表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
129/382

第39話 〔アイテムボックス〕

第08節 ゴブリンの王国〔6/9〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


 美奈たちは、リュースデイルの町を一通り見た後、すぐに町を離れたの。

 海外旅行に行くとき、敢えて「治安が悪い」と()われるニューヨークのブロンクスだのミシガン州デトロイトだのを選んで行く人がいるというけれど、美奈たちはそんな趣味はない。それどころか、この世界で言う「治安が良い」町でも、それこそブロンクスやデトロイト、マイアミほど司法が整っていないと考えると、この世界基準で「治安が悪い」町に留まるのは、単なる自殺行為。むしろ魔物が跋扈(ばっこ)する森の中の方が、美奈たちにとってははるかに安全。

 更に、〔亜空間倉庫〕のおかげで外界では24時間連続行動出来る事実を考えると、わざわざ治安の悪い町で宿をとる必要性を感じないから。


 でも、〔倉庫〕を利用して夜通し歩くことを決め、休む為に〝0〟のコールをしようとした時。


「ミナさま、そして他の皆様も。ちょっと頼みごとがあるのですが」


 ソニアが言葉を挟んできた。


「なぁに? ソニア」

「はい、私は皆様に随行することを陛下に命じられて今ここにいます。

 けれど、ここにいるのは私だけではなく、実は私の相棒(パートナー)も一緒なのです。

 そして、皆様の〔亜空間倉庫〕を利用して休息をとり、外界では24時間連続活動することとなれば、遠からず私の相棒は脱落せざるを得ません。

 ですので、『彼』もここに、連れてきていいでしょうか?」


 今ここにいる、(ドレイク)王国関係者は、ソニアだけじゃない。それは大体想像がついてた。だから一瞬だけ皆を見回して、その表情を確認して。


「うん、いいよ?」


 と、肯定しました。


◇◆◇ ◆◇◆


 そのすぐ後。

 ソニアが(ふところ)から取り出した笛(人間の耳には音が聞こえない周波数みたい)を鳴らすと。空から魔獣が降ってきた!


 有翼獅子、グリフォン。


 そう言えば、モビレアのギルドでも最近、近場にグリフォンが巣食ったといって討伐依頼が出ていたけれど……。


「このグリフォン、〝ボレアス〟が私の相棒です。改めて、ご一緒しても構いませんでしょうか?」


 さすがに、ちょっと引いたけど、〝ボレアス〟くんはソニアに懐いているのがよくわかる。大人しい生き物ならちょっとモフりたいとも思ったけど、それはもう少し後にした方がよさそう。


 だからボレアスくんを連れて〔亜空間倉庫〕を開扉し、中で改めて話を聞いてみた。


「私たちメイドは、軍籍を持ちます。ドレイク王国軍に於いては〝有翼騎士団〟として、原則陸上部隊の支援を主任務とし、物資の輸送や野営地の設営・撤去、部隊針路上の索敵などを行います」

「……索敵と輜重(しちょう)を兼ねた、空軍ですか。その航続距離を考えたら、その有用性はボクらの〔亜空間倉庫〕の比じゃないですね」


 ソニアの言葉に、武田くん。どうして?


「陸軍の行軍速度が遅いのは、輜重に合わせなければならないからです。輜重を切り離していいというのであれば、単純にその行動速度は数倍に跳ね上がります。そして、グリフォンの飛翔速度や航続距離は知りませんが、本国或いは集積地(デポ)から必要量のみを輸送する形を取れば、何十日という交戦期間を前提に於いても、一回の輸送量は最小限で済みます。

 そして、ボクらも実感していることですが、行軍も冒険者の依頼(クエスト)も、その行程の9割が移動です。残り1割の戦闘時の為に、重い鎧を着込んだり邪魔な武具を持ったりしなければいけないんです。そして普通なら、接敵(エンゲージ)してから武具を(まと)う事なんか出来る訳ありません。けど、輜重隊が本隊より、それどころか早馬より移動速度が上だというのであれば。本隊は会戦直前まではそれこそ鎧を纏う事さえせず移動に専念し、戦場に到達してから武具を受け取ることも出来るんです。

 成程(なるほど)、これが(ドレイク)王国軍の〝神速の用兵〟の秘密でしたか」

「グリフォン自身も強大な力を持つ魔獣だけど、それを輸送に特化する。それは逆に、万一戦闘になったときにも不安は最小限だという事でもあるのか」


 武田くんの分析に、ショウくんも。確かに、手荷物を別便で宅配してくれるのなら、身一つでの移動は気楽で済む。余計な荷物を一切持たずに新幹線に乗って、目的地の宿に着いたらスーツケースが届いている、みたいな?


