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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
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第40話 いぬのおまわりさん

第08節 ゴブリンの王国〔7/9〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ボクらの〔亜空間倉庫〕を通じてソニアさんの〔アイテムボックス〕の中身にアクセス出来る。これは、ボクらのソニアさんに対するプライバシーの侵害という一点を無視しさえすれば、物凄く有用です。仮令(たとえ)別れて行動したとしても、ソニアさんは自分の〔アイテムボックス〕にメッセージカードを入れておけば僕らはそれを確認出来るんだし、ボクらも〔亜空間倉庫〕のソニアさんの〔アイテムボックス〕に通じる扉を開いてその中にメッセージカードを入れておけば、ソニアさんに連絡を付ける事が出来るんですから。その性質を利用するのなら、むしろソニアさんの〔アイテムボックス〕がボクらの手の届く場所にあること自体が無駄だという事になります。


 けれど。建前上ボクらは『(ドレイク)王国』と敵対しています。なら、ソニアさんの〔アイテムボックス〕を『(ドレイク)王国』に置いて、ボクらの〔亜空間倉庫〕を通じて連絡を、と考えるのは、さすがに問題があるでしょう。なら当面は、ソニアさんがボレアスくんと離れている時に、〔アイテムボックス〕の中身を取り出したいときにそれを使えば良い、という程度で充分だと思います。


 さて、それはともかく。


 ボクらは、この「南東フェルマール地方」を北上します。実際の距離としては、モビレアとモリスの距離の半分よりちょっと遠い程度。つまり、ボクらが本気で走れば二日で走り抜ける事が出来るという事です。

 けれど、急がなければならない理由はなく、またそれは馬たちを酷使することになるので、なるべくやりたくありません。並足(なみあし)でも、昼夜問わず進み続けるのであれば、単純計算で、4-5日程度で北のハティスに至るはずなのですから。


 そうして進んだ、リュースデイルを離れてから3日目(ボクらがこの世界に来てから376日目)の午後。


「〝1〟」


 髙月さんが、敵影発見の1(コール)


「人間サイズの集団、8人くらい。荷物らしき荷物は持ってないみたい。距離は2kmくらい先。敵かな?」


 その言葉を聞いて、ボクは〔レンズバブル〕を飛ばします。2kmということは、ボクの〔泡〕じゃ届きません。けれど、上手く上空に〔泡〕を到達させられれば映像を屈折させてこの場所まで届けることは出来ます。


 そして〔泡〕が作ったレンズは、2km先の像をクリアに映し出す事が出来ました。まだ小さく、解像度には不満がありますが、


「……犬鬼(コボルト)、って奴か?」


 徒党を組む、犬系の魔物。思った以上に厄介です。


「逃げ場はないし、隠れても犬系ならその嗅覚で(とら)えられる。となると――」

「選択肢としては、先制攻撃しかないな。だが、飼い主(ゴブリン)はいない以上、逃がしてしまえば次は対軍戦だ。

 相手の感知能力を考えると、隠れてやり過ごして背後を採る、という手は使えない。なら――」


 柏木くんと飯塚くんが、戦術について検討しています。


「心苦しいが、松村さんと柏木、そしてソニアの三人を(おとり)に使い、コボルトの前衛が三人と戦っている隙に後衛のコボルトから削っていく、っていう形がベター、か?」

「何が心苦しい、だ。いつもお前がやっていることをあたしらがやるだけだろう。コボルト相手なら、あたしの『(ぬえ)』よりお前の(クロスボウ)の方が効率的だ。ならあたしらは喜んで、お前の盾になってやるよ」


 飯塚くんの言い(よう)に、松村さん。そうです、「前衛が行動し易いように、敢えて自分を囮にする」のは、飯塚くんがいつもやっていること。そして、コボルトの推測される戦闘能力から考えれば、これがベターな戦い方になるんです。もし前衛の三人が、コボルトの前衛をあっさり撃破してしまったら、コボルトの後衛は即座に逃げを打つでしょうから。


「あ、待ってください。実はボクにも腹案が」


◇◆◇ ◆◇◆


 そして、2kmの距離はあっという間に縮まり。

 ボクらはコボルトの部隊と交戦します。おそらくこの部隊は警邏(けいら)。つまり、「いぬのおまわりさん」という事です。だから重要なことは、逃がさないこと。


 前衛三人は、自分たちより戦闘力の劣るコボルトを相手に、撃破せずに引き付けます。そして直接戦闘に参加しないコボルトを狙って、飯塚くんがクロスボウで狙い撃ち。それも、戦闘に参加する姿勢を見せている所謂(いわゆる)中衛のコボルトから。これは、指揮官級の最後衛のコボルトから攻撃してしまうと、こちらの目論見が読まれてしまうかもしれないからです。

 その一方でボクは、開戦と同時に皆から離れ、大回りしてコボルトたちの背後へ。考えてみれば、初めての単独行動です。そして開戦後の大回りなら、コボルトたちの嗅覚は前方の松村さんたちに集中しているでしょうから、この迂回(うかい)に気付かれる危険は小さくて済みます。万一気付かれても、それは飯塚くんにとっての絶好の射撃チャンスになるのです。

 そして、位置を確保して、戦闘投網(レーテ)を〔無属性〕で加速して投射。コボルト後衛の4匹を文字通り一網打尽にしました。

 捕らえたところで、〔帯電〕。遠慮なく、最大電圧。


 これを見て、松村さんたち前衛の三人もそれまでの受けの姿勢から攻撃に転じます。また、行動不能になったコボルトたちには、飯塚くんが一匹ずつ(とど)めを刺して。


 終わってみれば、髙月さんのコールも必要ないくらいの完勝。けど、戦略的にはまだ終わっていません。


「警邏のコボルトが帰還しないとなれば、ゴブリンの本隊が動く。その前に俺たちは旧ハティスの街の跡地まで達する必要がある。ここからは、時間の勝負だ」


 飯塚くんの言うとおり、ここからは全速です!


◇◆◇ ◆◇◆


 馬たちには負担をかけましたが、その分スピードを上げて街道を走りました。

 そして、ある瞬間。


 ボクらは、その音を聞きました。


 前世では聞き慣れた、モーター音のような音。

 (いえ)、小排気量のレシプロ式内燃機関(エンジン)のような音。


 小規模な爆発音が連続することで、一連の音に聞こえる、それによく似た音を、ボクはネットで聞いたことがあります。


 それは、重機関銃の掃射を記録した動画でした。


 ボクらはお互い、顔を見合わせ。

 馬たちを〔亜空間倉庫〕に仕舞い、最大限の緊張を(もっ)て前に進み、そしてある程度近付いたところで〔レンズバブル〕を展開し、その場所の情景を映し出します。


 そしてそこで見たものは。


 『旧ハティス市』であった廃墟を要塞に改造し、そこから南北の人類の兵隊に容赦なく鉛玉を叩き込むゴブリンの姿。


 かつての〝二〇三高地〟も()くあるべし、という光景が、ボクらの視界に飛び込んできたのです。

(2,712文字:2018/03/25初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/11 03:00掲載 2019/02/27誤字報告により指摘された誤字を反映)

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