第10話 ベルナンドシティの冒険者ギルド
第02節 紋章〔4/9〕
◇◆◇ 雫 ◆◇◆
「あら? お宅さん方、見ない顔ですね。余所からいらしたんですか?」
ソニアと合流し、ベルナンド市の冒険者ギルドに辿り着き。いつもの通り受付に並んだ。
「はい、取り敢えず出向です。これが以前所属していたギルドからの紹介状です」
「どれどれ、拝見致します。
……銀札、だったんですね。けど申し訳ありません。
他国で銅札以上を認定されていたとしても、我が国のギルドではいきなり銅札以上を与えることは出来ません。
ご了承ください」
まぁこの辺りの規定は、各国各都市のギルドによって違って当然。ランクダウンは残念だけど、まぁ仕方ないわね。
そもそもあたしたちは、冒険者として活動する為にこの都市に来た訳じゃない。あくまで「冒険者ギルド内部の者」としての立場を確認する為の出向だ。極端な話、ここのギルマスに会い、話が出来ればそれでここに来た目的は果たされる。その上でここのギルマスがあたしたちの言葉を聞かないというのなら、それはここのギルマスの判断。それ以降のことであたしたちは責任を負わない。
「それは、わかりました。で、モビレアギルドのギルマスから、ベルナンドシティのギルマスへ、書状を預かっています」
「わかりました。では確かにお渡ししますので、提出していただけますか?」
「それは出来ません。あたしたちの手で直接渡すよう申し付かっていますので。ギルマスに繋ぎを取ってもらえないでしょうか?」
「申し訳ありません。冒険者側からギルマスに面会請求が出来るのは、銀札以上と規約に定められています。鉄札の皆様には、その資格がございません」
……ちょっと待って。このギルドの規約で降格させた挙句、降格したから面会する資格がない? さすがにそれは、勝手が過ぎるんじゃないのか?
と。
「それで、良いんですか?」
武田が、口を挟んだ。
「どういう意味でしょう?」
「ボクらが持っている、ギルマス宛の書状は、スイザリア王国モビレア公爵の紋章が付されています。つまり、それを貴女が手にする資格があるのか。或いは公爵閣下の特命冒険者を、貴女の独断で門前払い出来るのか。その結果生じる問題に、貴女は対応出来ますか?」
「……それが、本物なら、ですよね」
「おっしゃる通り。けど今、ボクらは自分たちの立場を明らかにしました。なら貴女のすべきことは何ですか?
すぐにギルマスに連絡するか、それとも領主様の紋章官を呼び出して、ボクらの所持している書状に付された紋章が本物かどうかを確認すること、ではないでしょうか?」
「……で、ですが、貴方がたは鉄札冒険者である以上、ギルマスに面会を請求することは出来ない規定になっています。また、私は領主閣下の紋章官様をお呼び立てする身分にはありません」
「ではどうする、と? 領主閣下と連名のギルマスの名は、閣下の閣僚としての立場が公的に認められます。その特命を受けてこの都市に来たボクらは、閣下の大使でもあるんです。
ボクらは冒険者としての筋を通す為に、まずこのギルドに出向登録をさせていただきました。そして同じく筋を通す為に、ギルマスに面会を要請しているんです。
拒まれるのでしたらそれでも構いません。直接領主城に赴き、領主様に面会を依頼します。
そうなったら、当然その後のスイザリアとローズヴェルトの方針決定に関し、ここのギルドは何ら関与出来ない立場になりましょうが」
「そのような脅し文句を述べられても困ります。貴方がたとて当ギルドに籍を置くことになった冒険者である以上、規定に従う義務があるのですから」
駄目だ、こりゃ。杓子定規過ぎる、というよりも、現状の事態の深刻さを理解していないんだろう。相手にするだけ時間の無駄だ。
あたしも武田も、そして他の皆も。そう認識して、踵を返したその直後。
「あ、ちょっと待ってください。ここにア=エトさんと呼ばれる方はいらっしゃいますか?」
受付嬢が、そう問うた。
「俺がそう呼ばれているが――」
「でしたら、衛兵舎より請求書が届いております。これは依頼の報酬と相殺されることになっておりますので、取り敢えずクエストを受件していただけないでしょうか?」
……身柄を拘束され、軟禁され、尋問された、その対価、だと?
