由真家の妹様
「―――っと、ちょっと兄さん!!いつまで布団にくるまっているつもり?いい加減起きなさいよ!」
「ん……」
まどろみの中どこか遠くから誰かの声が聞こえてくる。
だが、睡魔には勝てず俺は目を空けることさえも億劫に感じていた。
「ねぇちょっと!!母さんが起こしに行けって言うからわざわざあたしの貴重な時間を割いてまで起こしてやってんのに!!……いい加減に…しろーー!!」
「ぐおっ!!」
腹部に直後襲ってきた衝撃で飛び起きる。
「…っ…なにすんだ!!」
痛む腹を抑え苦痛で顔を歪めながら俺の腹に蹴りを入れてきた少女に抗議の目を向けた。
気が強そうに見えるつり目、片口で揃えられた髪、それとは対照的に長く伸ばされた前髪はヘアピンでとめられている。
由真憂羽。
よく似ていないとは言われるが正真正銘俺と血がつながった妹だ。
アニメやゲーム好きの両親の影響を受け、見事にオタク街道を突っ走っている俺とは対照的にやれ締め切りがどうだなおプロットがどうだのというようないわゆる『裏の事情』を一番身近で見てきた妹は逆に悪い印象を持ったらしく今ではオタク嫌いでイマドキのトレンドを網羅したリア充女子中学生へと育った。
だから、妹の前で日本の誇るべきポップカルチャー(アニメやゲーム)の話をするのはご法度なのだ。
そもそももう何年もどうしてもというとき以外は俺とろくに会話しようともしないんだが……
「母さんからの伝言『さっさと準備して降りてきなさい』だって。……じゃ、確かに伝えたから。」
「あ!おい!!」
蹴りに対しての文句を言う暇もなく憂羽は出て行った。
ホント…妹なんてろくなもんじゃねぇ…
『実はツンデレ妹』とかいうことは定番ではあるがあいつはそんな萌え属性を一つも備えていない。
あんなの同じ家に住んでいるだけのただの敵だ。
あいつはツンデレのデレの部分がない妹であり、俺以外の人には良い顔をするただの兄嫌いの妹だ。
家族の中でもここまできつく当たるのは俺だけ。
いったい俺が何したって言うんだよ……
昔は良く一緒に遊んでいたというのに…
ある日を境に憂羽は俺に冷たく当たるようになった。
どうしてそうなったのか、原因は今でも分からないし聞いても教えてくれない。
まぁ、もう妹と一緒に遊ぶような年頃でもないし、妹と話をしないことで何か困るということもないから別にいいけど…
バンッ!!
そこで閉められた俺の部屋のドアが大きく叩かれた。
そしてイライラしているように階段をドタドタと降りていく音が聞こえる。
どうやら言ってもすぐに降りてこない俺に腹を立てた妹様が一瞬だけ再降臨なさったようだ。
「はぁ…」
溜息をつきながら寝間着代わりに着ていたスウェットに手をかける。
ホント…妹なんてろくなもんじゃねぇ。




