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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第三章:その機能を考えて、正しく使いましょう
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第22話 襲撃

第05節 領主城〔4/5〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 おそらく襲撃者は、周到な計画の(もと)、城の使用人の中に内通者を送り込み或いは懐柔して味方に付け、必殺を期して襲撃を行ったに違いない。

 けれど、その襲撃は直前で美奈の〔泡〕が察知し、その「ナンバー・コール」で俺たちが即応した。一瞬の差ではあったものの、襲撃者が食堂に踊り込んだ時には既に俺たちの迎撃態勢は整っていた。一方で〝0〟のコールはない。武器持ち込みが許されない状況だからこそ、現状の護身(セルフディフェンス)(ツール)で対応せよ、という事なのだろう。


 貴族の館(城)の食堂は、天井も高い。けど、幅が限られた入り口から、五人もの襲撃者が同時に飛び込んできたのなら、彼らの振るう剣の太刀筋を予想することは出来る。横に大きく振るえば仲間の邪魔になる。縦に振るうにはモーションが大きくなり過ぎる。なら、この場合刺突(つき)一択。

 そして俺は、この一年足らずの期間に、何度か死にかけた。イノシシと向き合った時は〔亜空間倉庫〕と〔再生魔法〕の併せ技が無ければ死んでいただろうし、ロウレス郊外で(ドレイク)王国の兵士と戦った時は、先方が殺害から捕縛に方針を変更していなければやはり死んでいた。

 俺は、日本では荒事とは無縁に生きていた。けど、今更剣と殺意を向けられた程度で、(ひる)むほど初心(うぶ)じゃない。


 先陣を切ってきた襲撃者の刺突を、バックルで受け止め、逸らし、ベルトを巻いた(こぶし)でその側面を弾く(パリィする)。そしてその反動でバックルを襲撃者の顔に叩きつける。

 このバックルは、「バックルナイフ」。だが、わざわざ(ナイフ)を出さなくても、金属の(かたまり)であることには変わりなく、鈍器としても使えるという事だ。

 俺の筋力ではその一撃で昏倒させることなどは出来ない。けど、それで充分。俺の役割は、一瞬でも襲撃者の足を止め、松村さんと柏木の攻撃機会(チャンス)を作ることだから。


◇◆◇ 宏 ◆◇◆


 まったく。あれのどこに、悩む理由があるっていうんだ。

 飯塚は、常に最前線に立つ。自分はほとんど戦闘力(攻撃力)を持たないにもかかわらず、守る為に前に出る。

 松村の戦技は基本個人技だから、誰かを守ることは想定していない。オレのも基本は喧嘩技だから同じく守りは考えない。

 そうなると、後衛の二人を守るのは誰か。飯塚しかいないんだ。(いや)、それどころか、前衛のオレたちの攻撃チャンスを作る為、積極的に攻撃(ヘイト)受け(とり)に行く。そのクソ度胸と責任感に、オレたちは一体何度助けられたか。それだけじゃない。オレたちの誰もやりたくない、獲物の「(とど)()し」を、嫌な顔さえせずに進んでやる。それだけでも、感謝以外の言葉は思い浮かばねぇ。

 そして今も。バックルナイフを使うのではなく、バックルを盾にして受け流し、ベルトで剣を()らし、バックルで殴る。入口に一番近くいた飯塚が、そこで壁になっているから、オレたちはただ真直ぐ襲撃者を制圧すればいい。


 松村は、振り下ろされた剣をネクタイで(から)め獲り、そのまま投げた。あとで聞いたら『払い腰』という(わざ)だそうだが、そんなのはどうでもいい。そして、ただ投げるのではなく地面に叩きつける。床は毛長の絨毯(じゅうたん)が敷かれている為、ただ投げただけではダメージが吸収されてしまう。だから叩きつけ、おまけにその胸元(むなもと)(ひざ)を打ち込んだ。これで一人。

 また別の相手の腕を取り、あっさり関節を決め、躊躇(ためらい)なく折る。これで二人。


 襲撃者は、剣を持ち込むことは出来たみたいだが、さすがに鎧を着込むことは出来なかったようだ。そして、奇襲のつもりでいたことが、逆にオレたちにとっての付け入る(すき)になった。もし野外で、そして対等な立場での立ち合いなら、オレたちにどれだけ勝算があったかはわからない。けど。

