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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第四章:断罪は、その背景を調べてから行いましょう
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第07話 ベルナンドの検問

第02節 紋章〔1/9〕

◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 山妖精(ドワーフ)の集落を出てすぐ。オレたちは〔亜空間倉庫〕を開き、飯塚が預かった長巻(ながまき)大蛇(おろち)』を検分した。


「これが、ドワーフの宝、ですか。だけど、どういう意味での〝宝〟なんでしょう?」


 武田の言葉。確かに、俺たちにはごく普通の太刀にしか見えない。

 (いや)、松村の『(ぬえ)』と同じく、神聖鉄(ヒヒイロカネ)で鍛えられた刀身だということがわかるが、それが理由、か?


「この刀は――『鵺』もそうですが――、世間一般に知られる(ソード)とは違う鍛えられ方をしているんです。そして、その素材がヒヒイロカネ。

 通常の剣よりはるかに柔軟で強靭なその鍛造技術の見本という意味がひとつ。ドワーフたちの目指す合金技術の到達点のひとつとして、ヒヒイロカネと同等の強さの鉄、というのがあり、その目標という意味がひとつ。そういう意味での〝宝〟なんです」

「……もしかしたら、(ドレイク)王国でも有名な太刀、とか?」

「とても有名です。

 シンディ妃殿下の嫁入りに際する結納の品、という名目で鍛えられたモノだそうですから。

 もっとも、妃殿下の結納、と言いながらそれを鍛えたのは妃殿下自身ですし、この太刀を実戦で振るったのは陛下ただお一人ですが」


 つまり、〝魔王(サタン)〟の剣、という事か。ゲームなら、ラスボス討伐後に入手出来る最上位の魔剣に該当するだろう。


「そんな太刀を、俺が借り受けていいのだろうか?」

「我が国の言葉には、『馬は走ってこそ、剣は使ってこそ』というのがあります。名馬も名剣も、飾っているだけでは価値がない。使って初めて、その価値が活かされるという意味です。

 『使われず()ちる道具は、使われて壊れる道具より哀しい』、とも。だからこそ、今日使わない道具は、明日すぐにでも使えるように磨き、整備しておく必要があるのだ、と言われます。これは軍でもメイド学校でも、最初に教わることなんです。

 だから、それを必要としている人がいるのなら。その人が仮令(たとえ)敵でも初心者でも、それを託すことは、我が国では死蔵するよりはるかにまし、と考えますから、気にする必要はないと思います」


 つまり、飯塚、じゃなく〝ア=エト〟は、『大蛇(おろち)』を必要としているとドワーフの集落から認められたという事だ。なら〝ア=エト〟がしなければならないことは、「自分がこの太刀を持つに相応(ふさわ)しいか?」などと悩むことじゃなく、ドワーフたちの心意気に応える行動をすることだ、という事なのだろう。


◇◆◇ ◆◇◆


 その後、飯塚は〔倉庫〕内で松村から長巻の扱い方などを学びながら、俺たちはベルナンド(シティ)を目指した。森の中で何度か魔獣(まもの)野獣(けもの)との遭遇戦もあったが、残念ながら『大蛇(おろち)』の出番はなし。さすがに森の中では、取り回しに難のある長巻を使うシーンはなかった。


 そして、森の中を徘徊(はいかい)して四日目の午後。森を抜け、街道に出た。更に二日歩いた385日目の早朝。オレたちは、大きな城塞都市を視界に(とら)えたのだった。


◇◆◇ ◆◇◆


「そこのお前ら、止まれ!」


 市門の通関で、入市税を支払って通過しようとしたところ。オレたちは何故か、衛兵に呼び止められた。


「何でしょうか?」

「お前らは南から来たな? 何処から、何の目的でこの(みやこ)にやって来た?」

「南の、スイザリアの冒険者です。ギルドからの依頼(クエスト)で、ベルナンドのギルドを訪れるところです」

「嘘を()くな! スイザリアからどうやってここに来れる? 言ってみろ!」

「リュースデイルの(せき)迂回(うかい)して、地元の人が知る林道を通って南東ベルナンドに入りました。

 旧ハティス周辺は小鬼(ゴブリン)たちが占拠していましたので、こちらも迂回して樹海に入り、ドワーフの集落を経由して北に抜けました」

「語るに落ちたな。ドワーフの集落の場所など、今では知る者はほとんどいない。怪しい奴ら、連行しろ!」


 問答無用で連行された。が、本当のことを言って怪しまれるなら、どうしたらいいんだ?

