第12話 新しい力・3 ~魔法、バージョンアップ!~
第03節 次のステージへ〔3/5〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
北の山から雪を取って来るという依頼。必要最小量は既に〔倉庫〕内にありますから、達成が確定しているクエストです。だからこれは、ただのんびりとリフレッシュすることが目的。そして、魔王国のメイドさんであるソニアさんのことを知る為の旅。
道中、ソニアさんは完璧でした。馬の世話から野営時のキャンプの設営、そして調理。
道具はボクらの〔倉庫〕に収蔵されている物を使いましたけど、現場の仕事は髙月さんや松村さんでも手を出す余地のないほど。「熟練の主婦」級の実力と、「専門のメイド」ではここまで違うのか、と感心してしまいました。それなのに、「野営地であるにもかかわらず、道具も食材も豊富にあるから助かります」とこちらを持ち上げてくる気遣いも出来る。本当に、最高です。
また、道中に見せた苦無の投擲。無属性(魔王国では「光属性」と言うのだそうです)で加速・誘導するそのやり方は、ボクらにとっても応用の余地があります。
そして、魔王国での光属性の魔法の使い方!
魔法を、純然たる〝力〟と考え、機械の動力として活用するなんて。
てこの原理や滑車の原理、そしてモーターの考え方。
「動かす力」を歯車やチェーンで伝達し、或いは増幅させれば、おおよそ出来ないことはないでしょう。ロケットのような爆発力には欠けますけれど、民生用の魔法と考えれば、出来ることは無限に広がります。ましてや異世界の知識をそれに上乗せすれば。
野営時に魔王国で学ぶ魔法についても教えてもらいました。それは、ギルマスが「新たな魔法体系を構築した」と言った、その内容。
四大元素論に基いているようで、少し違います。
それは、
○ 火属性:加熱
○ 水属性:相転移
○ 風属性:気圧操作
○ 土属性:物体運動
これは決して四大元素論ではありません。どちらかというと、燃素仮説で四大元素論を模倣したうえに、現代科学理論で無理矢理定義付けたようなものです。
燃素仮説は、「物が燃えるのは燃素という物質が存在しているからだ」という、近代科学の端緒となった仮説です。この仮説のように、加熱・相転移・気圧操作・運動を司る〝何か〟があり、それを『魔法』と名付けた、というモノでしょう。これを思い付いた〝魔王〟が地球の科学知識を有している、という前提に立てば、これは将来否定される為の理論という事が出来ます。
◇◆◇ ◆◇◆
その日の野営時、〔倉庫〕で。
「何というか、驚きました」
「確かにな。発想が違い過ぎる。だけど、俺たちがその発想に行き着いても不思議じゃなかったはずだ。同じ知識をベースにしているんだから」
「そうですね。自己弁護かもしれませんけれど、優劣じゃなく個性の違い、かもしれません。特に『燃素仮説』をベースにした魔法体系は、魔法を有効的に活用する、というよりも、この世界の今後数百年間の科学を発展させることが目的だという意志さえ看て取れます」
ボクがそう言うと、髙月さんが首を傾げます。
「どういう事?」
「燃素論は、間違いです。後に酸素が発見されることで、完全に否定されます。だからボクらは燃素論ではなく原子論で化学を学んでいるんです。そして〝魔王〟がボクらと同等の教育を受けた前世を持つというのなら。燃素論を飛ばして原子論を広めることさえ出来たはずなんです。
けど、〝魔王〟は敢えて燃素論に基づいた魔法体系を構築しました。間違った理論です。けど、四大元素論も間違いだと考えると、後世の誰かが〝魔王〟が構築した魔法体系を否定して、新たな科学(化学)理論に基づく魔法体系を生み出すのでしょう。
松村さんが言ったじゃないですか、『知識を持つという事は、その〝知っていること〟に縛られるという事でもある』って。でも、従前の知識を否定出来なければ、科学の進歩はありません。またそうでないと、『王様の言う事は常に正しい』という〝王権神授説〟の根源にもなってしまいます。だから敢えて、〝魔王〟は否定される為の知識体系を用意したんでしょう。
けど、ボクらはそんな遠大な視野は持ち得ません。
なら。ボクらはボクらなりの発想で、〝魔王〟を超えることを目指しましょう」
「そうだな。だが、だからと言って〝魔王〟の発想自体を否定する必要はねぇんじゃねえか?」
ボクと飯塚くんが、魔王国の魔法の使い方について話し合っていたら、柏木くんが口を開きました。
「例えば、飯塚の戦闘投網。あれは射程が足りず投擲速度が足りずしかも対単体戦でしか使えない、ってのがネックだったけど、無属性で加速させれば、射程も速度も補えるってことになる。しかも、投網だ。射程が伸びるってことは、捕獲範囲も広がるってことだろう? かなりえげつねぇ道具になるんじゃねぇか?」
「そうだな。雁や鴨、七面鳥などを文字通り一網打尽に出来そうだ」
松村さんも、会話に参加してきます。
「それと同時に。魔王国では魔法を『純然たる〝力〟』として扱うのなら。逆に削ぎ落とされる部分に、あたしらは活路を見出す事が出来るかもしれない」
「それは?」
「例えば、火属性魔法。魔法の属性としての〝火〟の正体などは、この際どうでもいい。
だけど、火が象徴するものは、炎の他に、熱、光、燃焼、などがある。魔法をただ『純然たる〝力〟』とするならば、この中の〝熱〟以外の全ての象徴は切り捨てられているってことだ。
そしてあたしらは、〔烈火〕の魔法で〝燃焼〟という象徴の再現に成功している。
また、無属性。それを『光属性』と名付け、運動を象徴した魔法としているのが魔王国なら。けれど美奈が思い付いた〔マルチプル・バブル〕は、『光属性』の範疇には含まれない。
今あたしらのいる〔亜空間倉庫〕も、そうだ。どんな〝運動の法則〟で、この空間を定義出来る?
魔王国が『魔法を科学する』のなら。
あたしらは、魔法を『魔法』として、その可能性を追求しようじゃないか」
その方針で考えるのなら。出来そうなことはたくさんあります。それこそ爺さんの語った、〝星幽界〟の法則で現象を発現させ、それを〝物質界〟に持ってくる。その意味では、「物質」ではなく〝プラズマ〟である火が一番扱い易いと言えますが、同じく「物質」ではなく〝運動〟である風も同じだけ使える余地があると言えます。
そして、火を〝プラズマ〟と定義するのなら。電気もまた〝プラズマ〟です。だからこそ、〔烈火〕と〔帯電〕は、ボクらにとって比較的容易に再現出来たという事も出来ます。
色々と、考えてみましょう。
(2,957文字:2018/02/09初稿 2018/09/01投稿予約 2018/10/16 03:00掲載予定)
・ 魔王国の魔法ですが、『光属性』の〝運動〟と、『土属性』の〝物体運動〟は、似ているようで違います。『光属性』は分子運動や流体運動まで含みますから、実質的な全属性(『空間属性』を除く)です。




