準備
―――これは困った。
私は、困ったというそぶりを全身を使って表現した。
しかし、目の前の存在はそんな私のそぶりなど意に関せずという感じだった。
「あのぉ、ここ、どこです?」
私が問うても“それ”はなんの反応も示さなかった。
困った。記憶が正しかったら、昨晩は家で酒を飲んで普通に寝たはずだった。
しかし、目が覚めてみたら一面真っ白の世界。見渡してみても床と天井の境界線が見えず、背景を書き忘れた漫画のコマみたいになっている。
そして、そこにいるのは、自分ともう一人。“それ”は、三メートルぐらいの大きな仏像の姿をしているが、石でも木でもなく、確かに肌があり息をしていた。
「もしかして、ここ。地獄ですか?」
反応がない。
「それとも、極楽?」
やはり、反応がない。呼吸音が聞こえるだけだ。
「もしかして、ただの夢?」
では、ないのだろう。実際、最初にそれを疑った時点で体をひねったり叩いたりして自分で実感があるか確かめている。
では、なぜこんなところにいるのだろう。
―――死んだのか?
―――死んだとして、どうして死んだのかまったく検討がつかない。
一人暮らしで、家にも鍵をかけていた。酒は飲んでいたがつぶれるほどは飲んでいない。むしろ少ないぐらいだ。
なんにしても、状況確認が足りない。私は一度深呼吸をして自分の状態を見返した。
寝巻きに使っていたシャツにパンツのみ、ズボンはない。他には何も持っていないが偶然にも腕に巻いていた腕時計はあった。
あまりにも、あまりにも心もとない装備ではないか。
―――困った。いや、最初から困ってはいたが。
目の前の仏像も半裸には半裸だが、自分の格好も人前に出るにはいささか問題がある。
いや、むしろ死んだとしたら身についているものは持ってこれるシステムなのか?
いやいや、この際、いくら考えをめぐらせたところで大した意味はないだろう。
『そち』
「うおお!」
急に仏像がしゃべった。
思わず私も声が漏れた。
『ここは幻界の境である。そちは、ここから異界の地に進むか、元の地で新しい命として産まれるかを選ぶことができる』
「ええっ」
聞いたことがあるが異界の地ってあれか。転生ってやつか?
元の地で新しい命って、元の地の元の命はもうついえているという事か?
いやいや、元の人生にも未練たらたらなんだが?
「元の世界で元の命を全うすることってのはできないんですか?」
おそるおそる、でも一番重要なことを聞いてみる。
『叶わぬ』
「それは、私がもう……」
―――死んでいるからか……
では、
それならばいっそ
「異界の地では、この姿のままで?」
『そちが望むのであれば』
「では、異界の地で」
やっていきたい……かな……




