第05話 俺の名は。
第01節 ドワーフの里〔5/6〕
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
「おい、そこの小僧。お前は残れ」
大鬼の素材をラップさんの弟子たち(中には小学生くらいに見える子供もいた)に預け、皆と一緒にルシアおねーさんに連れられて、客間に向かって歩こうとした途端。
ラップさんは、俺を指差しそう言った。
「構いませんけれど、何故?」
「あの杖剣は、お前が使うモノだろう? ならもう少し話を聞かせろ」
そういう事情なら、否やはない。
「わかりました。でも何をお話すれば宜しいでしょうか?」
「お前があの杖剣を、どう使うか、だ。
さっきも言ったが、杖剣という武器は、その場凌ぎに作られるものだ。剣使いを育てる時間はなく、一方改めて槍に鍛え直す時間もない、みたいなときに素人兵に対騎戦力を与える為に作られるものだ。お前が今しているように日常に携行する武器じゃない。
普通に持ち歩くのなら、槍なり剣なり大刀なりを使うべきだ。ではなぜあんな奇抜な武器を選ぶ?」
「選んだ、というよりも、他に選択肢が無かったんです。
俺は、剣も槍も、一年前まで触ったこともありませんでした。だから短期間でそれなりにサマになる扱いが出来る武器、という事で、槍の使用を推奨されました。
が、その槍は折れました。そしてその頃から、神聖鉄級の武具を必要とする場面が増えていったのです。
その為、偶然入手した、あのヒヒイロカネの長剣を有効活用することを求め、俺でも取り廻せるように柄を伸ばし、杖剣とすることにしたんです」
「そういう事情ならわかった。そう言えば、その頃お前らが拠点にしていた場所は、スイザリアのモビレアだったな?」
「はい。ヒヒイロカネ合金を加工出来る鍛冶師がおらず、けれど柄を伸ばし取り敢えずの重心を調整することは出来ると言われたので」
「よくわかった。
で、次だ。お前はいつも、どんな戦い方をしている?」
「剣や槍を使った戦いの場合は、前に出て敵の注意を惹き付けるのが役目です」
「お前が? もう一人の、あの背の高い男の方がマシな盾役になるんじゃないのか?」
「彼には攻撃担当としての立場があります。だからこそ、俺が盾役になれば彼は自分のリソースを全て攻撃に割り振れます。
一方俺はまともに振るっても大してダメージを与えられませんから、この役割分担になっています。そしてだからこそ。俺の武器は、まぐれ当たりを相手が警戒するような、高性能な武具である必要があるんです」
「……地味にダメージを蓄積させるのではなく、大振りで運良く当たれば大ダメージ、というのでもなく、はじめからまぐれ当たり狙い。結果全く当たらなかったとしても、敵が警戒してくれれば前衛の攻撃チャンスを作れ、敵が警戒しなければそれだけまぐれ当たりが出る可能性が高まる、か。
面白い。
面白いぞ、小僧。気に入った。お前の名は何という?」
「え? あ、えと、ショウです」
「ア=エト・ショウ、か。憶えたぞ。ではア=エト、話は終わりだ。行くと良い」
「――〝ア=エト・ショウ〟じゃなく、〝ショウ〟です……」
「話は終わりだ、と言った。下がれ。今からここは鍛冶師の仕事場だ。
鍛冶師ではないア=エトにはもう、ここにいる資格はない」
「……はい......」
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
ルシアおねーさんは、美奈たちに客間を四部屋空けてくれたよ。
それぞれ簡素な(けれどしっかりした造りの)ベッドが二つ。
部屋割りは、美奈とおシズさんとエリスちゃんで一部屋、ソニアが一人で一部屋、柏木くんと武田くんで一部屋、ショウくん一人で一部屋。ショウくんと美奈で一部屋にすれば、一部屋少なく出来るのに。そう言っても「結婚前の若い男女が同室なんて駄目です!」ってルシアおねーさんに叱られちゃった。
ちなみに、この家には普通にお風呂もあるようで、遠慮なく使っていいと言われてむしろ恐縮しちゃった。だって、この世界での燃料代の高さは、これまでの生活で嫌って程理解しているから。日本にいた時みたいに、気軽にお風呂を沸かせる訳じゃないし。
と言ったら、「なら薪割りの仕事を手伝って」って言われた。多分、仕事をさせることで美奈たちが変に気遣いしないようにっていう、ルシアおねーさんの気配り。男子は喜んでそれを請け負い、柏木くんなんかは腕まくりしてさっそく裏庭に向かって歩き出したよ。
美奈たちも、荷解きするような荷物はないから、一緒について行った。手斧を振るうのは一人でも、手伝えることはたくさんあるから。例えば、積んである薪を持ってきたり、割った後の薪を集めたり。当座に使う分以外は、ロープで括ってまとめておく必要もあるんだよ。それに大鋸屑みたいな小さな屑も、集めて圧縮成型したあと焼いて炭にするんだって。「オガ炭」っていうんだって、武田くんが言っていた。
そして、しばらくしたらショウくんもやって来て、手斧を手に取って薪割りを始めた。二人になったから、効率も当然二倍。手伝いも倍忙しくなった。
でも、なんかショウくん、楽しそう。ラップさんとの話で何か良いことでもあったのかな?
「話って、何だったんだ?」
手斧を振るいながら、柏木くんが問います。
「杖剣の使い方について、だった。どうも、俺の戦闘スタイルに合わせて調整してくれるみたいだ」
「よかったじゃねぇか」
「なんか妙に気に入られたみたいでね。名前も聞かれたよ」
「そう言えば俺たちは、ラップさんからは名前を聞かれてないな。『奴隷風情の名前を憶える必要などねぇ』とかって思われてそうだ」
「あの人なら言いそうだな」
そんな話をしていたら。
「ア=エトさん、他の皆様も。
食事の支度が出来ましたので、いらしてください」
ルシアおねーさんが呼びに来た。……って、〝ア=エト〟?
「……『あ、えと、ショウです』って言ったら、〝ア=エト・ショウ〟が名前だって思われたみたいで――」
「そうか。じゃぁア=エト。行こうぜ」
「そうだな。ア=エト。行こう」
「ア=エトさん、呼ばれてますから行きましょう」
「柏木、松村さん、武田。お前ら楽しんでいるだろう?」
「ショウく……じゃなくて、ア=エトくん、あんまり皆をイジメちゃ駄目だよ?」
「美奈まで! っていうか、現在進行形でイジメられているのは俺だろ!!?」
いきなりの美奈たちの呼び方を見て、ソニアは目を白黒させている。うん、ノリが悪いな?
でも、やっぱりショウくん、じゃなくてア=エトくんはこうでなくちゃ(笑)。
(2,799文字:2018/05/01初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/25 03:00掲載 2019/04/21誤字報告により脱字修正)