金額を聞いてみたら。モビレアの『青い鈴』なら、半年は過ごせる金額。ぼったくりも良いところだ。しかも、あたしたちがポーチに入れていた金貨は全て没収(というか着服)した上で、だ。
だから、飯塚は。
「その話は、明日以降にしてくれ。とは言っても、場合によっては明日には俺たちはこの都市を離れることになるかもしれないけどね」
「それは困ります。貴方がたはもうベルナンドシティの冒険者として登録されているのですから、借金を残したまま都市を離れることは許されません」
「誰が許さないんだ? 俺たちは別に、ベルナンドシティのギルドから指名手配されても何ら困ることはないんだが」
「それは、ギルドに対して敵対する、との宣言だと受け取っても構わないのですか?」
「逆だ。ここのギルドが、俺たちに対して敵対すると宣言しているんだ。お姉さん、貴女の対応が、ね」
「……わかりました。明日まで待ちましょう。明日中に、当ギルドの冒険者としてクエストを受件するつもりがないと判断したら、規約違反として指名手配することになりますのでご了承願います」
「それで良い。ちなみにお姉さん、アンタの名前は?」
「私はレイリアと申します。今、ア=エトさんは私の言葉を承諾したと思いますが……」
「〔契約魔法〕が発動しないのは何故か、という事か? 俺たちにとって契約の締結を妨げているのは、レイリアさん、アンタだ。
俺たちは、俺たちに与えられた立場に従って行動している。その上で、ベルナンドシティの冒険者ギルドの立場を配慮して、ギルドに所属する冒険者として出向登録した。
にもかかわらず、レイリアさんは俺たちの立場を無視し、自分たちの都合を一方的に俺たちに押し付けている。それゆえ、規約受諾を約する〔契約〕は成立しない。
また、俺たちの言に正当性が認められたら、第一義的に責任を問われるのはレイリアさん、アンタだ。当然、ギルマスも監督責任を負わされるだろうけれどね。
わかっていないようだから、改めて言う。
既に、俺とレイリアさんの間で交わす〔契約〕のレベルの話じゃなくなっているんだよ。
最小で解釈してもモビレア公爵とベルナンド伯爵の間の連絡。拡大解釈すれば、スイザリア王国とベルナンド王国の外交問題を、身分のない冒険者ギルドの受付嬢の立場で阻害してしまったんだ。
〝責任〟って言葉を使ったけど、レイリアさんとギルマスに責任を問うのは、ベルナンドの領主だ。
精々、身の回りを整理しておくといいよ」
ルールを守ることは大事だけど、ルールを守ることだけに視野が狭窄してしまっては、大切なものを見失う。
けど、あたしたちはそれに責任を負うつもりはない。赤の他人に手を差し伸べる必要はないと、この都市の門兵とギルドの受付嬢に学んだのだから。
(2,960文字:2018/05/07初稿 2018/11/30投稿予約 2019/01/04 03:00掲載予定)
・ 「紋章官」とは、王侯貴族に仕える役職で、世界各国の王侯貴族の家紋、封蝋印(略紋)、戦旗紋、領地紋(国章、市章)等を記憶している職業です。
・ 外部冒険者に対し、ギルマスが面会に応じる理由はありません。外国大貴族の特使が、領主を経由せずに民間人であるギルマスに面会を申し出ることは考え難いです。だからギルマスと話をする為には出向冒険者として登録するか、領主経由で呼び出すかしかないのです。
ベルナンドの冒険者ギルドが最も自然にこの件に関与出来るようにする為、松村雫さんたちは出向転籍を選んだんです。ギルドに籍を持つ冒険者がモビレア公の特使、という立場になれば、ギルマスが一番利を得られますから。
・ 〔契約魔法〕が発動しなかった。これは、〝ア=エト〟が、レイリアさんとの約定を言葉では承諾したものの、それを履行する意思を持っていない、という証明になります。だからレイリアさんの立場では、要注意人物として監視リストに入れるに値するのです。が、客観的に見てどうか、は……。




