第10話 新しい力・2 ~杖剣と長柄棍杖~
第03節 次のステージへ〔1/5〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
ソニアさんと松村の試合が終わった後。オレたちは、ギルマスにある鍛冶師を紹介してもらった。それは、町の鍛冶師から聞いた、「A・スチール」を扱える鍛冶師だ。
A・スチールを扱える鍛冶師はそもそも外来の非主流派で、それでいながら一般の鍛冶師が扱う鉄より品質が良いことから、町では迫害に近い扱いを受けているのだという。これは組織の本能のようなもので、「優秀な余所者」を認めたら、これまで努力していた本流の若手が報われない。けれど、それさえ時間の問題。品質の優劣が明白であれば、余所モンか地元モンかを問わずに優秀な技術に人は流れるモノだから。
「こんにちは。こちらでA・スチールを扱っていると伺ったのですが」
「なんだ、お前らは。冒険者か。わざわざA・スチールを希望するだけの実力を持っているのか?」
「実力はどうかわかりません。けど、ちょっと教えてほしいのですが」
「何だ?」
そしてオレは、〔倉庫〕から取り出した〝ゴブリンドロップ〟の長剣をまず見せた。
「この剣の加工・調整は出来ますか?」
「こりゃぁ……、神聖鉄合金、か。スマンが、俺じゃぁ手に負えない。
うちの製鉄炉は、町のそれより高温で鉄を作る。白金を鋳造出来る温度だ。だが、ヒヒイロカネ合金は、その温度じゃぁ曇りもしねぇ。しかも、ただヒヒイロカネを熔かせる温度の炎を生み出せばいいってもんでもねぇ。鍛冶師ギルドの秘儀とされる魔法〔神鉄炉〕があって、初めてヒヒイロカネを熔かす事が出来るんだ」
これは、一つ朗報だ。つまり、俺たちが使う〔烈火〕〔火弾〕(〔赤熱〕・〔白熱〕)などでは、ヒヒイロカネ製の剣は熔けない。そして、松村の薙刀は間違いなくヒヒイロカネ製。なら、そういった高熱魔法と相性が良いってことになる。
「わかりました。なら次です。この剣の柄。これを長く、槍のようにすることは出来ますか?」
昔読んだ漫画に、そんなエピソードがあった。剣として鍛えて、槍として完成したという武器だ。長柄の武器であれば普通に使うのに大した修練を必要とせず、同時に「ヒヒイロカネ合金」であるこの剣を死蔵させずに済む。
そしてそれが出来れば。攻撃力不足で悩んでいる飯塚に託し、俺たちの戦術に更に幅を持たせる事が出来る。
「それなら可能だ。バランスを調整する必要があるから、柄の長さは今この場では断言出来ないけれどな」
「それで良いです。もう一つ。これを見てください」
次に取り出したのは、俺のダンベルだ。5kgのが二つ。
厳密には、一つにつき1.5kgの錘が2つと1kgが2つ付いている。
「この錘は、取り外して重さを調整出来るようになっています。
同じような仕組みを、長柄武器の先端に作ることは可能ですか? 出来れば、全ての錘を嵌めることも、或いは一番軽い錘一つしか嵌めないことも、どちらも出来るように」
長柄戦槌のハンマーヘッドの重量は、おおよそ2kg強。その錘を目釘で長柄に接続していた。
けど、ダンベルの錘ははじめから円盤型になっており、だから外れないように・落っこちないように凹凸を付けて歯止めをかけるだけで充分のはず。そうすれば、最大10kgのハンマーヘッドを持つ、長柄棍杖になるはずだ。
このダンベル。「落としても床が傷付かないように」ゴムでコーティングされている。そうなると、武器として使うにはマイナスであるようにも思える。けど、「グローブを嵌めていた方がジャブの威力は増す」。衝撃を内部に浸透させる鈍器の場合、ラバーコーティングはむしろ効果が大きいと思われる。同時に、木槌よりゴムハンマーの方が柄に伝わる反動は小さいというから、継戦能力は従前の長柄戦槌を超えるだろう。
そして、完全に固定されない、錘と柄の間に多少の遊びがあるという事は、〔振動〕の魔法をかけたときにその反動が柄に伝わる前にある程度減衰する、という事でもある。所謂ワッシャー部分を考える必要があるだろうけれど。
物理の打撃武器としては、おそらくこのダンベル改造の長柄棍杖は最強級だろう。そして、ヒヒイロカネ合金の槍剣とヒヒイロカネの薙刀。これで、俺たちの旅団の前衛の戦力が揃う。
「……出来る、とは即答出来ない。しばらく預からせてほしい。
この錘自体の加工も見事だから、これを傷付けない、この形状を活かす道具を作るのは、おそらくオレの技術と発想の全てをつぎ込むことになるだろうからな」
この鍛冶師、かなり前のめりになっている。やる気だな。
そして武田の槍。髙月の為に用意されたものだが、今更髙月に武装させる意味がない。その穂先をA・スチール製の刃に交換してもらう。何だかんだ言っても、もう手に馴染んでいるから変にバランスなどを弄らない方がいいだろう。
ついでに、俺たちの鎧についても注文を出した。
鎖帷子は全員分。今使っている物は質が悪過ぎるので、多少重くなっても新しいモノの方が良い。
男子三人には、甲冑。但しオレの分は、行動を阻害しないように関節部分を配慮して。飯塚と武田は最悪腕を動かせればいい。
他に、機動戦用に革鎧。但し、腕や脛の部分は鋼鉄製で。つまり、男子は鎖帷子と合わせて三セットの鎧を用意することになる。
女子は、やはり甲冑よりも、心臓と腕・脛をピンポイントに守るプロテクターの方がいいだろう。女の肌に傷がついても良いのか、と言われても、〔倉庫〕を利用した〔再生魔法〕があるから、傷より命優先で。
ちなみにソニアさんは、専用の戦闘用重甲冑もあるのだそうだ。無骨な意匠だからあまり好みではないそうだが。そしてメイド服自体にも、一定の防刃・耐弾・耐熱・耐寒性能があるのだとか。下手な甲冑より高価と聞いて、ちょっと引いたけど。
あとは出来れば、ソニアさんの隠し武器であるという投げナイフも見せてほしいけど、建前上オレたちの敵国(笑)である魔王国の人間だから、全ての手札を晒したりはしないだろう。
でもこれで。以前より少しはましになる、かな?
(2,655文字:2018/02/09初稿 2018/09/01投稿予約 2018/10/12 03:00掲載予定)
【注:ここでいう「剣として鍛えて、槍として完成した」という武器は、〔藤田和日郎著『うしおととら』小学館少年サンデーコミックス〕の獣の槍誕生のエピソードです。また、西洋剣に槍の柄を持たせた武器は、「槍剣」または「杖剣」と謂われ、スウェーデンで実用されていた歴史があるようです。日本では、日本刀(大太刀、野太刀)の柄を槍のように長くした「長巻」という武器があります(薙刀との区分は不明瞭)。なお槍剣又は杖剣の英語名称は「swordstaff」。「sword staff」と表記すると、何故か双頭刃の武具のことを指すようです。またWeb上で謂う「槍剣(槍×剣)」とも違います】