伸縮式警棒を兼ねているから、場合によっては柏木の主武器になるかもしれないな」
「確かに、下手な武器より安心出来そうだな。だけど、伸縮式ってことは、その分壊れ易いだろう? それに、〝電灯〟として考えても貴重品だからな。使い時は考えるよ」
そして最後に、飯塚くんはペンシルトーチを松村さんに渡した。
「これも、魔法があれば必要ないかもしれないけれど。色々と使途があるからね。あり過ぎて、ガスが持つかどうかが不安だけど」
「了解した。なるべく頼らず、けれど効果的に使うことを約束しよう」
◇◆◇ ◆◇◆
こうして、喧嘩から始まり身体を動かし続けた一日は終わりました。
なお、松村さんは、ストレス(精神的・環境的両面)から月のモノが狂い、挙句この世界の用品の質が悪過ぎて不快だった為、精神を更に荒ませた、と後で聞きました。
いや、そんなこと言われても……。
◇◆◇ ◆◇◆
それから数日間。
魔術師長もエラン先生も、暇を持て余しているという訳ではありません。
だから毎日講義を受けられる訳ではないので、基本自主練となるのです。
魔法については、〔亜空間倉庫〕の性能確認。例えば、「五人全員が揃って望む」のが起動の条件だとしても、離れた場所でそれを行う事が出来るでしょうか?
タイミングを合わせて(つまり同時刻に)、別々の場所で〔亜空間倉庫〕の開扉を試行してみました。結果は不可能。上手くすれば、はぐれたときに再合流する為、とか、誰かが先行して奥まで行って、〔亜空間倉庫〕経由で合流すれば、事実上の瞬間移動が可能になるのに、とか、色々と考えていましたけど、残念。
そして、属性魔法。
当たり前だけど、加護の儀式などはまだ受けていません。けど、どうせ「精霊神の加護」なんていうものは、ボクらには価値がないでしょう。なら、思い切って全属性を目指すべき。
そう考え、属性の区別を無視して幾つかの魔法に挑戦し、そして更にそのうち幾つかの起動に成功しました。
例えば、「高熱を伴う火」。〔烈火〕と名付けました。高温を維持出来る時間は僅か数秒。そして目算で引火点が300℃以下の物質(木材等の一般の可燃物)であれば、点火することが出来るでしょうが、人間に直撃させても、精々火傷どまり。それでいながら〔再生魔法〕の数倍の精神的疲労(MP減少?)を感じました。なおこれは、標的までの距離の二乗に比例する感じですから、至近距離ならもう少し楽に、そして長時間高熱を維持出来そう。
水属性。これは水操りと冷気を扱う魔法だといいます。過去別の大陸にいたという『氷雪の魔女』は、一軍全てを凍り付かせるほどの冷気を操ったとか。
だけど、「水が冷気を操る」。それは、水(氷)を相転移させて気化(融解)潜熱で周囲を冷ますというものだと理解するのが簡単でしょう。それ以前に、水属性には〔氷槍〕などという魔法もあるようですし。普通、熱量変化とセットになって行われる相転移を、熱量変化を伴わずに行えるのなら。或いは「相転移」という結果だけ持って来て、熱量変化の辻褄合わせを無理矢理実現させれば。魔力的にも節約出来そうです。
そして、忘れちゃいけない。熱量変化とセットになる現象に、気圧があります。即ち、「断熱圧縮」と「断熱膨張」。
「水の相」と「圧力」と「熱量」。この三つを上手くコントロール出来れば、更に色々な事が出来そうです。
なお、水の相を操って作った氷で、〔亜空間倉庫〕の実験も行いました。ボクたちが入っている時は、氷は普通に融けました。けど、出る直前に作って倉庫内に置いておいた氷は、次に入るまで凍ったままでした。これは、ボクらの存在に時間が依存している、と考えるべきでしょう。なら。
体育館の、体育用具入れがあるはずの場所に、「冷蔵室」を作りました。否、実際中を冷気で満たすのではなく、「倉庫」を開けても「冷蔵室」を開けるまでは「冷蔵室」内の時間が止まっているように、です。
ところで、意外に役に立つのが無属性魔法。
ただ物を動かす力。つまり、〔念動力〕。PKが使えるのなら、それだけでまた出来ることが増えます。
◇◆◇ ◆◇◆
魔法の研究だけをしていた訳じゃありません。武器の扱い方なども練習しました。
ボクや髙月さんは、槍を使っても大した事が出来ないけど、飯塚くんはそれなりにサマになっていました。聞いてみたら、中学生時代、野生動物相手での槍の使い方は猟師さんに習ったことがあったそうです。
そして、長柄戦槌を使う柏木くんや大刀を使う松村さんは、充分実戦に耐えるレベルで武器を使い熟していました。
一方、弩の使い方も学びました。こちらは、一番上手なのは飯塚くん。次いで、ボクでした。昔友達に誘われてサバイバルゲームをやったのが、効果があった?
残り三人は、ドングリの背比べ。一応、前に向かって撃てるというレベル。でも、それだけでも援護射撃には充分かもしれません。
そして勿論、飯塚くんの持っていた護身具の使い方も、です。
今、ボクたちが「火を点ける道具」としては三種類の物を持っています。火打石、ペンシルトーチ、〔烈火〕の魔法。
この中火打石は、手間がかかるけど、魔力も燃料も消費しない(その上この世界にあるであろう火打石より性能が良い)。ペンシルトーチは、燃料を消費するものの、高温(1,300℃)の炎を一定時間維持出来る。そして〔烈火〕は簡単だけど、魔力を使う。なら。
日常は火打石を使い、時間を節約するときは〔烈火〕を使うようにして、それ以外の用途は〔烈火〕とペンシルトーチを使い分けるのです。
他にも、ナイフ類がどの程度の切れ味か、クボタンやタクティカルペンがどの程度使えるか。確認しておく必要があるんです。
他にも、馬の扱いも。
この世界でも、やはり馬は貴重品。だけど、騎乗したまま戦闘を、とか考えないのでしたら、一般兵や商人でも馬に乗ることくらいは出来ます。
最低限、馬に乗ってそれを操る。それが出来なければ、旅など出来ようはずもありません。
そんなことをしているうちに、24日目。
実際に、山に入って野獣などを相手にした野外実習を行うことになったのでした。
(2,997文字:2017/12/04初稿 2018/03/01投稿予約 2018/04/25 03:00掲載 2019/04/22誤字修正)
・ 武田雄二くん:「今、ボクたちが「火を点ける道具」としては三種類の物を持っています。火打石、ペンシルトーチ、〔烈火〕の魔法」
・ 魔術師長:「〔着火魔法〕はどうした?」




