表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
118/382

第28話 魔物と人類

第06節 北へ〔5/6〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ゴブリンが、王国の建国を宣言した。

 そのこと自体が、一つの重大なことを意味しています。


「質問です。小鬼(ゴブリン)は、人間の言葉を(しゃべ)れるんですか?」

「ああ。音韻(イントネーション)が違い、聞き(づら)いようだが、理解出来ない訳じゃない。ゴブリンの集落と物々交換取引をする山間の集落、というのは珍しくはないからな」

「なら、すべきことは、討滅ではなく外交交渉ではないのですか?」

「外交、だと?」

「はい。相手に知性があり、会話(コミュニケーション)が出来るなら、最初にすべきことは言葉を交わすことです。その山間の集落は、どのようにしてゴブリンの集落と商取引することになったのですか? どのタイミングでか、言葉を交わしたからではないのですか?」

「集落単位では、そういう事もあっただろう。だがそれは、豺狼(やまいぬ)の群れに対して定期的に(エサ)をやることで、収穫物を守ることに他ならない。

 魔物(ゴブリン)の国家を、人間の国家と対等と看做(みな)して言葉を交わすことなど、出来ようはずもない」

「何故ですか? この世界には、森妖精(エルフ)山妖精(ドワーフ)もいますよね? そして獣人もいます。そういった、所謂(いわゆる)亜人(デミヒューマン)と、ゴブリンのような魔物。何処に違いがあるというのですか?」


「お前は、犬獣人と犬が同じだと思うか? 人と魔物が同じだと思うか? 外でそんなことを言ってみろ、殺されても文句は言えないぞ?」

「ボクらの世界では、白い肌の人が黒い肌の人を『あいつらは人間じゃない』と言って家畜のように取引した歴史があります。自分たちの信じる神の形を自分たちで描き、それ以外の神を信じる人たちを『あいつらは邪神の下僕(しもべ)だから滅ぼさなければならない』と言って虐殺した歴史があります。

 ボクらの世界には、妖精も獣人もいません。もしいたら、それは普人族(ヒューマン)じゃないというだけの理由で、迫害の対象になったでしょう。

 だから、教えてほしいんです。

 何故、貴方たちは妖精や獣人を受け入れられるのに、魔物は受け入れられないのかを」

「魔物は魔物だ。それ以外に何がある?」

「知性があり、会話(コミュニケーション)が出来る。これだけで充分です。

 先程、犬獣人と犬の違い、とおっしゃいましたが、犬は人間の言葉を理解出来ず、人間は犬の言葉を理解出来ません。長い間共にあれば、『わかったような気がする』だけです。それが、ヒトとそれ以外の区分です。生殖対象となり子孫を作れるか、とかと言った基準はその後で考えることですし、それを基準に置いたら子供を作れない夫婦はどちらかがヒトじゃないのか、という話になってしまいますからね。


 ボクらはこの世界に来た当初、この世界の人の言葉がわかりませんでした。

 だから、ボクらの世話係になってくれた人は、ボクらのことを人間として扱ってくれませんでした。ボクらに魔法が馴染(なじ)み、ボクらもこの世界の言葉がわかるようになって、初めてボクらはその人に『人間』と認められたんです。


 そしてここに、人間の言葉を理解出来る魔物(ゴブリン)がいます。ならゴブリンも、『人間の亜種』と認める事が出来るんじゃないですか?」

「……魔物は、体内に魔石を持つ。人間は、魔石を持たない。妖精族や獣人族もだ。

 それが、人類と魔物の違いだ」

「なら、ギルマスは人と出会ったらまずその体を裂いて、魔石を持っていないことを確認するんですか? 或いは逆に、人間の身体に、魔石を埋め込んだら。その人は魔物になるんですか?」

「キサマは、自分が何を言っているのかわかっているのか?」


 ボクが言っていることは暴論だという事は、理解しています。けど、ギルマスはそういう一般論で怒っている訳ではないようです。


「あくまでも、(たと)え話です。可能性を排除したら、自分に都合の良い答えしか出てきませんから」

「お前と同じようなことを考えた、〝まっどえんてすと〟だったかな? そう呼ばれた人間もいる。そいつは、自分の仮説の検証の為に多くの女子供を(さら)って、その体の中に魔石を埋め込んだ。

 当時子供だったプリムラも、その中の一人だった」


 そうですか。プリムラさんも。そんな人体実験に供された、となれば、ギルマスの怒りも理解出来ます。でも。


「魔石を埋め込まれた人間は、最初は何もないらしい。だが、そのうちその人間の魔力が魔石を異物と判断し、無意識のうちにそれを排除しようと〔治癒魔法〕や〔回復魔法〕を使ってしまうようだ」


