第23話 事件の終幕
第05節 領主城〔5/5〕
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何が起こったのか。マティアスとプリムラ、そして領主一家は正直全くわからなかった。
「はい。一番面白かったと思える冒険は、やはり最初に行った宝石魔獣討伐だったでしょうか?」
「それはどんなだったの?」
「はい、それは――」
「〝1〟〝8〟〝2〟」
公女殿下とシズの会話に、ミナが割って入った。それも、意味不明の数字の羅列。
それを聞いた彼らは、跳ね返るように行動した。ミナとユウはそれぞれ公女殿下の横と公爵閣下の横に。シズは胸元のリボン(?)を外し、ヒロは懐から何か棒のようなものを取り出し、ショウはベルトを外し。
何が起こっているのか。それを問おうと口を開くより先に、抜身の剣を持った男たちが五人、入り口から飛び込んできた。
しかし、それを事前に知っていたかのようにショウたちはそれを迎え討ち、ほぼ丸腰でその五人を制圧してしまった。
と。
「〝ゼロ〟」
ミナがまた、何か言った。ただ、これはマティアスたちもよく聞く。こいつらの、桁外れに大きな〔収納魔法〕を起動させるときの合図だ。
案の定、シズは〔収納魔法〕から大弓を取り出した。そして同時に、ヒロが公爵閣下の背後に駆け込み、躊躇なくその窓を叩き割った。
そして。シズは割れた窓から大弓を構え、すぐに矢を放つ。男の苦悶の悲鳴と、人間が倒れる音。
一体、何が何だか。
シズが射終わると、【縁辿】全員が公爵一家の前に整列し、乱れなく膝をついた。
「公爵閣下、お騒がせして申し訳ありませんでした。
このミナが、公爵閣下の御命を狙う賊の存在を察知致しましたので、指示を待たずに対処させていただきました。
また、今シズが射貫き外で倒れている男は、おそらく今回の襲撃のリーダー格にして首魁に繋がる立場の者と思われます。ご確認願います。
本来、武具持ち込み禁止とされる城内に、〔収納魔法〕を使って大弓を持ち込んだこと、刃物では無いとはいえ武具として使える物を身に帯びていたことは、罰せられて当然のことと思います。同時に皆様から見て我々の行動は、襲撃者と事前の打ち合わせがあったと思われても仕方がないことだと思われます。
よって、我ら全員の身柄を閣下にお預け申し上げます。どうぞ、ご存分にお取り調べを」
その、ショウの言葉。それ自体が彼らの無実を証している。また、プリムラはミナの索敵範囲が常識外れに大きいことも知っている。
しかし、領主にとっては彼らとは今日初めて言葉を交わした。なら、疑わない訳にはいかない。
そして、このタイミングで食堂の外から衛士や執事たちが雪崩込んできた。「領主さま、ご無事ですか?」既に終わっている事態を前に、その言葉はあまりに虚しく響く。
「そこに倒れている者たちを拘束せよ。余に刃を向けた不届き者だ。だが皆息があるようだから、締め上げて背後関係を明らかにせよ。
また城の前庭にも一人、ハリスの矢羽根で射貫かれた男がいるはずだ。この男も、襲撃犯の一味と思われる。手当の後取り調べを行え。
この五人は襲撃犯から余を守ってくれた。だがあまりにも手際が良過ぎる。事情を聴く必要がある。だからハンス。彼らの武具を預かり、彼らの為の部屋を用意せよ。くれぐれも、丁重にな」
執事のハンス氏はついてきた侍女たちに指示を出し、また衛士たちに襲撃者たちを連行させ、そして荒らされた食堂を簡単に整えてから退出した。
「お父様、彼らを罰するのですか?」
公女が公爵に、不安そうに問いかけた。これから色々、楽しい話が聞けると思った途端の、荒事。それが、公女の心に影を落としていたようだ。
「そのつもりはないよ、アドリーヌ。確かに、余りにも出来過ぎていると言える。タイミングが良く、よく出来た脚本の演劇を見ているようでもあった。
だが、彼らの素性がそれを否定する。そして、此度の襲撃は、予測されていたことでもある。直接ここまで踏み込まれたことを考えると、城内に手引をした者がいるという事で、それは想定外だったけどね。
此度の襲撃の黒幕は、『マキア戦争』で余や冒険者ギルドの足を引っ張った、領主たちのうちの何れかであろう。状況から、三人程度にまで候補も絞られる。その誰が真犯人であったとしても、あの冒険者たちも憎悪の対象となっていたはずで、協同しているとは考え難い。
マティアス。其方たちにも、もう少し話を聞きたい。申し訳ないが、もうしばらく付き合ってはもらえないだろうか?」
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【縁辿】の連中が連行された「部屋」。通常それは隠語で、その正体は地下牢というのが相場だ。
けれど、今回は貴族、それも上位貴族を歓待する為の客間が使われた。彼らに対する食事も、囚人食などではなく、歴とした客人向けのモノだった。
そして、「事情聴取」という名目でハンス執事が彼らから話を聞いたところ、ミナは襲撃犯に内通していたであろう使用人の存在を把握していた。
念の為、使用人全員を呼び集め、ミナに確認させたところ、内通者たちを一人ひとり指差して特定した。ついでに、
「ねえ、そこの貴女。あの時裏庭の厩舎で、そちらの男性と何をしていたの?」
「そっちの貴女。貴女はあの襲撃があったとき、どうしてアドリーヌ公女殿下の私室に入っていたの? それも何か貴重なものが保管されていると思われる部屋に。あそこって、執事長さんや侍女長さんと一緒しないで入っていい場所なの?」
と、襲撃とは直接関係のない不義密通や窃盗なども詳らかにしたのは驚いたが。ミナの索敵範囲内では、仮令壁に遮られようと隠し事は出来ない、という事か。
また領主は冒険者ギルドのギルドマスターから、改めて彼らの話を聞いた。
「彼らは魔法により、それまでの常識が全く通用しない世界に召喚された挙句、〔契約魔法〕で〔奴隷契約〕を交わされました。当然、彼らには常に監視の目があり、落ち着くことはなかったのでしょう。だから、彼ら同士でしか通用しない符牒を色々考えたのだと思われます。
それを理解出来るのは、彼らだけ。その一部でも理解出来るのは、それだけ彼らと時間を共にして、彼らのことを理解している者だけ、という事です。
そしてだからこそ。短い符牒に込められた、多くの意味を瞬時に読み取り、それを疑わずに即座に行動に移せる。それは彼らの間の信頼関係の顕れであると同時に、この世界を生きる為の努力なのでしょうね」
それは、頼る者を持たない子供たちの、必死の努力。
彼らの世界では20で成人だというならば、今16と雖もこちらではまだ社会に出ない10歳程度の子供と同じという事だ。
けれど逆に、それだけ長い時間をかけて教育を施す。それは社会が安定している証。
だから、彼らはとてもアンバランス。未熟さと高度な教養を併せ持つ、不可思議な子供。
なら鳥籠に入れず、縁を紡いだ上で、自由に飛翔させるのが良いのだろう。
(2,743文字:2018/02/18初稿 2018/09/30投稿予約 2018/11/07 03:00掲載 2022/06/15ルビ脱字修正)




