エピローグ
休日を挟んで次の部活動の日。
あのあと葉音先輩は上手く行ったのだろうか...
もしかしたら上手くいったように見えたのは勘違いで本当は違うだなんて可能性も......
そんな事を考えながら俺は練習場所に向かっていた。
「あーさひくんっ!!」
「うわぁぁっ!?」
背後から両肩に手を乗せられつい大声が出る。
近くにいた大学生達が俺の声に驚き不可解な視線を投げかけてきた。
慌てて頭を下げ謝罪の意を表明し犯人に目を向ける。
「やっほー!」
「『やっほー』じゃないですよ!脅かすのは本当にやめてください!俺見ての通りノミの心臓なんで!!」
「それ...自分で言ってて悲しくならない?」
「分かってるなら指摘しないでください!...ホント、悲しくなりますから。」
自分の言葉がブーメランになって自分に突き刺さる。
自分で勝手にダメージを受けつつ葉音先輩を見るといつも通りのように感じた。
...と、いうかいつも以上にテンションが高いように見えるのは俺の気のせいだろうか......
「ありがとね。」
「え...?」
「お母さんに......聞いた。」
「......正直、『余計な事すんな』って怒られるかと思ってました。」
「そんなことしないよ~。」
葉音先輩は『心外だ』とぷくーっとわざとらしく頬を膨らませる。
だがすぐに笑顔に戻った。
「朝陽くんがいなかったらあたし、ずっとモヤモヤしたままだった。正直すぐに普通に出来るかって言ったら全然だし、まだギクシャクしまくってるけどさ。...でも少なくとも家にいたくないって思うことが減った。」
「...全く思わなくなった。ってわけじゃないんですね。」
冗談めかしてそういうと葉音先輩は困ったような顔で視線を逸らす。
「まあ、それでも進歩だよ。」
葉音先輩はいつも通りに笑顔を浮かべ練習場所に向かう道を話をしながら歩く。
「あ、朝陽くん!葉音ちゃん!」
いつもの席に座ったノートを広げた一花先輩がぱあっと笑顔を浮かべて微笑んだ。
その笑顔だけで1日の疲れがパーっと消えた気がした。
これだけでもここに来た甲斐があった。
まだ肝心の練習には入ってないけど。
「あれ?まだ一花先輩だけですか?」
ニヤけそうになる顔を引き締めてなるべく自然を装う。
「うん、そうだよ。」
俺は先輩の元に行こうと踏み出しーー
「あ、ちょっと朝陽くんはそこにいて!動かないでね?」
「はあ。」
よく分からない指示を受け、だが従わないわけにもいかず俺はその場にピタっと止まった。
「一花一花!」
葉音先輩はいそいそと一花先輩に近づき
「ーーー」
その耳元で何かをコソコソと言う。
「ーーッ!?は、葉音ちゃん!?」
「じゃ、そういうわけだから!」
にっひっひと葉音先輩は笑い俺の傍まで戻ってくる。
「ごめんね、もういいよ!じゃ、一緒に次の練習の計画でも考えようか!」
「ちょっ!?ちょっと葉音先輩ぃ!?」
突然腕を絡み取られ声が裏返った。
というか胸が!?葉音先輩の胸に腕がぁ!?
その状況だけでも頭が沸騰しそうな程に十分ヤバいのにそれを一花先輩に見られていることがさらにヤバい。
しかもやたら力が強く離してくれない。
「ちょっ、ちょっと葉音ちゃん!?」
一花先輩が珍しく大きな声で慌てふためく。
「言ったでしょ?うかうかしてるとーーって!」
葉音先輩は俺の腕を取ったままいたずらっぽく笑った。