本当の私
あの頃、六畳間の小さな部屋のベットの上で私は座って耳を塞いでいた。
激しく降り続ける雨の音が部屋に響く。
だが、別に私はその雨の音をうるさく感じて耳を塞いでいるわけではない。
もっと違うもの……
『どうしていつもいつもーーーっ!!』
一階のリビングの方からは今日も両親の怒鳴り声と時折ガラスの割れるような音が聞こえてくる。
これまで良好だった両親の仲が急に悪くなったのは私がまだ小学生だった頃の出来事だ。
その頃の私は他の人に比べ何も出来なくてだからそんな私が原因で二人の仲は悪くなったんだと当時の私は考えた。
私が頑張れば…もっとできる子だったら両親の仲は良くなるだろうか…
こんなにすごい子が自分たちの娘なんだって…
私が頑張ることで二人の仲が元に戻るのなら……
それからというもの両親に言われるまま小学校の頃から学習塾や英会話塾、ピアノ教室、空手など様々な習い事をこなした。
私は両親の期待に応えたくてどんなに遊ぶ時間が減ってもどんなに挫折しても耐え抜いた。
クラスではそんな私の事情なんて知らないクラスメイト達をいつの間にか引っ張る立場にいた。
上手く立ち振る舞わないと逆にクラスから孤立してしまう。
私は幼いながらそのことに気が付いてしまった。
だから私は演じたのだ。
気取ることもなく、常に中立の立場に立って、決して敵を作らない。
常に笑顔で、家での暗い私を絶対に見せず、バカで、トラブルメーカーで、でも不思議と憎めなくて……
そんな『鈴暮葉音』を私は演じたのだ。
両親を喜ばせるために……その一心で勉強を頑張ったことでいつの間にか全国でもトップクラスの学力が身についていた。
そして当時の担任教師に強く勧められ『明吹大学付属高等学校』へ進学した。
進学校ということもあり私と同じ中学校から同じ高校に進学したのは私とあと一人だけだった。
中学二年生の文化祭で行われる文化祭。
そこで運悪くくじ引きでメインヒロインを引き当ててしまった目立たないクラスメイト、そして高校二年生になった今では同じ『演劇部』のエースに君臨した親友。
『明吹大学付属高等学校二年二組。出席番号二十二番。演劇部所属。桜ヶ岡一花。』
でも、親友とは言っても一花にも私の家庭の事情は話していない。
それは私がまだ彼女に気を許してないということなのだろうか…
高校に進学してからますます私は両親と距離を置くようになった。
一年前に両親は…私の父と母だった人たちは赤の他人となってしまったのも一つの原因ではあるが。
結局私がどんなに頑張ろうと…どんなにすごい私を演じようと両親の心には届かなかった。
私はいらない子だったのだろうか…
私がいなかったら両親は今でも…
その想いは今でも私の心の中に渦巻いている。
今では『みんなの中心である鈴暮葉音』、そして『いつもどこかで一歩引いていて内気な鈴暮葉音』……どちらが本当の私なのかが分からなくなってしまった。
どっちが演技でどっちが本当なのか…
だから私は…あたしは今日も探し続ける。
『本当の鈴暮葉音』を………