幕が上がる
来て欲しいような、来て欲しくないようなその時間はあっという間にやってくる。
『次は明吹高等学校、演劇部ーーー』
そして幕は上がった。
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今回行う劇のタイトルは『キミに贈るアリア』。
数年ぶりに再開した少女とある事がきっかけで歌をやめてしまった少年の物語。
数年ぶりに再開した少女は五感の全てを徐々に失っていくという難病に犯され既に視力がない。そんな少女と過ごすうちに少年は遠ざかっていた歌の世界にまた戻る決意をする。目の見えない少女に歌を届けるために。
ちなみに脚本は椎菜先輩だ。
舞台の上では少女役の一花先輩と少年役の先輩が動き、言葉を交わす。
先輩達が動く度、言葉を発する度に会場が息を呑み、演技に惹き込まれていくのが舞台袖からでも分かった。
「じゃあ、行ってくるよ。」
小声でそう言い出番が来た葉音先輩がスポットライトの下に出ていく。
先輩の役は少女と少年の幼馴染役。この物語のキーパーソンの1人だ。
上手い...!
やっぱり何度見てもすごい!あの一花先輩に引けを取らないほど!
普段とはまた違う魅力で観客を演技に惹き込ませる。
悲しい話ではあるがときに笑いを誘い、でもやはり涙も誘う。
舞台の上で演じる先輩達もすごいがこんな完成された物語を書いた椎菜先輩には本当に感服だ。
僕の役は少年のクラスメイト。台詞は部員の中で1番少ないけどそれでも立派な役だ。
今まで役作りを手伝ってくれた先輩達のためにも... !!
そして俺は光り輝くスポットライトの下へと1歩踏み出した。