 飯塚を()けてオレの目の前に迫った襲撃者の、その胸元にクボタンを叩き込む。肋骨に有効打(クリティカル)すれば肋骨が砕け、肋骨の隙間を撃ち込んだり肋骨に弾かれたりしたら、肺や心臓を強打する。クボタンは「鈍器」でありながら、角度とタイミングが合いさえすれば(ハード)革鎧(レザーアーマー)程度なら貫通する威力があるのだから、鎧が無ければ凶悪だろう。

 もう一人は肩口から肩甲骨を砕き、残りの一人、飯塚が引き付けている相手に対し、横からクボタンを握った(こぶし)でぶん殴る。グローブを付けずに殴ると、殴った側の指の骨が折れる危険があるけれど、クボタンを握っていればその危険はかなり減る。そして倒れた相手の首の根元(両肩甲骨の間あたり)をクボタンの突起部分で強打した。


 これで全員。と思った途端。


「〝0〟」


 髙月が、〔亜空間倉庫〕開扉の0(コール)


 〝0〟のコール。〔倉庫〕内なら無限の時間があり、そしてその間外界では一瞬さえ時間は経過しない。だからこそ、〝0〟のコールがかかったら、思考せずに脊髄(せきずい)反射で〔倉庫〕を開扉するようにこの一年訓練と実践を繰り返した。だから疑問が生じる前に、〔倉庫〕を開く。


◇◆◇ ◆◇◆


「皆、ご苦労様。怪我はない?」


 〔倉庫〕に入って、髙月が俺たちの被害を確認しに来る。だけど、自覚している被害はなし。もしかしたら明日あたり、変に(ひね)ったり気付かず打撃を受けていたりした場所が痛むかもしれないけれど。


「で、美奈。状況を説明してくれ」


 飯塚の追求。まぁこれは当然だろう。


「うん。お城の中でね? 変な動きをしている人がいたの。

 お城の使用人さんたちは、皆自分のすべきことを(わきま)えていて、合理的且つ最短最小の動きでそれをしていたよ。それこそ、おシズさんの礼法の講義で語っていたように。

 でも、一部の人たちは、そうじゃなかった。だから、その人たちに粘着型の〔泡〕を付けて様子を見ていたの。

 そうしたら、食堂のドアの向こうで、衛士(えじ)さんが女使用人さんとちょっと会話をしたと思ったら、その衛士さんたちはドアから離れて行っちゃった。代わりに、やっぱり変な動きをしていた五人組が、ドアの前に来たの。

 だから怪しいって思って、〝1〟のコールをしたの」


 そしてそれは杞憂(きゆう)じゃなく、その五人は確かに襲撃犯だった、と。


「そこまではわかった。だけど、何故このタイミングで〝0〟のコールを?」


 戦闘開始直前ならまだわかる。けど、鎮圧した直後のコール。これは、確かに謎だ。


「五人組の襲撃開始と同時に、城の外に向かって移動した人がいるの。変な動きをしていた人の一人。多分、襲撃計画の実行犯のリーダー格。多分、主犯に繋がる糸がある人。

 だから。柏木くん、クボタンで、食堂の窓を割って?

 そしておシズさん。弓を使って。

 お城の中で〔収納魔法〕を使えることを知られるのは問題があるかもしれないけれど、あの人を逃がさないことが優先だと思うから。

 距離は約30m、俯角(ふかく)約5度、風はほぼ無し。出来る?」


「この条件で出来ないと言うなら、〝大弓使い〟の二つ名は返上する必要がありそうだな」

(2,695文字:2018/02/17初稿 2018/09/30投稿予約 2018/11/05 03:00掲載 2021/04/20誤字修正)

・ 飯塚翔くんが持ち込み、柏木宏くんが使った「クボタン」。これは純正のクボタンではありません。純正のクボタンの素材は強化プラスチック、構造はキーホルダーがついて両端は鋭角ではありません。某アメリカの刀剣メーカー製の、強化ナイロン素材のモノです。

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