 ちなみに、ソニアはここでは普通の単衣(チュニック)を着ている。さすがにメイド(エプロン)(ドレス)は、(ドレイク)王国の同盟国であるローズヴェルトでは知っている人が多いからだ。なお、ソニアの相棒である有翼獅子(グリフォン)ボレアスは、普通に野に放した。ローズヴェルト領内では有翼騎士が飛行するのは普通にあることなので、グリフォンが空を飛んでいてもあまり警戒されないのだそうだ。


◇◆◇ ◆◇◆


「なんか、ボクら行く先々で囚われていますね」


 ベルナンド市の衛兵詰め所にある(ろう)、ではなく、〔亜空間倉庫〕の中で。

 ソニアの()れたお茶を飲みながら、武田がそう()らした。


「最初がキャメロン騎士王国、次がマキアで(ドレイク)王国の『エンデバー号』。そして今度が三度目か」

「前二回と違って、今回は余裕があると思っていいのかな?」


 女子たちも、呑気なものだ。それは別に、逮捕され慣れてしまったという訳じゃない。武装解除といっても、擬装用の小剣(ショートソード)と当座の食糧や雨具等を詰めた背負い袋(ザック)、そして(わず)かな金貨と銀貨を入れた小袋(ポーチ)を没収された程度だ。必要なものは、何一つ失っていない。そして、全員ひとつの牢に放りこまれた為、監視の目を無視して会話が出来る〔倉庫〕も普通に使える。

 とはいっても、尋問は間違いなく一人ずつになる。そしてその時に、21世紀の先進諸国のように人道的な待遇を求めることは、おそらく出来ない。また、「本当のこと」を嘘と認定されている以上、その尋問は過酷なものになるだろう。


「尋問では、下手なことを言ったら面倒なことになるだろうな。

 今は、カラン(ゴブリン)王国を前にして、『人類軍』としてまとまっているとしても、(ドレイク)王国とローズヴェルト王国は同盟国で、スイザリア王国は同盟の敵なんだからな。ソニアが(ドレイク)王国の有翼騎士、だと名乗ったら、余計厄介なことになりかねない」

「だけど、身の危険を感じたら、ソニアは自分の身分を明かした方が良い。俺たちだって状況によっては〝(ドレイク)王国の騎士〟であるソニアを売ることもあり得る。

 俺たち五人は誰かを欠いて永らえることは出来ないけど、ソニアはそんな俺たちに付き合う理由はないからね」


 オレの言葉に対して、飯塚が言葉を継ぎ足す。確かに、ソニアはそこまでオレたちに付き合う理由はない。けど。


「薄情なことをおっしゃらないでください。私は、陛下に命じられてとはいえ、今は皆様にお仕えしております。ですので皆様が陛下に刃を向けられるのであれば、私はその先陣を切らせていただく所存です。

 我が身を惜しんで皆様、ご主人様たちを見捨てたら、メイドの恥。末代まで笑われるでしょう」


 メイドとは、どこの武家の細君なのかと小一時間程問い詰めたい。けど、どちらにしても、ソニアは自分一人逃げ出すつもりはないようだ。

(2,909文字:2018/05/06初稿 2018/11/01投稿予約 2018/12/29 03:00掲載予定)

・ (ドレイク)王国製のヒヒイロカネ合金の(ソード)は、厳密には〝ソード〟ではなく、〝直刀諸刃造りの太刀〟。西洋剣と同じ使い方も出来ますが、所謂「平安刀」で、突いて使うのが正式な用法。実はそれゆえ、通常のソードとは重心(バランス)も違うんです。

・ 「語るに落ちたな。ドワーフの集落の場所など、今では知る者はほとんどいない」という衛兵の言葉。これは一般市民並びに外国人は、という意味です。市内に籍を置く冒険者なら知っていて当然ですし、一部の商人や鍛冶師も当たり前のように知っています。裏を返すと、「知っている」人たちにはそれなりの理由があるということ。それに該当する理由もないのに「知っている」のが怪しい、とこの衛兵は考えたようです。


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