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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第11話 身分と立場

第02節 紋章〔5/9〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 390日目の午後。

 冒険者ギルドを出た美奈たちは、その足で領主城に向かったんだよ。

 当然、身分のない冒険者に過ぎない美奈たちは、先触れ(アポ)もなく領主様の謁見が(かな)うことはない。けど、勝算はあるの。美奈たちの身分を証するものは、ちゃんと用意されているから。ただそれは、衛兵やギルドの受付嬢相手に提示出来るほど安くはない、というだけで。


「止まれ! 何だお前たちは?」

「俺たちは、スイザリア王国モビレア公爵の特命を受けて、ローズヴェルト王国ベルナンド伯爵に謁見を求める冒険者です。

 まず、これを紋章官様にお渡しください」


 そう言ってショウくんが門番さんに渡したのは、カメオのブローチ。

 モビレア公爵夫人に、ドレスを仕立ててもらった時。これも一緒に(もら)ったの。裏に、公爵家の紋章入り。つまり、これが第一の身分保障。


「紋章官様に、裏に刻まれた紋章を確認してもらってください。確認が取れましたら、領主様宛の書状をお見せ致します。おそらくそれで、俺……私たちの身分が証明出来ると思われます」


 勿論、門番さんたちは(いぶか)しげ。当然だと思う。身分のない冒険者風情が、公爵家の紋章入りのブローチを持っている、ということ自体普通じゃない。それが自国か他国かはこの場合あまり問題にならない。普通に考えれば、どこかから盗んで来た物となる(それは「窃盗」という以上に「身分詐称」という大罪)。だけど、それと共に領主様宛の書状を持つという事が、このブローチを正規の手段で入手した可能性を示すの。

 けど、門番さんに書状を託すことは出来ない以上、これが美奈たちに出来る唯一の手続きということ。


 それを理解したからか、門番さんの一人がブローチを受け取り、城内に走った。

 その間美奈たちは、まず帯剣している小剣(ショートソード)剣帯(ソードベルト)ごと外し、足元に置いた。これは、戦闘する意思はないという表明。

 そして五人全員、門番さんの前(門から一歩脇に避けて)で整列し、返答を待ったの。


 待つこと(しば)し。

 門番さんの一人が戻って来て、美奈たちに言った。


「紋章官様、そして家宰(かさい)様がお前たちの為に時間を割いてくださるそうだ。

 感謝せよ」

「有り難うございます。剣はお預けします」


 そして、〝乳通り〟の作法で剣を剣帯ごと門番さんに預け、もう一人の門番さんの後に続いたんだよ。


◇◆◇ ◆◇◆


「貴殿らが、モビレア公の紋章入りのブローチを持っていた冒険者、か?」

「はい。閣下の特命を受けて、ベルナンドまで(まか)()しました」

「……例の、ゴブリンどもの王国の件、か?」

(おっしゃ)る通りに御座(ござ)います。詳細はこちらの書状に。

 封蝋(ふうろう)と公爵閣下のご紋章を、改めてご確認ください」


 封蝋の確認は、美奈たちがここに来るまでに書状を開封していないことの確認。

 そして紋章の確認は、ブローチの紋章と合わせて美奈たちが正当な使者であることの確認、ということ。

 ショウくんが渡した書状は、まず紋章官様が手に取り、その紋章と封蝋印を確認して家宰様に手渡された。


「確かに本物のようだ。

 だが、お前たちは冒険者なのだろう? ではギルドマスターを介してこの書状を届けるべきだったのではないのか?」

「仰る通りに御座います。けれど(わたくし)たちは余所者で御座いますれば、この都市のギルドに籍を持つ際、鉄札(Dランク)から始めることが規約に定められていると言われました。また、鉄札(Dランク)の冒険者では、ギルドマスターに面会する資格がない、とも。

