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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
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第36話 ゼロの転移攻撃

第07節 ゴブリンの王国〔3/9〕

◇◆◇ 美奈 ◆◇◆


「う……っん――」


 〔亜空間倉庫〕の中で。ソニアさんが身(じろ)ぎしました。どうやら目を()ますようです。


「ソニアさん、気が付いた?」

「う……、っ! ここはどこですか? 大鬼(オーガ)は?」

「大丈夫だよ。ここは美奈たちの〔収納魔法〕が形作る空間で、オーガとはまだ戦闘中だよ?」

「え? 〔収納魔法〕の内部空間? それは一体? それに、まだ戦闘中、ってどういうこと?」

「うん、全部話すけど、その前に。

 ソニアさん、身体に痛いところある? 取り敢えず〔再生魔法〕をかけて怪我は治したつもりだけど、()だ治っていない部分があったら教えて? さすがに鎧の脱がし方はわからないし、服の下に色々隠している物もあるみたいだから、服を脱がすのも失礼だと思ったから、充分治療出来たかどうかわからないの」

「……身体に異常は自覚していません。多分、大丈夫です。それで、オーガのことは――」

「この〔倉庫〕内では、外界の時間は経過しないから。まずはゆっくり休んで? お茶と、軽く(つま)まめるものを作っておいたから。

 そして気分が落ち着いたら、声をかけて? 対オーガ戦を目論んだ、ミーティングをしてるから。


 エリスちゃん。ソニアさんの(そば)にいてあげて?」

「うん、わかった!」


 エリスちゃんは元気よく、良い子のお返事。


「ちょっと待って。まだ話は――」

「エリスちゃんはね? 間違いなく〝魔王(サタン)〟陛下の王女様(プリンセス)だから。美奈たちが聞いちゃいけないことでも、エリスちゃんには隠す必要はないからね?」


 そして、美奈はソニアさんとエリスちゃんを置いてその場所(美奈の寝所)を離れたんだよ?


 で、〔倉庫〕の真ん中あたりに行くと、皆が既にミーティングを始めていました。


戦闘投網(レーテ)が、オーガに逆利用される可能性は、さすがに失念していたな」

「えぇ。もしかしたら、オーガに中距離攻撃手段を提供したことになってしまうかもしれません」

「だとしたら、残念だけどその無力化が先だな」

「はい。レーテの一方の先端は、ボクの足元にあります。力で引き合いになったら、オーガに綱引きで勝てる可能性なんてありませんから、逆にボクの足が(とら)らえられてしまうでしょう」

「なら、〔帯電〕だ。美奈、あのレーテには、確か鋼線を縫い込んでいたよな?」

「うん。電気は良く通ると思うよ?」

「電気ダメージが、どの程度効果があるかにもよるだろうがな。そして、攻撃は――」


 おシズさんの話の途中で、ソニアさんもやって来ました。


「戦闘中に、喫茶(もぐもぐ)タイムと作戦会議(ミーティング)を開ける、ですか。これは絶対の優位性(アドバンテージ)ですね」

「それだけじゃない。この〔倉庫〕に入った瞬間の、俺たちの視界内という限定条件が付くけれど、外界に出る時は、その範囲内で好きな場所に出られる。

 つまり、右から攻撃した次の瞬間、左から攻撃することも出来る。

 柏木みたいに攻撃後(クール)硬直(タイム)が長い(たぐい)の攻撃を敢行しても、その直後に〔倉庫〕に入り、そして出れば、連続攻撃も可能という事だ。

 俺たちは、ソニアさん、(いや)、ソニアに遠慮し過ぎて敢えて手札を伏せた結果が、この苦戦だ。ならもうカードはフルオープン。隠し事なしでやろう」


「皆……。わかりました」


 ソニアさんの気持ちも決まったようです。


「ミナさま。〝0〟のコール、私に任せてくれませんか?」

「うん、いいよ。ソニアさんだけがこの〔倉庫〕に、自分の意思では入れない以上、攻撃の起点はソニアさんになるってさっき話し合ったばっかりなの。

 その代わり、ソニアさんは常に、誰かと一緒にいてね? 攻撃時は柏木くん、おシズさん、ショウくんの誰か。防禦(ぼうぎょ)や後退時は美奈か武田くんと」

「わかりました。ですが、状況が整わないときは、私を無視してミナさまが〝0〟のコールをしてください。外界での時間経過は無いのでしょう? なら、私がここに入れないという不利(ディスアドバンテージ)は、あまり意味を持たないはずです。

 それから、ミナさまもどうぞ私のことは〝ソニア〟と」


 そうだね。もう距離を取らなくても良いはず。

 それに確かに、その時の打ち合わせ内容は次の〝0〟のコール時に伝えることも出来るなら。「必ずソニアも〔倉庫〕に連れ込まなきゃならない」と考えると色々不都合が出てきます。


「わかった。その辺りは臨機応変に。

 今度の『ゼロの転移攻撃』の起点は、でもやっぱりソニアだ。分銅で痛打され、通常なら失神して戦線離脱するべき人が、次の瞬間違う角度から攻撃する。これはオーガにとっても脅威だろう。

 あ、それから、ソニアに聞きたいことがあったんだ。

 神聖鉄(ヒヒイロカネ)は、単純な高温では()けないって本当?」

「はい。〔神鉄炉〕の魔法以外では、ヒヒイロカネを加工することは出来ないと言われています」

「おっけ。なら、もう一手打てる手があるな」

「飯塚、何を考えている?」

「オーガに刺さったままになっている、ソニアの方天(ほうてん)画戟(がげき)の穂先。あれを〔白熱〕させる。その為には接近しなきゃならないけど、多分成功すればかなりのダメージを与えられるはずだ」

「危険だぞ?」

「何を今更。本当に危険が迫っていたら、美奈が〝0〟をコールしてくれるよ」

「うん、任せて?」


 そして、戦術方針が決まり、改めて全員それ用の武装を整え。


「さぁ、決着をつけに行こう!」

(おう)!」


 ショウくんと柏木くんのその言葉が、決戦の合図になったの。


◇◆◇ ◆◇◆


 前衛四人の出現した場所は、吹き飛ばされたはずのソニアを含めてオーガの至近。オーガはまだその位置に転移したことを気付いていないよう。

 武田くんは〔倉庫〕開扉前と同じ位置。ソニアを吹き飛ばした分銅は、ソニアを吹き飛ばしたことで慣性を失い、そこに落ちた。だから武田くんはその分銅の部分とレーテの手元の網の両方を握り、〔帯電〕で電気を流した。回路が形成された以上、これは物質(マテリアル)界のルールに従う訳だから、長時間電気を流し続けることも可能。そしてその電気ショックは、オーガがこれまで体験したことのない衝撃だったようで、完全にその動きは止まったの。


「〝6〟」


 だから、前衛の全員が、何の遠慮もなくまた防禦(ぼうぎょ)や回避を考えもせず、全力の一撃。更にショウくんは、杖剣(ソードスタッフ)で突いたその反動で腕を伸ばし、方天画戟の穂先にタッチして、〔白熱〕。


「〝0〟」


 それを確認して、ソニアの〝0〟のコール。ソニアは、(そば)にいたおシズさんの腕を(つか)みながら〔倉庫〕の中に。

 そして、立ち位置を変えて外界に出て、もう一度大攻撃。この時、ショウくんの杖剣(ソードスタッフ)が、オーガの(のど)(つらぬ)きました。


 結局これが致命傷(クリティカル)となり、オーガを(たお)すことに成功したのでした。

(2,832文字:2018/03/02初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/03 03:00掲載予定)

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