第03話 頑固親爺と合法ロリ
第01節 ドワーフの里〔3/6〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
「そこの貴様ら! 何処から入ってきた!?」
ボクらがドワーフの集落(と思わしき場所)に足を踏み入れると、途端にそんな胴間声が響いてきました。
声のする方を見てみると、身長150cmそこそこの、髭親父。イメージ通りの山妖精です。けれどここで、ボクらは一つの選択をしなければならないんです。
それは、このドワーフの集落が、カラン王国と魔王国、そしてローズヴェルト王国の、それぞれに対してどのような思惑を持っているか。それを、決め打ちするという事です。
二十年前、旧ハティスとこのドワーフの集落は、良好な関係にありました。
けれど今、この地に残っているドワーフたちは、新天地で生活するハティスの民のことを、どう思っているのでしょう? そして旧ハティスを占拠している小鬼のことは? カラン王国と魔王国の関係を、ドワーフたちは知っているのでしょうか? また、この地の支配を目論むローズヴェルトとスイザリアのことを、どう思っているのでしょう?
本人に聞いてみればいい? そんな簡単な話じゃありません。「質問をする」という時点で、こちらから一つ情報(ボクらがドワーフに関する情報を持っていない、という事)を提供してしまう上に、その質問の仕方でボクらの立ち位置が知られてしまう危惧もあるのです。
そしてだからこそ。こういった類の交渉は、松村さんはあまり得意としているとは言えません。だからこそ、ボクが前に出ます。
「あの――」
「フン、奴隷に用はないわい。貴様らの主人は、そっちの娘っ子か?」
「……ボクらは確かに奴隷かもしれませんけれど、現役の冒険者でもあるんですが」
「それがどうした。冒険者でも、奴隷であることには変わりあるまい。
『奴隷に用はない』と言った。とっとと引っ込め」
何というか、以前モリスで散々な対応をされましたけど、それ以上。〝奴隷の首輪〟をしているというだけで、完全に思考停止しています。これは、正直まともに対応するだけ時間の無駄でしょうか?
と、ソニアが前に出て、
「彼らは奴隷ではありません。確かに〝誓約の首輪〟を付けておりますが、それは彼らが交わした〔契約魔法〕の、条項の特殊性ゆえです。
そして私は、彼らの主人ではなく、彼らに仕える女使用人です。あまり主人を侮辱するような言葉は、慎んでいただきたいものです」
……いや、あの、ソニア。ボクらはソニアの主人になった覚えはないんですが。
ともかく、ソニアがそう言うと、そのドワーフはソニアの頭の天辺から足の先まで、正確にはヘッドドレスからメイド服までを睥睨して、
「その格好。坊主んとこの飯炊きか? 主人を鞍替えしたという事か?」
「陛下をご存知で? けど鞍替えとは失礼に過ぎますね。陛下に命じられて、彼らにお仕えしているのですから」
「フン、〝陛下〟か。あの生意気な皮被り坊主が、一丁前に指導者を名乗っている訳か」
「皮被り」って、〝魔王〟陛下のこと? 剥けてないの?
「何年前のことをおっしゃっているのですか? 陛下がハティスの街にいらしたのは、数えで12から13までの二年間です。それから二十年経っているのですから、普人族は相応に成長しますよ?」
「ハン、ドワーフにとっちゃ20年も200年も、大差ないわい。一人前と認めてほしけりゃあと100は年を重ねろって坊主に伝えておけ」
「伝言は承りました。けれど、今の私の主人に対する暴言の撤回と謝罪は、未だ聞けておりませんが」
「奴隷を奴隷と言って何が悪い。〔契約〕の特殊性だと? 特殊でない〔奴隷契約〕があると思うのか? 主人に一方的に利がある形で結ぶ、特殊な〔契約〕を〔奴隷契約〕と言うんじゃないのか? なら、言葉をどう言い繕っても、奴隷は奴隷だ」
さすがに、ここまで言われると腹が立ちます。
けれど同時に。ここまで歯に衣着せぬ、身も蓋もない言い方をされると、むしろ清々しささえ感じるのは、ボクがおかしいからなのでしょうか?
どう言い繕っても、奴隷は奴隷。その通りです。
その通りだからこそ、ボクらは騎士王国の連中に怒りを、敵意を持っているのですから。これが〝特殊な契約〟でしかないのであれば、ボクらは彼らを恨む理由はありません。
「……ユウさま。どうやら話をしても時間の無駄のようです。早々にこの集落からお暇しましょう」
けど、ソニアはこのドワーフの態度から、話をする価値はない、と解釈したようです。いやいや、それじゃぁ日本のネット上なら「煽り耐性が無さ過ぎ」って笑われますよ?
そして、それはそうとして。
このドワーフとソニアの会話で、ボクらが知りたいと思っていた幾つかの情報を得る事が出来ました。
ここのドワーフは、旧ハティスの時代から現在に至るまで、変わらず〝魔王〟と(よく言って)親密な関係を築いている、という事。
カラン王国のことは現時点ではわかりませんが、現在の魔王国のことも、かなり知っているようです。また、ソニアも「陛下に命じられて」と言いました。そのことから、ボクらの立場は(このドワーフにとって)魔王国に連なる身分、と認識されているはずです。
「ねぇ、父さん。わざとやっているの?
リック伯父さんがアレクさんと初めて会った時と、同じような会話を、わざとやってるの?」
と、そのドワーフ親父の後ろから、見た目13-4のドワーフの少女が声をかけてきました。
「あの坊主と同じ、身の程知らずのガキが背伸びしている気配があったからな。あの坊主はそれに対して俺らを脅迫してきた。自分の優位をまざまざと見せつけてきた。
だが、この小僧どもは平然と受け流しおったわ。修行の足りない飯炊き娘だけが気色ばんで見せたがな」
……どういうこと?
「ごめんなさいね、キミたち。ドワーフには、『喧嘩も出来ない腰抜けは相手にする必要もない』っていう価値観があるの。だから初対面の相手には取り敢えず喧嘩を売るのが挨拶みたいなものなのよ」
なんか、凄く迷惑な挨拶の仕方ですね。でも。
「人が本音を晒すのは、酔った時と怒った時」という考え方は実際にあります。だからこそ日本には、〝飲み会〟や〝圧迫面接〟という手法があるのですから。
「で、うちの父さんはこう言っているの。キミたちは、取り敢えず合格だって」
何処か釈然としませんが、認められたというのであれば、それで良しとしましょうか。
(2,798文字:2018/04/24初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/21 03:00掲載予定)
・ このドワーフ。前作『転生者は魔法学者!?』第一章第24話(第28部分)に登場しています(名前は出ていませんが)。あの時「アレク」くんに言いくるめられたドワーフの一人、と認識してください。
・ ドワーフの寿命は、400-500年程度。だから「200年」は〝大したこと〟あります。
・ 圧迫面接の目的は、相手の本音を引き出す為だけでなく、相手のストレス耐性を確認するというのもあります。が、正しい圧迫面接のやり方を知っている面接官が、最近少なくなっているというもまた、事実ですが。




