第11話 請けるクエスト
第03節 次のステージへ〔2/5〕
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
第303日目。
本当は今日も休養日に充てようかと思ったけれど、銅札に昇格出来たことを考えると、依頼を請けた方がソニアさんとゆっくり話せそう。だって、銅札のクエストは、町の外でというのが多いから。他人の耳を気にせずに会話をしようと思ったら、クエスト中が一番いい。
と、思ってギルドに足を運んだら。
「あら、昨日の今日でクエストを? もう少しゆっくりしていればいいのに」
「どっちにしても今全員の武具を補修中ですから、戦闘関係のクエストは請けられません。のんびり出来るモノは何かありますか?」
プリムラさんに、社畜のように言われてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
「そうね。実は一つお勧めと、それとは別に旅団【縁辿】には通達事項があるわ」
「通達事項?」
「じゃ、まずそちらから。
冒険者は、本来自分のランク相当のクエストを自由に選ぶ権利があります。
けど、【縁辿】は、しばらくの間商隊の護衛クエストは受件しないでほしいのです」
「……理由を、聞いても?」
「勿論。理由は、貴女たちの、規格外の〔収納魔法〕にあるわ。
隊商にとって便利過ぎるから、どこの隊商にとっても高額の報酬で貴女たちを雇いたい。けど、だからこそ。貴女たちを常に雇えるのならそれが最高だけど、必ずしもそうとは言えないでしょう?
貴女たちを雇えるのであれば、護衛も荷馬車も必要なくなるから、逆に手配した馬車や人手は全て無駄になる。一方貴女たちが受件してくれると思って手配しないでいたのに貴女たちが受件しなければ、改めて手配しなければならなくなるからむしろコストがかかる。そして定期便を任せる専属契約、という事になると、商人たちによる貴女たちに対する引き抜き合戦が起こることになるわ。
だから貴女たちに商隊の護衛クエストを依頼する為には、商人ギルド側でその商隊の調整をする必要が出てくるの。
その調整は、当然ながら冒険者ギルドとも協議する必要がある。貴女たちに護衛依頼をする為のルールと、当然指名依頼扱いになるからその報酬額と。
貴女たちの目的を考えたら、一商人の専属護衛になるなり商人ギルドに登録して武装商人になるという選択肢はないでしょう?
だからむしろ、その調整が終わるまでは、特定の商人と距離を縮めるようなことは控えてほしいの。皆さんの武具を補修中っていうのは、ちょうどいいタイミングみたいだけどね」
なんか、凄いことになっています。けど確かに、モリスの町まで片道最速三日という移動速度と、攻城兵器そのものを運べる収納力の両方を披露してしまっていますから、そういう問題は起こってしまうのかもしれません。
商隊の護衛クエストは、襲撃等が頻繁に起こる訳ではないので成果報酬はそれほど高くはないけれど、日数を要するのでその日当で稼げる美味しいクエスト。運が良ければ一度の戦闘もなく報酬を受け取ることも出来る、人気のクエストなんですけど。
「そういう事ならわかりました。
それで、プリムラさんのお勧めのクエストっていうのは?」
「これも、貴女たちの〔収納魔法〕を見込んでのモノなんだけどね。
この季節限定。北の山から、『雪』を運んでほしいの」
それは。雪蔵を作る為の雪。
この世界には製氷機などはありませんから、山から雪なり氷なりを持ってくるのが一番。けれど、これが銅札のクエストになるのは。
「〔収納魔法〕でも、普通に雪は溶けてしまうわ。だから魔法に頼らず、大八車などに溶け難い工夫をして持ってくるしかなくなる。けどそうなると、魔法より工夫の勝負になるの。普通に運んだら時間もかかるけど、依頼の発注からそれ程の時間を与えることも出来ないから。
最少でも小部屋ひとつが埋まるくらいの雪を持ってきてほしい。多ければ多いほど報酬に加増が付くわ」
小部屋ひとつ、ですか。〔亜空間倉庫〕の冷蔵庫には、ちょっと雪を多く詰め込み過ぎたって武田くんが言っていました。小部屋ひとつ分くらいなら今すぐでも提供出来ます。けど。
「わかりました。多過ぎて困るってことは、無いですよね?」
「……ちょっと不安になってきたけど、依頼主が困惑するほどの量の雪を持ってこれるのなら、残りはギルドで買い取るわ。ギルドでも、あれば助かるから」
◇◆◇ ◆◇◆
そういう訳でこのクエストを受件し、北西の「リュースデイル山脈」と「ベスタ山脈」が交わる渓谷を目指します。
とはいえ今使える武装は、弩と投擲紐、おシズさんの大弓と薙刀、そしてソニアさんの武具のみ。これで不安っていうのは、美奈たちがこの世界に染まってしまったという証みたいだけど、紛れもない事実。
そして山に入ってすぐ。迷い出たのか山羊さんが。
「ソニアさん。ソニアさんは、狩りなどはどのように?」
まさか箒を振り回して、とは思えませんから、訊いてみたら。
「はい、投げナイフを使います」
そう言って、スカートの中(!)から一本のナイフを。って、それは?
「苦無、ですか?」
「はい。我が王の愛用するナイフが、メイドの標準武装です」
所謂「棒手裏剣」。忍者映画でお馴染みの、苦無でした。でも、その投擲じゃぁヤギを捉えることは……。
と思っていたら。投擲された苦無は、慣性の法則を無視して加速してヤギさんに突き刺さりました。
「我が国では、光属性、他国でいう無属性の魔法を基礎として学びます。
光属性の魔法は、生活のあらゆるシーンで使用されます。
例えば、井戸の水汲み。『羽根車』と呼ばれる機巧を光属性で動かすことで、いくらでも水を汲みだす事が出来ます。
また密閉された室内の空気を『扇』と呼ばれる機巧で掃き出すことで、その室内の空気を冷やす事が出来ます。
そして野外では、投擲したナイフを光属性の魔法で誘導し、或いは加速させることで、遠く離れた場所にも正確に、そして威力を保存したたまで打ち込むことが出来るんです」
ソニアさんが「光属性」と呼ぶ、無属性魔法。物を動かす事が出来る、魔法。
その可能性は無限大だ、と学んだ時には思いましたが。そんな美奈たちの考えさえ、硬直したモノだったようです。
うん、「投げたナイフを誘導する」。そのくらいなら、もしかしたら思い付いたかもしれません。けど。
「機械の動力」として使うという発想は、ありませんでした。ちょっと吃驚。
(2,827文字:2018/02/09初稿 2018/09/01投稿予約 2018/10/14 03:00掲載予定)
・ 髙月美奈さんたちは、鍛冶師(というか機巧師)に伝手がありませんから、「魔法を機巧の動力とする」ことは考えついても実現は難しかった、という事情もあります。
・ スイザリアと(旧)フェルマール、そしてマキアを隔てる山脈について、ちょっと。
スイザリアとマキアを隔てる山脈が南北に、スイザリア・マキアとフェルマールを隔てる山脈が東西に連なり、事実上十文字に交差しています。
南北に連なる山脈の北側が「ベルナンド山脈(北ベスタ山脈)」、南側が「ベスタ山脈」、東西に横たわる山脈の、西側が「マキア山脈(西リュースデイル山脈)」、東側が「リュースデイル山脈」です。 けど地脈的には、「ベルナンド山脈」と「マキア山脈」が一続き、「ベスタ山脈」と「リュースデイル山脈」が一続き。二つの山脈が(交差しているのではなく)ぶつかっているんです。




