第35話 メイドさんのスカートの中は
第07節 ゴブリンの王国〔2/9〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
さすがに大鬼ともなると、強さの桁が違います。
柏木くんの攻撃は、どの程度ダメージを与えているのか不明。
松村さんやソニアさんの攻撃も、浅い傷をいくつも付けていますけど、全体的に効果が生じているのかはやっぱり不明。HP数万の敵に対し、DP一桁では事実上意味はないでしょうし。
そして飯塚くんの攻撃も、おそらく有効打たり得るものは未だ無し。
実際、オーガの攻撃それ自体は、実はそれほど脅威でもないんです。棍棒の「打ち下ろし」も「薙ぎ払い」も、下手に受けるとか往なして流そうなんて欲をかかず、素直に引いて距離を取ればいいんです。前衛四人は皆長柄の武器を保有しているんですから、オーガの攻撃範囲の外から攻撃出来ます。もっともその所為でこちらからの攻撃には大した威力を載せられず、結果効いているんだか効いていないんだかわからない程度のダメージしか与えられないんですけれど。
その一方で下からの「掬い上げ」攻撃は明確な脅威です。というのは、ただの「掬い上げ」ならやはり距離を取れば避けられます。けれど、恰も素人ゴルファーがアイアンで芝生を叩くように、棍棒で地面を叩き土砂を打ち付けるという攻撃を交えて来るんです。土砂は放射状に広がりますから、距離を取れば(威力は距離の二乗に反比例して下がりますが)それだけ被弾率が上がります。その一粒一粒は大したことはないのでしょうが、全体としてその攻撃は侮れません。
また、オーガの突進力は恐るべきものがありますが、松村さんのように流れるように立ち位置を変えるのではなく、陸上選手のようにあからさまな予備動作から突進に移りますから、後衛のボクらがちゃんと〝8〟のコールをすれば、対処は可能です。もっとも、それは絶対の回避を約束するものでもありませんが。
ボクたちはソニアさんの手前、なるべく〝0〟は使いたくなかったのですが(ソニアさんを仲間外れにしているような気がするから)、既に二度ほど〝0〟を使い〔倉庫〕を開扉しています。そのうち一回はソニアさんを庇った飯塚くんの怪我を〔回復〕する為でしたが。
あるタイミングで。オーガの土砂攻撃を、ソニアさんが一身に受けることになりました。飯塚くんや他のフォローも間に合わず。
けれどその時。ソニアさんの肩楯(外側が小さく、内側が大きい)の、内側のモノが自動的に動き、ソニアさんの顔と身体を守りました。つまり、この肩楯は胸鎧に接着されているのではなく、魔王国で『光属性』と呼ばれる〔無属性〕の魔法で術者との相対位置を固定しているに過ぎず、ソニアさんの意思で自在に動くモノだったようです。
ソニアさんもノーダメージとはいかなかったようですが、それでも軽傷で済んだようです。ただ、それを見てボクはある決意をしました。そして髙月さんの方を見ると、髙月さんも頷きました。どうやら同じ気持ちのようで。
何にしても、現状ではじり貧です。取り敢えず、オーガの動きを止めないと。
その為に期待されているのは、ボクに預けられた戦闘投網を使った〝7〟。上手く使えば、数秒とはいえ時間を稼げます。けど、その隙を見出せないのが現状。
と。飯塚くんの牽制からソニアさんの攻撃に連携しようとしたところ、オーガの薙ぎ払いによって距離を取らざるを得なくなりました。柏木くんは攻撃後硬直で動けず、薙ぎ払いで逆に背中を見せることになる松村さんの攻撃に対しては、無視。このオーガは軽い攻撃はそれ自体を無視することに決めたようです。
したら。ソニアさんは、自分のスカートの裾を持ち、捲りあげるように広げました。一体何を? と一瞬目を奪われましたが(残念ながらスカートの下は乗馬ズボンでしたが)、広げたスカートの中から、苦無が4本、飛び出してきました。それは超小型の戦闘機か誘導ミサイルのように、地上数センチのところを這うように進み、オーガの足元から急加速して突入します。
これは肩楯と同じく〔無属性〕で誘導して投射したのでしょう。どうやらあのスカートの中には、たくさんの武器が秘められているようです。そして。
「〝7〟」
間髪を容れずソニアさんがボクに支援攻撃要請の7。
タイミングを計っていたボクは、それに遅れること無く戦闘投網を投射。見事オーガを捕らえました。
「〝6〟」
即座に髙月さんから前衛に大攻撃の6。
飯塚くんと松村さん、そしてソニアさんの三人は全力で踏み込んで刺突します。また柏木くんは思いっきり振りかぶって長柄棍杖を叩き込み。どれもクリーンヒット。
そしてソニアさんは、方天画戟の穂先をオーガから抜くのではなく、穂先と柄のジョイント部分をワンアクションで操作し、切り離します。そしてスカートの中から取り出した槍の穂先を接続。
「ヒロ! 打撃はここを狙って!」
オーガの体内に残った方天画戟の穂先の場所を示します。それこそトンカチで釘を打ち付けるように、方天画戟の穂先を長柄棍杖で打ち込めば、オーガの硬皮を叩くより効果は高いでしょう。柏木くんは、返事をする暇さえ惜しんでフルスイング。
一方のオーガも、されるが儘にはなっていませんでした。自分に被さる網の所為で動きが妨げられると気付くと、力任せにそれを引き千切ったのです。
そしてその時。想定外のことが起こりました。網の先端の分銅。それが、オーガが網を引き千切った勢いで、ソニアさんに向かっていったのです。さすがにこれには反応し切れず。分銅は、ソニアさんの耳当ての部分を痛打しました。
そして、吹き飛ばされたソニアさんを、ボクが受け止める形になりました。ボクが受け止めたのを確認して、髙月さんが
「〝0〟」
〔倉庫〕開扉の0。
◇◆◇ ◆◇◆
〔倉庫〕の中で。
ソニアさんは意識を喪っています。だから、これ幸いと〔再生魔法〕で治療しました。けど。
「ソニアさんの意識の回復を待って、作戦会議だな」
ボクが言おうとしたことを、飯塚くんに先に言われてしまいました。
「この期に及んで、ソニアさんに〔倉庫〕のことを隠す意味もない。どうせ俺たちの隠し事なんて、〝魔王〟陣営には大した価値のないものだしな」
と、自嘲するように続けましたが、本心が違うところにあることくらい、皆知っています。それに、〔倉庫〕を使った移動攻撃。命名「ゼロの転移攻撃」(命名者である厨二病患者の名は敢えて伏せます)を封印して、結果苦戦しているのでは本末転倒ですから。
けれど、ソニアさんは自分の意思では〔倉庫〕に入れません。だから、「ゼロの転移攻撃」はソニアさんを起点にする必要があるのです。
(2,998文字:2018/03/02初稿 2018/10/31投稿予約 2018/12/01 03:00掲載予定)
・ ソニアさんの肩楯のモデルは、〔永野護著『TheFiveStarStories』ニュータイプ100%コミックス〕に出てくるMH、A-TOLLのラウンドバインダです。