 でも、〔治癒魔法〕や〔回復魔法〕では、埋め込まれた魔石を排除することは出来ません。


「だが効果がなく、むしろ魔石を肥大化させる結果になったようだ。そして被害者は自分の魔力で自家中毒を起こし、やがて死に至る」


 成程(なるほど)。でも。


「でも、プリムラさんは無事ですよね?」

「あぁ。初期のうちに魔石を摘出出来たからな」

「では、実際に死亡した人は何人くらいいるんですか?」

「……知らん。プリムラと共に魔石を埋め込まれた女たちのうち、何人が現在も生き残っているのか、なんてな」

「全員女性、ですか?」

「何が言いたい?」

「結論を出すには、統計の母数が少なすぎると思います。

 魔石を埋め込まれたのが女性だったから適合しなかったのか、年齢が原因か、或いは胎児なら?

 また、生育環境は? ボクらのような異世界人なら、適合した可能性もあります。その結果生まれるのがゴブリン、という事も」

「……お前は、あの〝まっどえんてすと〟と同じように考えるのか」

「その〝まっどえんてすと〟、というのは、〝遠い国の言葉〟ですね? 〝魔王(サタン)〟の言葉ですか? だとしたら、正しくは〝狂的(マッド・)科学者(サイエンティスト)〟だと思います。

 考え方は異常で、異端です。けど、繰り返しますがだからといって考慮することさえしなければ、自分にとって都合の良い答えにしか辿(たど)り着けません。


 そして、今考えるべきことは、『ゴブリンが元は人間だった』可能性ではありません。

 『ゴブリンの王国を、対等な国家として認められるか』という問題です。


 国家の成立。ボクらの世界ではそれには三要件があると解釈されます。

 一つは、領土。自分たちの国だと主張する領域です。

 一つは、国民。その国の民だと帰属意識を持つ集団です。

 一つは、主権。特に、対外的に領土と国民を守る為にそれを行使出来ること、です。


 この国家の三要件を考えれば、ゴブリンの王国『カラン王国』は、立派に国家として成立していることになります。

 それを受け入れられないのは、『魔物は人間じゃない』という、相手を見下した気持ちに(ほか)なりません。

 自分以下の〝魔物如き〟が、自分たちと対等に国家を建設する。

 それが、感情的に許せないのでしょう」


 もっとも、それがただの「感情論」だったとしても、それがこの世界の大多数の総意。一般的に『カラン王国』が認められることはないでしょう。なら。


「『カラン王国』に対する調査依頼(クエスト)、確かに受注致しました。『カラン王国』が、ただの魔物の群れなのか、それとも国家が軍を派遣して対抗しなければならない存在なのか、確認してきます」


 冒険者であるボクらに出来ることは、実態の把握です。そしてその先は、政治の時間になるのでしょうから。

(2,996文字:2018/02/23初稿 2018/09/30投稿予約 2018/11/17 03:00掲載予定)

・ ゴブリンの王国は、人類の王国に対し「王国の樹立を宣言」した。つまり、この時点でこのゴブリンたちは人類に対して、外交交渉する意思があったという事です。交渉の意思を示したゴブリンと、問答無用で兵を送り付けた人類と。一体どっちが野蛮なのやら。

・ この世界・この地方では昔、獣人族が独立した国を興そうとして周辺国(フェルマール、スイザリア、リングダッド、マキア)に袋叩きにされたという事がありました。その為、まだ獣人に対する差別感情が残っている地方もあります。

・ 作中時点で、王族(その配偶者・側妃を含む)に妖精族(ドワーフ・エルフ)や獣人族(そのハーフ・クォーター含む)を迎えている人類国家は、一ヶ国しか有りません。

 一方、エルフの里やドワーフの里は、通常それ自体が独立した行政圏(事実上の独立国家)として確立されていますので、当然それらの里の(おう)は、エルフやドワーフです。もっとも、普人族(?)がエルフの里長を務めている里も一箇所だけありますが。

・ 人の言葉を理解出来ない(転移当初の)〝異世界人〟と、人の言葉を理解する〝魔物〟。この世界では、どちらの方が受け入れ易いのでしょうか?

・ ギルマス「お前は、人と魔物が同じだと思うか?」

 魔王陛下「女を襲うのが豚鬼(オーク)で、男を襲うのが森妖精(エロフ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