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拝啓、姉上様~異世界でも、元気です~  作者: 藤原 高彬
第一章:契約は慎重に結びましょう
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第08話 生活魔法1 呪文に込める想い

第02節 異世界言語と魔法〔5/7〕

◇◆◇ 雄二 ◆◇◆


 ロングミーティングから一日置いた、異世界生活第10日目。

 ついに実際の魔法を学ぶことになりました。

 この世界での魔法学習は、「魔力の認識」⇒「呪文の暗記」⇒「魔法の行使」、という順で進めるみたいです。けど、この世界の言葉が〝エスペラント〟である以上、「呪文(アブラカタブラ)」に意味は無いというのであれば、教えられるままに学んでも、決して魔法は使えないでしょう。

 「言葉」に意味があるのなら、まず〝翻訳魔法(こんにゃく)〟を切って、その発音を学ぶところから始める必要があるはずです。けど、現地言語(エスペラント)語彙(ごい)が少なく(というか、日本語の語彙が異様に多い、というべきか?)、現地語の語句を〝こんにゃく〟で日本語に変換する際、複数の変換候補が生じる(同じ単語でも、人によっては〝魔王〟と翻訳され、人によっては〝敵国の君主〟と翻訳される)のでは、日本人が呪文に乗せる思念は、人によって違うものになってしまいます。極端に言えば、「〝魔王〟を討つ」と念じればそれは神聖な力を生み出すでしょうけれど、「〝敵国の君主〟を討つ」と念じればそれは単なる呪詛(すそ)の力です。


 だからまず、ボクたちはその「呪文」の文言、その概念を学ぶことから始めたのです。


◇◆◇ ◆◇◆


「最初に学んでもらうのは、〔着火魔法〕だ。

 呪文はこう(とな)える。『聖なる火精よ、ここに宿りて火を(おこ)(たま)え』」


 すると、魔術師長が触れていた木の枝の先に火が(とも)りました。

 けどその瞬間、ボクはちゃんと観察出来ました。

 虫眼鏡で日光を集めたように、その一点が一瞬高温になるのを。そして、火が()く直前、そこから立ち上る煙が渦を巻いたのを。

 つまり、〔着火魔法〕は可燃物の加熱と、周辺の空気(酸素)の濃度を高めるという、(属性魔法の考え方で見れば)複合魔法、という事になります。


 魔術師長は、火属性だと(うかが)いました。

 けれどその魔法は、風を動かす。属性魔法より下位だという生活魔法で、本人は知らず複合魔法を使っているんです。つまり、知識の不足がその意味の理解を(さまた)げ、思い込みが可能性に(ふた)をしている、という事です。


「魔力の認識が出来ていないキミたちには、難しいかもしれない。

 けれど、私たちにとっては普通に出来ることをどうやれば良いのかを指導することは、私にも出来ない。

 だから、キミたちは『自分が魔法を使える』と信じ、呪文を唱えてみなさい」


 言われるままに、呪文を唱える。


「聖なる火精よ、ここに宿りて火を熾し給え」

「サラマンダーよ、燃え上がれ」

「火よ、舞い踊れ」

「来たれイフリート。我が眼前の敵を燃やし尽くせ」

「え~っと、燃えろ。みたいな?」


 ……多分、〝翻訳魔法(こんにゃく)〟の誤作動に違いない。同じ〝エスペラント〟でも、聞き手によって違う翻訳がなされた結果、日本語としての発音がバラバラになっているだけだと思う。多分。厨二病全開で、ノリノリで唱えている人はいない、と信じたい。

 ともかく。結果として、五人全員が〔着火魔法〕に成功しました。炎の魔神(イフリート)の召喚を試み(ためし)た人――敢えて誰だとは言わない――は、残念ながら召喚には失敗したようですけど。


