第42話 悪しき魔物の王
第08節 ゴブリンの王国〔9/9〕
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
カラン王国の小鬼たちは、昔から人類の良き隣人だった。
そして今では、魔王国と交易し、またその尖兵となってこの地に国を興した。だけど。
「武田。機関銃を攻略する方法は?」
「機関銃は、地対地攻撃兵器としてはほぼ無敵です。正面から撃ち破りたいと思ったら、その射程の外からの長距離攻撃か、高空からの爆撃、またはその威力では破壊出来ない障壁を立てて突き進むしか有りません。
ちなみに、レニガードは一定の防弾性能があるとカタログには記されていますけれど、それは品質を保証するものではありません。例えば、防弾楯として歴史上最初に生まれたジュラルミンの盾は、.38口径の弾丸を防げる、というのが一つの謳い文句でしたけれど、弾丸の方の性能が向上することにより、意味を持たなくなりましたから」
「マグナム弾とか、か?」
「マグナム弾は、所謂強装弾専用の弾丸として設計されたものです。それ以外にも、徹甲弾とか、盾の貫通や破壊ではなく衝撃を浸透させることを目的としたソフトポイント弾などがあります。
そして、カラン王国の機関銃は、その銃声が『タタタ』ではなく『ヴゥォン』でした。ノイズキャンセラーなしで野外で聞くと音の共振が起こりますから正確ではありませんが、おそらく電気着火の機関銃ではなく、機械装弾のガトリング銃だと思います。
ちなみに、ナチスドイツが発見した、対弾・対爆性能が最も高い複合障壁は、人体だという話もあります。死んだ仲間の身体を盾にして突き進む、というのは、機銃陣地への突入法のひとつでもあります」
この場合何の役にも立たない知識を開陳するな。
「機関銃・ガトリング銃に共通する欠点は、銃身の過熱です。魔法でこの欠点を克服している可能性もありますけれど、その場合は野戦陣地でメンテナンス出来なくなる可能性の方が高いですから、実戦向けではありません。魔王国が試作機の実戦テストのつもりでカラン王国に供与している場合は、この限りではありませんが。
また、ガトリング銃は機械故障が起き易いという欠点もあります。もっとも、これは程度の差こそあれ通常の機関銃にしてもそうで、近代戦でも最後に頼りになるのはナイフだった、なんていうのはよく聞く話ですし」
つまり、地上からの攻撃の場合、弾切れか故障を期待するしかない、という事か。
「でも、カラン王国にガトリング銃座があるのなら。間違いなく迫撃砲や地雷、鉄条網による防衛線などもあるはずです。夜間だって、マグネシウム発光弾くらいは用意しているでしょうから、正直なところ攻略するだけ人材の無駄遣いです。むしろ、魔王国の新兵器の実戦テストと割り切って、全弾撃ち終わるのを待つのが吉でしょう。
言い換えれば。攻略する方法など、検討するだけ時間の無駄という事です」
◇◆◇ ◆◇◆
たとえ攻略方法があったとしても。機銃陣地に突撃するような無謀なことはしたくない。
一方で俺たちは〔契約魔法〕に縛られているから、〝敵対行動を回避する〟ことは、ほぼ間違いなく〔契約〕の違約条項に抵触する。
なら、どうすればいい?
「状況を整理しよう。
俺たちがすべきことは、第一に情報収集、第二に『カラン王国』攻略軍に合流すること。
その第一の任務は、事実上達成出来たと解釈して問題はないだろう。遺品の類の回収は不可能だけど、不可能だという事実が明らかだからね。
問題は、第二の任務。
こんな、中世の武装で二〇三高地に単身突撃、なんて無謀としか言いようがない。
突撃して生還出来たら、間違いなく〝勇者〟と呼ばれるだろうけれどね。
けど、第二の任務を拡大解釈すれば、『戦闘行為は自殺行為に過ぎない』と伝えることでそれを達成出来ると言える。
その一方で、その根拠は? という問いの答えも用意しておかなきゃならない。
スイザリア側には、『カラン王国の後ろには魔王国がいる』と伝えれば事足りる。だけど、ローズヴェルト王国には?
建前上、ローズヴェルト王国は、ドレイク王国の同盟国だ。
そのローズヴェルト王国が現在攻略中のカラン王国の背後に魔王国がいると告げれば、最悪ローズヴェルト王国とドレイク王国の間で戦争になる。
スイザリア側から見れば、敵同士が内輪揉めするのなら好都合、という事になるかもしれないけれど、オレたちの報告の結果人類国家間で戦争が始まる、というのはあまり嬉しくない。
それでありながら、それを回避することが魔王国を利することになれば、それこそ〔契約魔法〕に違約することになりかねない」
俺たちは、〔契約魔法〕で魔王国と敵対することを宿命付けられている。
だけど、真正面から敵対すれば、全滅は必至。なら、生き延びる為に、俺たちは敵対行動を回避する必要があるという事だ。
その行為が〔契約魔法〕と矛盾しないようにする為の、理論武装。それがいま求められている。
「戦闘、それ自体が自殺行為だ。だが、ゴブリンが相手だと、そう言っても誰も納得しないだろう。
なら、その黒幕の存在を明らかにしたらどうだ?」
「それは、魔王国がカラン王国の背後にいる、と公表するってことですか?」
「そうしたら、ローズヴェルト王国と魔王国の間で戦争が起こる。だから、そんなことを告げる必要はない。
ただ、『サタン』を定義すればいいんだ。
カラン王国の背後に、『サタン』がいる。
そいつは、魔物を統括し、現在の精霊神を中心に置いた秩序に反旗を翻そうとしている。
だから、その尖兵に過ぎないカラン王国なんかを相手にしていても、時間の無駄にしか過ぎない、って」
立地的、地政学的にこの地を確保したいと考える勢力にとっては〝勝てない戦争〟を継続したい理由になるだろうけれど、「人類対魔物」という構図を整えるのなら、存在しない〝魔物の王〟をでっちあげるのが、一番確実だろう。
〝魔王〟も、こうなることくらいは覚悟しているだろうし。
◇◆◇ ◆◇◆
〝魔王〟を利する行いをすれば、俺たちの〔契約魔法〕が反応する。
けれど、敵対行動をとれば、周囲の国家に勝ち目はなく、利益もまたない。ならここは、架空の『サタン』に登場してもらい、仮想敵になってもらうしかないだろう。
そして、〝魔王〟がこの地に『カラン王国』をでっち上げた理由を、もう少し深く考える必要があるのかもしれない。
(2,716文字:第三章完:2018/04/12初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/15 03:00掲載予定)
【注:「マグナム(弾)」は、強装弾専用の弾丸の商品名として商標登録されています。但し、それは一般名詞化しています】
・ 白兵戦等を考えた時、「毎分数千発」のガトリング機銃は、弾薬の無駄遣いに過ぎないんです。白兵戦では、弾幕としてばらまくのだとしても「毎分百発」(毎秒2発弱)程度で充分。だから敢えて、発射間隔をその程度まで広げます。自動拳銃などの「3点バースト」などもその論理。ちなみに、音速格闘戦が前提の戦闘機の場合、「毎分数千発」の勢いでばらまかないと敵を捕らえきれない可能性がありますので、電気着火式の機関銃でも「毎分千数百発」から電気モーター式のガトリングで「毎分数千発」を実現させます。




