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鈴暮葉音の演劇教室

「鈴暮先生の~!演劇教室――!!」

舞台の下にあるスペースにホワイトボードを設置し、水性のペンを手に持った制服姿の部長の声がホール内に響き渡る。


「「「「いえーーい…」」」」


ホワイトボードのすぐ近くの席に着いた俺を含む演劇部員たち+顧問はそれぞれやる気のなさや若干の照れを感じながら握った手を挙げた。

「さあ、始まりました鈴暮先生の演劇教室!今日は演劇の基本についてレクチャーしちゃいまーす!!」

 演技について教えてくれるのはすごくありがたいんだけどな…


昼休み、葉音先輩のクラスに七月に行われるという顔見せ講演について聞きに行きはしたが、やはりその話は本当だという答えが返ってきた。

しかも、よくよく話を聞いてみればそのことを聞かされていなかったのはどうやら俺だけだったようだ。


そして、放課後。

日直の仕事を片付け、少し遅れて練習場所に行くとわけも聞かされぬまますでに席についていた他の部員の傍に座るよう指示されそのまま始まったのがこれだ。


せめて前置きくらいして欲しかったけど…ということはいまさら言っても遅い。

葉音先輩はノリノリで本日の内容をコールした後ホワイトボードの上方にペンを走らせた。

「まずは『演技に必要なことについて』です!はい、朝陽くん!」

蓋をしたペンの先を向け、先輩は俺を指名した。

「さて、ここで問題です!!演技について最も大切なことは何でしょう!」

いきなりの質問に俺は一瞬ぽかんとした後、必死に考えある答えを導く。


「…声をしっかり出すこと…でしょうか?」

「うーん、まあ、それも大事だね。でも惜しい!じゃあ、ゆりりん!正解は!!」

「口調…ですか?あと客席にもしっかりと分かりやすく伝えるための演技力。」

少し小さな声で俺と同学年の上月白百合は答えた。

葉音先輩はその答えを聞き、笑顔で頷く。

「さすがだね!正解!!ドンドンパフパフ~~!!」

ペンを振り回しながら葉音先輩はテンション高く言った。

それとは対照的に隣の席からは溜息が聞こえた。

「いいから、さっさと進めろ。講演まで練習時間もそんなにないんだから。」

「はい、新高柊くん!私語は慎むように!!」

あくまで先生という設定は続けるようだ。

葉音先輩にペンで指され柊先輩はそれっきり何も言わなくなった。

手で葉音先輩に説明の続きを促すと頬杖を突く。

しゅう先輩。お気持ち、お察しします…!!


「はい、じゃあ、改めまして!演技をするうえで大切なのは『口調』と『動き』の二つだけれどまずは『口調』について説明します!」

そう言い先輩はホワイトボードに『私は肉を食べた』という文章を書いた。

「…じゃあ、この文章!!例文だからこの文に特に意味はありません!肉はあたしが今食べたいだけです!!」

葉音先輩の言葉に俺を含む他の部員はどう反応すればいいのか分からないのかその場が一瞬静まり返った。


葉音先輩はそんな気まずい空気は気にしていないように説明を続けた。

「この文はどこで言葉を切るかによって強調される部分も変わってきます!例えば、『私は』というところで区切ると『肉』という部分が強調されるね!」

葉音先輩は文を区切る線を入れ、そこで区切って文を読み上げた。

おー…、所々で変なテンションが入るもののその説明はとても分かりやすい。


なるほど…文をただ読むだけじゃ抑揚もつかないし、感情も言葉も伝わらない。それをたったこれだけの説明で伝えるとは…さすが部長。

「じゃあ、次の例文です!!『黒い目の女の子』という文がここにあります!あんまり長く説明してもなんだから簡単に説明するけど、『黒い』で切ると肌が黒いのかな?というような印象を受けます!!次に『黒い目の』で切ると目が黒いって言うこと、そして『黒い目の女の』で切ると子供がいるのかな?って感じに聞こえるね!」

「おぉ!確かに言われてみるとほんとだ!!」

「おー、朝陽くんは理解が早いねぇ。」

「すごく勉強になります!さすが部長!!」

「ふふふっ…じゃあ!次行ってみよう!」

「いえーー!!」


演技が上手くなるための知識が増えていくのを感じ自然とテンションが上がっていくのを案じる。周りの目も入ってこないくらいに。

「次は『動き』についてです!舞台と観客席は当然離れているからオーバーな動きをしないと観客には見えないんだよ!!どんなに自分で大きく動いてるつもりでもそれが観客に伝わらないこともある。だからオーバーすぎるくらいがちょうどいいと思いますっ!!」

フムフムと頷きながら説明を聞く。


「以上!!」

「なんでだよ!!」

柊先輩が我慢しきれなかったように突っ込んだ。

「もっと言うことあるだろ!そんなのただのさわりの部分じゃねぇか!」

「だって、全部言ったらそれこそ膨大な時間がかかるし『習うより慣れよ』って言うからね!今はこれでいいんだよ。」

葉音先輩はニコッと笑った。

それを見て柊先輩は諦めたように溜息をついて立ち上がる。


「練習始めるぞー…。」

その声はとてもやる気がない。

ちらりと時計を見ると説明が開始されてから思った以上に時間が経っていた。

俺はあまりにも不十分すぎる説明に不満を持ちながら他の部員に習う。

俺はもっと色々習いたいのに…


練習が終わったら改めて聞くか。

そう心に決め俺は練習を開始した。

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