「フム、見事。魔力を認識出来ていないはずなのに、いとも容易(たやす)く魔法を発動させる。それは、魔法を行使した結果を、明瞭にイメージ出来ているからなのかな?」

「おそらくそうだと思います。ボクたちの世界には、魔法はありませんでした。

 けど、『もし魔法が使えたら』という想像をすることは、誰もが一度のみならずありましたから、自然とイメージ出来るのだと思います」

「そうか。では次に〔収納魔法〕を試してみよう。

 呪文は、『聖なる風精よ、異界に通じる門を開き、我が宝物を納めせしめよ』」


 〔収納魔法〕については、既に打ち合わせをしています。イメージは〝四次元ポケット〟。そして変に呪文に縛られたら使い勝手が悪くなりますから、敢えて魔術師長の前では失敗するようにしよう、と。部屋に戻ってからの自主練で完成させよう、と。

 だから。


「ちょっと待ってください。魔術師長、その呪文の文言は、異界、つまりボクたちの世界へと通じる門を開く呪文ではないのですか?」

「フム成程(なるほど)。では〔収納魔法〕で保管している物は、キミたちの世界に一時的に置いている、という事になるのかな?

 正確には、〔収納魔法〕で仕舞われたものが、どこにあるのかは、わかっていない。それこそ歴史に名を残すような研究者たちが、生涯を()けて(いど)(なぞ)、と言えるだろう。それに対する示唆(しさ)を与えてくれたことには感謝しよう。

 だが今は、キミたちの魔法の教練中だ。考察に頭を悩ませる余裕があるのなら、魔法を試してみたまえ」


 けど、これは実は皆を誤誘導(ミスリード)する問いかけでもあります。ボクの疑問で、この文言を『召喚門を開く呪文』と皆が一瞬でも疑えば、この呪文で〔収納魔法〕が完成することはありません。

 案の定。一所懸命呪文を唱えても、誰一人〔収納魔法〕を成功させられませんでした(中には風の魔神(ジン)を召喚しようとした人もいたようですが)。


◇◆◇ ◆◇◆


 今日の魔法教練は、これでおしまいでした。

 そして部屋に戻ってから、考察検討会。

 皆が成功した〔着火魔法〕はともかく、〔収納魔法〕についてはディスカッションする必要があります。


「まず、〔収納魔法〕を実現する為には、風の魔神(ジン)を召喚しても意味がないという事は、共通認識として持ってもらわないと困ります」

「そうだな。誰とは言わないが、リアル中二で厨二病を卒業したはずの男が、炎の魔神(イフリート)だの風の魔神(ジン)だのと言った、虚構(ファンタジー)の精霊王を召喚しようとしていたのにはまいったがな」

「ショウくん、不治の(やまい)?」

「お前ら、寄ってたかって俺を(いじく)って楽しいか?」

「『イジメはイジメられる方にも問題がある』って本当だな」

「ジャイ○ンは黙ってろ!」


 ともかく。


「むしろ、魔術師長の呪文の文言から、〔収納魔法〕そして『亜空間』の存在を、魔術師長はまるで理解していないという事がわかりました」

「付け加えれば、異世界――つまり地球――のこともわかっていないな。(いや)、『世界』という概念も、理解出来ているかどうか怪しい」

「松村さんの言う通りだと思います。もっとも、ボクたちだって『世界』を理解出来ているかと問われたら、答えようがないですけれどね」

「どういう意味だ?」

「『世界』を問うたら、日本人の多くは、宇宙の広がりを想像します。

 けれど一方で、地球の裏側で起きた戦争は、虚構(フィクション)の中で起こるそれと大差ありません。(いいえ)、隣町で起きた交通事故であれ、です。

 つまり、『世界』って結局、自分と関わりのある、自分の認識出来る小さな空間でしかないってことです。

 なら、裏山の一本杉の根元に埋めたモノも、月の裏側に隠したモノも、『自分の世界』から見えなくなるという点では同じなんです。


 けれどだからこそ。それが〝四次元〟にしろ〝亜空間〟にしろ、ある程度具体的なイメージをまとめておく必要はありそうですね」

(2,984文字:2017/12/03初稿 2018/03/01投稿予約 2018/04/15 03:00掲載予定)

・ 『イジメはイジメられる方にも問題がある』というのは、この場に於いての感想であり、全てのいじめ問題に適用される感想ではありません。

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