 しかし、事は急を要します。それゆえ不躾(ぶしつけ)ながら、直接登城(とじょう)させていただくことにした次第に御座います」

「事この件について、ギルドの規約を優先する? ギルドマスターはいったい、何を考えているのだ?」

「ギルドマスターのお考えは存じ上げません。抑々(そもそも)そこに至る前、受付嬢のレベルで留められてしまいましたから」

「よくわかった。では冒険者ギルドへは、城から通達することとしよう。

 それで、貴殿らの今日の宿はどこを取っている?」

「まだです。これから探すつもりです」

「それなら、離れの使用人宿舎の空き部屋を使うと良い。食事も、使用人たちと同じで良ければ提供しよう。

 貴殿らが正規の大使であれば、相応に歓待することも出来るが、冒険者という身分でこの都市に来ている以上、そういう訳にもいかないからな」

(いいえ)、過分な待遇で御座います。有り難く、部屋をお借りすることと致します」


 ……うん、この都市に来てから、会う人会う人皆どうしようもない人たちばかりだったから、それがこの領、或いはこの国の普通なのかと思っていたけど。

 取り敢えず、美奈たちの常識が通じる相手が領主様の家宰様だっていうのは、朗報かな?

 勿論、使用人の部屋という事は、壁が薄いだろうし、両隣の使用人さんたちは美奈たちの監視役ってことになるだろうけれど。でもまぁ公爵閣下の紋章が美奈たちを守ってくれているから、騎士王国時代よりははるかにマシ、って思えるよ?


◇◆◇ ◆◇◆


 そして、その日の夕刻。

 冒険者ギルドのギルドマスターが、美奈たちに面会を求めて領主城にやって来た、と聞いたの。

 だから美奈たちは正装(モビレア公爵夫人に仕立ててもらったドレス。髪はまだ(かもじ)が必要)に着替えて、家宰様に部屋を借り、そこの上座に()した。


 そして、やって来たギルドマスターと受付嬢のレイリアさん。


「お前たち、ア=エトとその仲間たちだな。何故この俺に上座を譲らぬ?」


 開口一番、ギルドマスターがそんなことを口にした。けど、立場、わかってるの?


「誰に対して、何を言っている?

 まさか、冒険者ギルドのマスターとして、所属冒険者に対して口を開いているつもりか?

 私たちは、スイザリア王国モビレア公爵の特使としてローズヴェルト王国ベルナンド伯爵にその身分を認められた者。相応の立場があるはずだ」


 おシズさんが、高圧的にそう言った。そう、美奈たちとギルマスの間の関係が、「冒険者とギルマス」の関係であることを否定したのは、ギルド側。しかも、ここは領主城。ただでさえ〝領主様の客〟に会いに来ている以上、膝をつく立場は民間人であるギルマスたちの方。

 こんな、身分や立場を笠に着るやり方は好きじゃないけど。けどそれが求められる場面(シーン)もあるんだ。


「用があるのは貴方のほうですよね、ギルドマスター。おっしゃってください」


 美奈も、その〝立場〟でギルマスに言葉を投げます。ここで美奈たちがギルマスと対等の立場で言葉を交わすのは、「領主城の客分」として美奈たちを受け入れてくれた家宰様、()いては領主様の恥。


「まず、ア=エトに謝罪を――」

其の方(そのほう)は何者だ。如何なる身分、如何なる立場でこの領主城で口を開く?」


 レイリアさんの言葉を、ショウくんが威圧的に(さえぎ)ります。

 冒険者ギルドのギルドマスターは、平民ながらも平時の身分は領主の官僚扱い。その為、通常なら〝公爵閣下の特使〟である美奈たちと対等。この場では「他国の特使」であり、且つ「領主の客分」という事で、美奈たちが上座を占めるんです。

 けど、ギルドの受付嬢は?


 登城すること自体が異例で、許可なく言葉を発する資格など、毛頭ないのです。

(2,836文字:2018/05/07初稿 2018/11/30投稿予約 2019/01/06 03:00掲載 2021/05/07誤字修正)

・ 特殊表記について:「(おっしゃ)る」は貴族言葉としての尊敬語、「おっしゃる」は平民言葉としての丁寧語、と使い分けています。

・ 彼らとモビレア冒険者ギルドのマスター・マティアスがモビレアの領主に呼ばれて登城した際、ギルマス秘書兼受付嬢であるプリムラさんは同行したものの、一切口を開きませんでした。唯一口を開いたシーンは、髙月美奈さんの索敵範囲の広大さを知る者として意見を求められた際のみ。それが身分社会に於ける、貴族の前に出た平民同行者のすべき態度なんです。ちなみにあの時出された料理も、プリムラさんだけは違うモノでした。

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