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先輩の再襲来

ホールを出るとすでに沈んでしまった太陽の代わりに輝く星々が空に浮かんでいた。

正門に向かって歩きながら疲れた体をほぐすために背伸びをする。

関節が固まっていたのかバキバキと小さく音が鳴った。

「あら、今帰り?」

「…っ!?」

突然掛けられた声に驚き顔を声のした方に向けるとそこには相変わらずの無表情を浮かべた椎菜先輩が立っていた。

ちょうど帰りなのか肩に少し大きめの鞄を掛けている。


「こんばんは、椎菜先輩。偶然ですね。今帰りですか?」

「ええ、そうよ。あなたは......まさか私を待ち伏せていたのかしら?どこか暗い学校内の一目につかないところに無理やり連れ込んで嫌がる私に乱暴するつもりなのね。私は必死に抵抗するのだけれどひ弱なただの少女である私が一応の男子である由真君に敵うはずもなく…」

「って!何言ってんですか!そんなことこれっぽっちも考えてないですから!!しかも一応じゃなくて俺は完全に男ですよ!?それじゃ、俺が性別を偽ってるみたいじゃないですか!?」

いつも通りボケが止まらない先輩にそうツッコむ。

ここでツッコんでも余計先輩が調子に乗ってボケ出すのだけれどそうツッコまずにはいられなかった。

「なーんだ、つまらないわね。」

いや、そんな無表情で淡々と言われても。


「それはそうと由真君。せっかく由真君が綿密に私を襲う計画を立てたところ悪いのだけれど。」

「いやいや!!だからそんな計画立てた覚えはないですって!」

「もう暗いし歩きながら話しましょうか。それにそんな大声出すと向こうの警備室で不審そうにこちらを見ている警備員さんに襲われるわよ、由真君が。」

「俺が!?俺だって先輩がそんなボケまくらなかったらこんなにツッコみませんよ!」

そう言うと椎菜先輩は急に顔を反らし、鞄を体の前に持ってきて防御態勢をとった。

「ツッコむだなんて由真君、こんな暗がりで何言ってんの?」

そこで俺はじりじりとこちらに近寄ってくる影を視界の端に捉えた。

「よーし!さあ、帰りましょうか!早く!早急に!」

「なにをそんなに焦っているの?」

「先輩の発言を変な風に捉えた警備員さんが血相変えてこっちに来てるからですよ!」

こうしている間にも警備員さんは徐々に近寄ってくる。

 捕まったら終わりだ!


「…っ!先輩少し走りますよ!」

俺は先輩の腕を掴み引っ張る。

だが、先輩は走ろうとしない。

「先輩…?」

「由真君、特別に教えてあげえるわ。私、実は体力がないことに関しては人一倍自身があるの。」

「でも、少しくらいなら大丈夫なんじゃ…」

「無理よ、だって…」

そう言って先輩は困ったように顔を反らし、顔を赤らめた。


「だってもう逃げられないもの。」

椎菜先輩の言う通り、すぐ傍には警備服に身を包んだ体の大きなお兄さんだ立っていた。

「あー、君たちちょっといいかな?」

「だそうよ、由真君。」

「なに他人事のように言ってんですか!?」

「私はいつだって傍観者でいたいと思っているわ。」

「先輩も立派な当事者ですから!」

結局、色々と事情を一から説明してようやく警備員さんから解放されるまでそれから十五分もの時間を要した。


                ❁


家までの道を椎菜先輩と並んで歩く。

先輩の家もどうやら俺と同じ方向らしい。

「今日も遅くまで練習だったの?」

「はい…って知ってたのならなんでさっきあんな流れを!?」

「もう本番だものね。」

俺のツッコミを無視し、椎菜先輩は遠くを見た。

去年までは椎菜先輩も俺と同じ演劇部にいたのだからその時のことを思い出しているのだろうか。

「先輩も見に来ますか?」

「あら、いいの?チケットには限りがあるのでしょう?」

「あー…、でもみんな一枚とか多くても二枚くらいしかとってなくて割とチケットには余裕があるんですよね。葉音先輩はいらないって言ってましたし。」

「そう、あの子まだ気にしてるのね。」

「…気にしてるって…何をですか?」

葉音先輩の見せた悲しそうな顔が頭の中をちらつく。


「…秘密よ。」

少し間を空けて返ってきた答えはそんな言葉だった。

「…この前葉音先輩がうちに晩御飯食べに来た時の帰り際も、さっき葉音先輩が帰るときも…上手く言えないけどなんだかすごく悲しそうな顔をしてたんです。確かに他の人の事情に下手に首を突っ込むのはダメなことなのは分かってます。…でも、…俺は俺に出来ることが少しでもあるのなら…葉音先輩の力になりたいんです。」

今まで葉音先輩には色々教えてもらった。


実力も経験も何もなくて、他の部員に後れを感じていた俺を否定しないで演技のことで相談したらすごく熱心に教えてくれた。

いつも明るく振る舞ってみんなの士気を自然に高めてくれていたのも葉音先輩だ。でも葉音先輩は自分のことをあまり話してくれないし、もしかしたら白地知らずのうちに負担を掛けていたんじゃないかって、無理を隠して平気な振りをしていただけなんじゃないかって…そんな不安が俺の中で膨れ上がる。

「由真君、あなたは真実を聞いても今まで通り葉音と過ごせる?」

「過ごせます。」

俺は即答した。

葉音先輩が何に悩んでいるのかは見当もつかない。

だけど、葉音先輩がどんなことを抱えていたとしても葉音先輩は俺の尊敬できる先輩だ。それは変わらない。

「…そう、由真君の決意、受け取ったわ。その目に嘘はない。」

そして、椎菜先輩はゆっくりと話し出した。


「…葉音はね、いつも孤独なの。」

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