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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第15話 紋章事件

第02節 紋章〔9/9〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


「領主様に口添(くちぞ)え、だと?」


 松村さんが、ボクらを半包囲する冒険者旅団(パーティ)に逃げ道、という名の最後通牒を投げかけると。そのパーティのリーダーらしき人物が、食いついてきました。


「領主様の名前を出せば、俺たちが(ひる)むとでも思ったか?

 そもそも、これは冒険者ギルド内部の問題だ。領主様が介入するとなれば、それこそギルドの自治権の侵害。そんなことが許されるはずがない!」


 おっおう、このリーダーさん、なかなかに学があります。けど。

 仮に今回の問題を「冒険者ギルド内部の問題」と定義したとしても、領主(貴族)がそれに介入出来ないというのは、空論でしかありません。何故なら「ギルドの自治権」を保証しているのが、その領主様なんですから。

 そして、法より身分が優先するこの時代・この世界。そんな形式論で回るはずがありません。そんな空論を能天気に信じる事が出来る時点で、ギルドに守られている自分を自覚していないという証左。


 また、「冒険者ギルド内部の問題」と主張するという事は。

 レイリアさんの言葉を鵜呑(うの)みにしているということ。ここにギルドマスターが関わっていれば、もう少し慎重に(或いは狡猾(こうかつ)に)事情を冒険者たちに伝えていたはずですから。

 言い換えれば、この冒険者たちは、提示された情報を精査する能力さえないということです。


 多くの冒険者に接する受付嬢であるレイリアさんが、このパーティを選んだという事は。このパーティが扱い易いという理由もあるのでしょうけれど、同時に能力に於いても信頼出来ると太鼓判を押したからのはず。つまり、ベルナンドシティの冒険者の水準(レベル)は、この程度ということになります。


「そう。つまり貴方たちは、『ただ命令に従っただけ』、ではなく、『自分の意思で領主様の特使であるあたしたちに剣を向けた』という事ね。ならこれ以上、言葉を交わす理由もない。

 ベルナンド伯爵に対する叛逆(はんぎゃく)行為の実行者として、貴方たちの首級(くび)を領主様の(もと)に提出することにしましょう」


 松村さんが、会話を打ち切ります。

 だからボクは、いきなり戦闘投網(レーテ)を、今まで口を開いていたパーティリーダーに向かって撃ち出しました。そして、〔帯電〕。この程度なら死なさず失神するであろうというレベルの電圧で。万一それで心臓が止まったとしても、まぁ事故ですし(笑)。


 そして、ソニアと松村さんの二人は、一対一でそこらの冒険者に(おく)れをとることはあり得ません。また柏木くんも、実は一対一なら中堅冒険者にも劣るけど、髙月さんの〔泡〕と飯塚くんの(クロスボウ)の支援があれば、かなり優位に戦闘を展開出来るんです。

 髙月さんの〔泡〕は、それが(はじ)ける衝撃は「気の所為(せい)?」と思える程度のモノでしかありません。けれど、言い換えればそれだけ確実に気が()がれるという事ですから、それは柏木くんにとって絶好の(すき)になるんです。

 またその〔泡〕は、飯塚くんのクロスボウから放たれる矢弾(クォレル)を妨害することがないようです。〔泡〕は、それを生み出した当人にしか視認出来ませんが、どうやら髙月さんは飯塚くんの狙いを読み、その射線上の〔泡〕をどかしている模様。でも、髙月さんの位置からは、飯塚くんの後頭部しか見えないはず。どうやって飯塚くんの目線、狙いを把握してるんだろう?


 ものの二・三分。それだけで、この冒険者たちを制圧する事が出来ました。


 そして、それを見て、逃げ出そうとするレイリアさんの脚を、ボクの微塵(みじん)()らえます。

 戦闘に、ボクの微塵は使用を禁じられましたが、それは戦闘の最中に於いては手加減も出来ずまた狙い通りの場所に命中しない危惧(おそれ)もあった為、万一を警戒したからです。

 けど、相手は非戦闘職で且つこちらに背を向け逃げ出している状況。なら、〔無属性魔法〕で微塵の軌道を調整すれば、確実にその脚を捕らえる事が出来るのです。もっとも、脛骨(けいこつ)腓骨(ひこつ)複雑骨折くらいはするかもしれませんが、骨折が治るまでこの女性が生き(ながら)えることはあり得ませんし。


 戦闘が終わると。ボクらの後方から、ベルナンド伯爵家の馬車が近付いてきます。髙月さんが事前に報告してくれていましたから、驚くことではありませんが。けどこの様子だと、今朝の時点でレイリアさんの、そして冒険者たちの行動を、領主様は知っていたようです。ボクらはつまり、(デコイ)代わりに使われたという事ですが、まぁこの程度なら腹を立てる理由にもなりませんし。それに、だからこそボクらも遠慮なく戦闘に踏み切れたんですけれど。


 冒険者たちとレイリアさんは縄で繋がれ、馬車に引き()られる格好になります。

 ボクらは再び馬車に乗り、ベルナンドシティに逆戻り。


 このあとのことは詳細に語る必要もないでしょう。


 冒険者ギルドは騎士団により閉鎖され、ギルドマスターをはじめとする全職員が一旦逮捕されることになりました。

 そしてギルドマスターと幹部職員、レイリアさんと彼女の行動を知っていて(いさ)めなかった一部の一般職員が、領主に対する〝クーデター〟の当事者と看做(みな)されて罪に問われることになりました。

 ギルドマスターとレイリアさん、そしてボクらと戦った冒険者パーティは、全員絞首刑となり、その死体はそのまましばらく(さら)されることに。

 その他このクーデターに関与したと看做された職員は、全員犯罪奴隷として〝誓約の首輪〟を付けられた上で強制労働に。


 ギルドが完全に機能停止したことで、ベルナンドシティの冒険者たちは無職の賤民(せんみん)に落ちざるを得なくなり、身分保障の為に過酷な任務(クエスト)を課せられることになったのでした。


☆★☆ ★☆★


 魔王戦争。

 その戦争の序幕は、人類軍側がその意味を理解せず、ただ地方の魔物との大規模戦闘、と認識していた為、(いたずら)に被害を拡大する結果になってしまった。

 いち早くその意味に気付いたスイザリア王国の冒険者〝ア=エト〟が近隣諸国を駆け巡り、魔王との戦いの意味を()き、各国を動かすことでその戦争は次のステージへと移行したのである。


 けれど、その最中。ローズヴェルト王国のとある(・・・)冒険者ギルドは、事態の深刻さを理解せずに独自の行動に出た挙句、領主の特使を私兵で襲撃するという、あってはならない問題を起こしてしまった。

 一説によれば、そのギルドの受付嬢の暴走が原因、と()われるが、冒険者ギルドが領主に対して叛逆行為に出るという、前代未聞のその事件は、「紋章事件」としてローズヴェルト王国に不名誉な歴史を刻むこととなる。


 この後、ローズヴェルト王国内に於いて、冒険者ギルドの権限並びに行政に於ける発言権が大幅に制限され、冒険者たちはそれぞれの領主の隷下に置かれることとなる。

 それを(きら)った冒険者たちが一斉に国を離れ、同国の未開拓領地の開拓事業は百年遅れることになった、と研究者は分析する。


★☆★ ☆★☆

(2,915文字:2018/05/09初稿 2018/11/30投稿予約 2019/01/14 03:00掲載予定)

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