 そして、ボレアスくんはその背に(くら)を、またその両脇にコンテナ状の鞄を付けています。


「この鞄は、〔アイテムボックス〕、つまり〔亜空間収納〕と同様の性質を持った魔道具なんです。私の甲冑をはじめとする大荷物は、全てここに入れてあります。……って、え?」


 どうしたんでしょうか? ソニアさんが動揺しています。


「どうした?」

「あ、はい。〔アイテムボックス〕が、機能しないのです」


 それは大変。……だけど、


「ねえ、その〔アイテムボックス〕を、別の〔収納魔法〕の中に(おさ)めたことって、ある?」

(いいえ)、ありません」

「ここ、〔収納魔法〕の内部空間だよ? 〔収納魔法〕の中に〔収納魔法〕を収めたらどうなるか。その実証になったってことだよね?」

「あ、そうですね。でも、だとすると、大丈夫なんでしょうか?」


 さすがに、前例のないことだけによくわからない。

 外界に出れば元通りになるのかもしれないし、〔アイテムボックス〕が壊れちゃったのかもしれないし。


 と思ったら、エリスが。


「おねーちゃん、あっち」


 と、指差しました。

 そこには、(もう驚かない)新しい扉が。

 開いてみると、そこにあったのは。


「……これ、私が〔アイテムボックス〕に収納した物資です」


 どういうことなのかな?


「多分、〔亜空間収納〕も〔アイテムボックス〕も、そして俺たちの〔亜空間倉庫〕も。

 〔収納魔法〕で形作られる空間は、同一なんだよ。ただアクセス権が違うだけで。

 だけど、今回ソニアの〔アイテムボックス〕が、俺たちの〔倉庫〕に持ち込まれたことで、その権限を分ける意味さえ失った、って感じじゃないか?

 それこそ今後の検証次第だけど、この扉が、ソニアが〔倉庫〕内にいない時でも消えずに残っていたら。俺たちは、〔倉庫〕経由でソニアの〔アイテムボックス〕の中身を取り出せる、ってことになる」


 ショウくんの仮説。でもそれが正しいのなら、ちょっとプライバシーの侵害という気も。


「必要なら、適当な町に行って南京錠あたりを買ってこよう。ソニア以外は〔倉庫〕経由で〔アイテムボックス〕にアクセス出来ないように」


 うん、それが良いね。


 そして実際、ソニアとボレアスを外界に残したままで〔倉庫〕に入り、ソニアの〔アイテムボックス〕にアクセス出来るかどうかを試してみた。普通に入れた。


「これって、ソニアにとっても便利使い出来るんじゃないか?

 例えば、ボレアスくんを本国に還して、本国でソニア宛の手紙を〔アイテムボックス〕に入れてもらえばリアルタイムで〔倉庫〕から取り出せる、ってことになるんじゃ?」

「私にとって、というよりも、皆さんの戦略的利便性というか、その立場を考えてください。おっしゃる通りなら、大陸を隔てても瞬時に通信可能になるってことなんですから」


 ショウくんの言葉に、ソニアがツッコミを。しかも通信だけじゃなく物流も、となると価値はとんでもないよね。

(2,937文字:2018/03/18初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/09 03:00掲載予定)

・ (ドレイク)王国では、民間人が予備役登録して有事に戦争に参加することはありますが、軍人が民間の仕事(冒険者業を含む)を兼業することは出来ません。そして、II種(アドバンスド)以上の資格を持つメイドは軍人(騎士つまり武官貴族)です。

 ソニアさんの場合、まずメイド学校でI種(ノービス)の資格を取って休学、冒険者登録をして銀札(Bランク)まで昇格、その後改めてメイド学校に復学して特種(マスター)の資格を取りました。その為、騎士という集団運用前提の兵科でありながら、単独戦闘も(こな)せるという、数少ない独立騎士(オールマイティ)なんです。

・ 野営地の設営と撤収。実はこれにかける時間も無視出来ません。行軍する本隊はこれらに一切かかわりなく、輜重(有翼騎士団)に委ねられる。それが、(ドレイク)王国の行軍速度の秘訣でもあります。

・ 今回の飯塚翔くんの、〔収納魔法〕に関する仮説。これが正しいのであれば、〔収納魔法〕の開閉にほとんど魔力を消費しないことの理由になります。自分の魔力で空間を形作っているのではなく、ただ自分の魔力を鍵にして、そこにアクセス権を設定するだけなのですから。

・ 今回、ソニアの部屋が増設されましたが、気付いているでしょうか、五人の誰の意思にもよらずに部屋の増設が行われたのは、今回が初めてだという事を。髙月美奈さんたちは、いつその意味を考えるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