第09話 生活魔法2 収納魔法
第02節 異世界言語と魔法〔6/7〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
〔収納魔法〕で作る空間を、具体的にイメージする。それは、どうすれば良いんだろう?
「魔術師長の話では、この世界の人たちは『ここではない、でもすぐ隣にある、不思議な倉庫』をイメージするようです。『倉庫』なら、誰でもイメージ出来ますから。
けど、その一方で『倉庫』には大きさがあります。普通の倉庫なら『中に入る』ことが出来ますから、どれだけ大きくても問題は無いでしょう。けど、〔収納魔法〕は、その中に人間は入れません。だから、『手の届く大きさ』にしておく必要があるみたいです」
武田くんの言葉。うん、倉庫なら簡単にイメージ出来るね。けど、どこに何を入れたか憶えておくのが大変そう。
と思っていたら、おシズさんが。
「ちょっと待て。『中に入れない』と何故決めつける?
〝発想を限定しない〟。それがあたしたちの、魔法研究の前提だろう?
確かに〝四次元ポケット〟は具体的にイメージ出来ないかもしれない。けど、『中に入れる倉庫』をイメージすることは、出来るはずだ」
そっか。中に入って整理出来る倉庫なら、別に四次元にこだわる必要は無いんだ。でもそれなら。
「なら、例えば〝体育館〟みたいな空間をイメージして、普段使うものは手前の入り口近くに置いておけばいいってことよね? それで、その空間で足りなくなったら、その〝体育館〟の向こう側に別の扉を作っておいて、そこの向こう側に更に大きな倉庫がある、みたいに、必要に応じてイメージを膨らませていけばいいんじゃない?」
そして、その空間には美奈たち五人だけが入れるようにイメージするの。ほら、うちの学校の体育館って、結構大きいし。
そんな風にイメージを膨らませていったら、美奈たちの前に一枚の扉が現れたの。
それも、良く見知った、美奈たちが通っていた学校の、体育館の扉。
「開けてみよう」
おシズさんがそう言うと、武田くんが声を上げた。
「いや、ちょっと待って。
ボクの時計を置いて行きます。中と外で、時間の流れが違うかもしれませんから。
今、この時計で15時23分だから、25分ちょうどに扉を潜りましょう」
「そうだな。否、30分だ。そしてその時、武田の時計以外の、それぞれ自分の私物を持って行こう。中がちゃんと倉庫になっているのなら、荷物はそこに置いていこう。
色々不安はあるけれど、今は魔法を信じるしかないし、なら中に入れておいた方が安全だ」
そうして、美奈たちは大慌てで荷物を掻き集め、30分ちょうどに扉を潜ったの。
そこにあったのは、ちょっとしたエントランスホール。そしてその正面には、もう一枚の扉。その扉を開けて向こうにあったのは、学校の体育館のような大きさの、でも伽藍洞の空間だった。
武田くんは、自分のスマホの電源を入れ、センサーアプリを起動させたみたい。
「気温21℃、気圧1,009hPa。大体一気圧ってとこだね。
湿度は計測機器が無いからわからないけど、それほど乾燥しているって風でもなさそうだ」
「だが、空気はどこから流れ込んでいる?」
「多分、ボクたちが入った時に一緒に持ち込んだんだと思う。そう考えると、長居していると酸素が無くなりそうだね」
そして、一通り見て回った後、また扉を開けて元の部屋に戻ったの。
「倉庫空間内滞在時間、5分23秒。外界の経過時間、3秒?」
それは、中に持ち込んだショウくんの時計と、外に置きっぱなしにした武田くんの、時計が指している時間のずれ、みたい。むしろ、「3秒」っていうのは、確認する為に要した時間、と考えるべき? だとすると。
「つまり、倉庫空間内では、時間が経過しない、と思っていい訳だ」
「勿論、もう少し検証する必要がありますけどね」
だから。この魔法に関しては、改めて皆で検証を重ねた。
結果わかったことは。
1. この〔亜空間倉庫〕は、五人全員が同時に念じることで、発現する(つまり「合体魔法」)。
2. 基本的に、「全員で入り、全員で出る」ことが前提で、誰か一人だけ外に残ったり、逆に中に留まったりすることは出来ない(出入りのタイムラグはあるけれど、誰かが内外に残ろうとしたらその瞬間魔法は破棄される)。
3. 中での滞在可能時間は、30分以上。やること無くて飽きちゃったから、これ以上の時間は試せなかった。
4. 中はうっすらと明るいので、ソーラー電卓のようなものは使用可能。但し、スマホ用のソーラーバッテリーチャージャーは機能しなかった。
5. 中に入れたものが時間経過で腐敗するかどうかはまだ不明。何とか氷を入手して実験する、と武田くん。
6. 今日一日で、10回以上〔亜空間倉庫〕を開閉し、合計80分以上中に滞在したけれど、美奈たちは魔法の使い過ぎで倒れるような予兆は無い。
これらのことを確認した上で、この〝倉庫〟の使い方を話し合ったの。
魔術師長が使っていたような、〔亜空間収納〕の様に便利に使うことは、おそらく出来ない。だから日常使うものは、手で持っている必要がある。
その一方で、五人一緒でなら、かなり大きなものも入れられるし、(空気が持てば、だけど)中を改装して、五人専用のプライベート空間を作ることも出来るかもしれない。
カーテンとかシーツとか、木材とかを入手する必要がありそう。でも、30分でも1時間でも、盗聴とか監視とかを気にせずに過ごせる空間が出来るのは、絶対お得。
もし長時間(5時間とか6時間とか)の滞在が出来るのなら、むしろ夜は〔倉庫〕の中で眠った方が安全かもしれない。あと、出来ればおトイレも〔倉庫〕の中に欲しい。
「じゃぁもう一度、〔倉庫〕に入ってみよう」
あたしがおトイレのことを言ってみたら、ショウくんがそう答えた。どういうこと?
そして、今日だけで何度目になるかわからない〔亜空間倉庫〕を開いてみた。
この〔亜空間倉庫〕、うちの学校の体育館と同じ構造だから二枚扉になっているんだけど、一枚目の扉を開いて、すぐショウくんが言った。
「右側奥。そっちに女子トイレがあるはずだ。ちなみに左側には男子トイレが」
……あった。紙は無いし、所謂「汲み取り式」みたいな、ぽっかり穴が開いているだけの和式トイレだけど。
「トイレだって、『ゴミ箱=廃棄物を収納する』って考えれば、〔収納魔法〕の守備範囲だろう? しかも、トイレの場合は取り出す必要もないんだから、逆に簡単かもしれない。
ほら、美奈のイメージじゃないか。『足りなくなったら増設出来る』ってのは」
五人全員で使わないと使えない魔法。だけど、たった一つの魔法で、こんなに生活を改善出来るなんて、思わなかった。
(2,722文字:2017/12/03初稿 2018/03/01投稿予約 2018/04/17 03:00掲載 2018/04/21脱字修正 2018/06/09衍字・誤字修正byぺったん)
*「ぺったん」は、ゆき様作成の誤字脱字報告&修正パッチサイト『誤字ぺったん』(https://gojipettan.com/)により指摘されたモノです。