第19話 謁見準備
第05節 領主城〔1/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
ボクらがこの世界に来てから、350日目。
ボクらは銀札への昇格と、領主であるモビレア公爵へ謁見することが決まりました。
銀札への昇格が早かったのは、一つは先方からの要請。銅札では、あくまでも部隊長クラス(良くて騎士爵)からの褒賞しか出来ません。作法を知らない下郎を、貴族の前に立たせる訳にはいかないからです。
もう一つは、正直ボクら全員の、家庭での躾が充分行き届いていた、という事でしょう。
松村さんは当然ですが、他の四人も、基本的な所作は(個人の資質で「難しい」、という事はあっても)「出来ない」という事はありませんでした。だからあとは、スイザリア貴族の仕来りを一通り憶えておけば、謁見の間くらいボロを出さずに済ませることが出来るのです。
とはいえ貴族(それも王族の縁戚である公爵)に謁見すると考えると、足りないものも多くあります。
まず、女子の髪。
この世界では、平民の髪は短く、貴族の髪は長いのが普通です。髪の手入れに手間がかかりコストもまたかかるからこそ、平民は手間を省く為に髪を短くし、貴族はその手間をかけられることを自慢する為に髪を長くします。逆に謙虚を売りにする為に長い髪を編み込んで短く見せるというファッションもありますが。
そしてうちの女子は、〔倉庫〕内で手間をかけられるようになっているとはいえ、やはり手間を省く為に短めの髪。日本では松村さんは腰にかかるくらい、髙月さんも背中を覆うくらいの長さがありましたが、西大陸でベリーショートまで刈り込みました。けど今は首を覆うくらいのところまで伸びており、その長さで整えています。
一般にこういう場合、鬘で誤魔化すところですが、どうしても髪の色が合いません。その為ふたりは以前切った髪を束ねて髢(所謂付け髪)を作りました。もともと自分の髪ですから、継ぎ目をリボン等で上手く誤魔化せば違和感はありません。髙月さんは肩を覆うくらいの長さの、松村さんは背中の半ばに届く長さの、それぞれの髪を魅せることが出来ました。この髪を、髙月さんは両サイドで編み込んでから後ろでまとめ、松村さんは敢えて背中に流すことでその美しさを表現します。
礼装。これは男子もですが。
こちらも色々考えて、けれど思惑があって高校の制服にしました。
そもそも高校生の礼服は、学校制服です。そこに何ら異常な部分はありません。そして、この世界で日本の制服を着ることは、すなわち自分たちが異邦人であることを主張することに繋がります。更に制服とあまりにミスマッチの〝誓約の首輪〟。そのこと自体もまた、一つの主張になるのです。
ちなみに。こちらの女性は脚を見せません。脚を見せるのは「はしたない」と言われます。だから平民はズボン、貴族女性はロングスカート(これはトイレ事情も関係します)。女子たちも、こちらの世界に来てからは髙月さんが縫ったズボンで生活しています。だけど、制服は当然スカート。しかも、丈は短く膝を見せます。また、転移時の髙月さんの靴下はニーハイですが、絶対領域の露出がありますし、松村さんのはストッキングですが12デニールという、ほとんど生足レベルの薄さ。この辺りで衆目に曝したら、露出狂か街娼か、というレベルです。
そしてこちらの世界に来てから髙月さんが作った靴下は、ズボンを履くという前提から足首を覆う「ハイソックス」丈にしていました。その為、制服のスカートを履いても変じゃない丈の靴下を、髙月さんが手縫いで作ることになりました。オーバーニー+ガーターベルト付。
でもふたりとも。出来上がりを試着して、ボクらに感想を求めるのは止めてほしい。せめてスカートを履いてから見せに来てください。
あとは、男子は白手袋、女子はレースの、肘まで覆うロンググローブ。制服は長袖(冬服。転移時は衣替え前だった)なのだから、そんなに長くなくても良いような気もしますけれど、袖口から肌が見えるのが嫌だからとロングを選択。また、〝誓約の首輪〟と装飾品は絶対にミスマッチだからと、指輪は求めず、よってフィンガーレスグローブにする必要もないとのことです。
ところで、こちらの世界に来てからもうすぐ一年。そして、この一年間休まず身体を鍛えていますから、ボクら男子も結構体形が変わってきています。もともと体格が良かった柏木くんはともかく、ボクや飯塚くんはもうウエストサイズもズボンの股下サイズも、更には上着の肩幅も変わっています。
とはいえ制服は元から、成長期を見込んで大きめのサイズを注文するのが普通。その辺りの調整(改造?)も、髙月さんがやってくれました。「これ以上大きくなると、もう着れないね」と言われましたが。
靴は、さすがに専門の職人さんに作ってもらいました。
最後に、武装。この世界で一年も過ごすと、非武装でいるのは裸でいるのと同じくらい落ち着かなくなっています。けれど、貴族への謁見に際して武装解除は当然の要求。
でも落ち着かないので、ボクはタクティカルペンを胸ポケットに、飯塚くんはバックルナイフをベルトのバックルに、柏木くんはクボタンを腋の下に(革製のホルスターをわざわざ髙月さんに作ってもらって)隠し持つことにしました。もっとも、こんなことをしなくても、〔亜空間倉庫〕を開けばすぐに武装することが出来るのですが、やはり『エンデバー号』での武装解除が一種のトラウマになっているみたいです。ちなみに女子は非武装。髙月さんは護身具程度では戦闘力の底上げになりませんし、松村さんは素手でも充分に強いうえ、ネクタイ一つあれば戦える縄術という武術があるのだとか。
けれど、はじめから丸腰でいると逆に不自然ですので、制服の上に付けられる剣帯を拵え、小剣をそこに差しました。
そして体と髪を洗い、肌を整えヒゲを剃り、綺麗に洗濯された下着(日本から持ち込めた数少ないモノ)を身に着け制服を着、埃避けの外套を被って、準備完了です。
そして馬に乗り(女子は横乗り・膝掛け付き)、ギルドまで行くと。
ギルドマスターとプリムラさんは、驚愕の眼でボクらを見つめていました。
ここまで本気でコーディネイトすると。「平民」であるボクらの立場の異常性が、はっきりわかるでしょう。
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文字:2018/02/16初稿 2018/09/01投稿予約 2018/10/30 03:00掲載 2018/10/30衍字修正 2018/11/02「スカーフ」⇒「ネクタイ」に修正 2019/04/21誤字報告による衍字修正)
・ 「デニール」は繊維の太さ(質量)の単位で、9,000mの長さの時の重さ(g)を表したものです。ちなみに、30デニール未満が「ストッキング」で、30デニール以上が「タイツ」と言われていますが、基準はあいまいで、20デニールのタイツとか60デニールのストッキングもあるようです。
・ 今回の謁見は『マキア戦争』の論功、という意味がある為、ソニアさんは呼ばれていません。また「メイド服」のこの世界での意味は高位貴族であれば理解されているので、仮に呼ばれていてもソニアさんは欠席するでしょう。




