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短編 お題無し

リアル・マインスイーパー

作者: Win-CL

 ――気が付くと、白い部屋の中で倒れていた。


 いや、部屋と呼ぶにはいささか広すぎる。

 うちの高校の体育館と同じぐらいだろうか。


 ――壁も、床も、天井も、全て白一色。

 分かりづらいものの、光の反射具合から、だいたいそれぐらいだと推測できる。


 その中で、さらに四方をガラスに塞がれていた。

 身動きをとろうにも、難しい状況である。


 床は、正方形に区切るように、等間隔に溝が掘られていた。

 ちょうど、ガラスで囲われているこの範囲が一つの区画らしい。


「――ここは」

「目が覚めたのか、津久井(つくい)


 自分の周りには、三人――

 同じクラスの友人である、屋久杉(やくすぎ)小此木(おこのぎ)明田川(あきたがわ)がいた。


「……こんなところ、見たことねェよ」

「なんで俺たち、こんな変な場所にいるんだ?」

「……テレビの撮影か何かか?」


 全員、知らないうちにここへ連れてこられたようだった。


 ――誰一人。この状況を説明できる者などいない。


 辺りを見回しても、なにもない――

 いや、小型のタブレットが一つ置いてあった。


 が、何も表示されていない。

 画面もこの部屋と同じ白一色だった。


 連絡を取ろうにも、携帯電話などの持ち物は、抜かれたのか何も残っていなかった。


 そんなとき、突然、部屋に声が響く。

 抑揚もなにもない、機械音声。


「本日――、あなた達には“ゲーム”に参加していただきます」

「ゲーム?」


「参加していただく……?

 ふざけんじゃねぇぞ! んなこと、勝手に決められてたまるかよ!」


 小此木の言葉が全く届いていないのか。

 降り注いてきた声は、後を続ける。


「今回の“ゲーム”の内容は――【マインスイーパー】。

 細かいルールは端末で確認してください。

 それでは、“ゲーム”開始です」


 その言葉と共に、四方を塞いでいたガラス板が上昇して、天井へと吸い込まれてゆく。

 四角く区切られた床が、赤・黒・白の三色に分かれた。


「マインスイーパー……」


 その名前は知っているし、遊んだこともある。

 しかし、それは小学校のころに初めてパソコンに触ったときに何度かやったぐらいで、ルールもぼんやりとしか覚えていなかった。


 ――パネルに数字が書いていて、旗をたてたり、パネルを削ったり。

 そんなゲームだったような気がする。


「出口はどこだ?

 ゲームなんかしている暇あるかよ。俺は帰るぞ」

「待っ――」


 床も白一色ではなく、一部が赤や黒に変わった。

 さっきの声は、『それでは、“ゲーム”開始です』と言った。


 つまり――

 既にゲームは始まっている(・・・・・・・・・・)


 そして、小此木が隣の区画へ一歩踏み込んだ瞬間。


 ――音もなく、床が開いた。


「え――」


 小此木の姿が、一瞬にして見えなくなる。


「地雷のパネルを踏んだ方は、その時点でリタイアして頂きます」

「小此木――!?」


 急いで三人が覗き込むもその穴の底はまるで見えない、それほど深かった。


「リタイアって――」

「ウソだろ……」


 いくら待っていても。

 暗闇の向こうから、無事を知らせる声は聞こえない。


「~♪~♪」


「!?」


 タブレットから、その型に似合わない8bit調のメロディが流れる。


 そしてその、さっきまで白一色だった画面には――


「うっ――」


 妖しく光を反射している赤が映っていた。


 それは画面いっぱいに広がっており。

 その中心にある体から伸びた腕や足は、変な方向へ折れ曲がっている。


 画面の中は暗かったが、顔が映っていた。

 間違いなく小此木だった。


 眩暈がする、吐き気がこみ上げてくる。


「地雷の残り数は、端末の表示をご参考ください」


 無情にも、機械音声が天井から降ってくる。


 その場に座り込み、頭を抱えた。

 必死に堪える。吐き気が収まるのを待つ。






 つい最近、同じような光景を見た気がする。


 ――うちの生徒の飛び降り自殺。


 放課後で、人がまばらな時間帯だった。

 ちょうど部活動が始まる前。


 あのときも、自分のクラスメイトだった。


 クラスメイトどころの話ではない。

 彼女は――――


「――おい! 大丈夫か」


 まったく身動きをしていなかったので、心配になったのだろう。

 明田川が声をかけてくる。


「あ、あぁ……。

 大丈夫、吐き気も収まった」






 タブレットには、もうあの映像は映っていない。

 一番最初に映っていた、一面真っ白の画面とも少し違っていた。


 これは――マインスイーパーの画面なのだろう。

 30×24のマスが並んでいる。


 自分達がいると思われるマスが、赤く表示されており、中には数字で2と書かれていた。


 この数字の意味は知っている。

 数字に書かれた数だけの地雷が、周囲8マスに埋まっているということだ。


 そして、先ほど小此木が落ちていったマスには――

 棘のついた爆弾が。


 これが地雷か……。


「こことここが開いているんだから、残り一つはここだろ」


 タブレットを横から覗き込んでいた屋久杉が、付属していたタッチペンを使い、そのマスに旗を立てる。

 すると、それに連動したように、そのパネルの色が黄色に変わった。


「お前――、やったことあるのか?」

「……まぁ、暇なときに少し」


 それならばと、屋久杉に任せることにする。

 素人の自分や明田川が進めて、万が一にも失敗したら冗談ではすまない。


 というのも――

 一番最初にあの声が言っていた、『細かいルール』というものを確認したからだった。



・地雷のないマスをすべて開いた段階で“ゲーム”クリアーです。

・マスを開く方法は二種類。

 『実際に、そのマスへ足を踏み入れる』か、

 『端末を“開くモード”にしたうえで、マスをタッチする』


 それならば、迷わず後者だろう。

 床が開いたとしても、その上にいなければ問題ないのだから。


 と考えていたところで、最後のルールが目に入る。


・端末によって、地雷のあるマスを開いた場合。

 その時点で、プレイヤー全員が(・・・・・・・・)リタイアとなります(・・・・・・・・・)


「――――」


 これには、三人とも戦慄した。


 失敗した一人だけが犠牲になるのではない。

 誰かが失敗した段階で全滅してしまうからだ。


 現在、端末の画面に表示されている二桁の数字。


 おそらく、残りの爆弾の数だろう。

 そこには――“97”と表示されていた。


 そして、本来ならば増えていくはずの時間が、

 刻一刻と減っていたのだった――






 やったことがある、というのは本当のことだったのだろう。


 一つ一つ確認をしながら、屋久島は安全なマスを自分の足で踏んで開き、

残った地雷のあるであろうマスに旗を立てていった。


 なにかしら、攻略法のようなものがあるのだろうか。

 怪しい部分は、いったん保留にしておいて、違う場所へと向かうことも何度かあった。


 既に開かれているパネルとは繋がりのない、離れた所にあるパネルを開いていくときは、一際慎重に旗を立ててゆき、素人の自分たちに確認させながら、パネルを開いていった。


 最初は“97”と表示されていた残りの地雷の数も、今では半分以下になっている。

 このままいけば、簡単にクリアーできると思っていたのだが――






「……マジかよ」


 順調にパネルを開く作業も進んでゆき、離れた所にあるパネルも、自分たちのいる部分と繋がって。最初は真っ白だった床も、ほとんど黒と黄色に染まっていた。


 後は細かい部分を埋めていくだけ、というところで、屋久杉が頭を抱えはじめたのだ。


「どうしたんだ、屋久杉」


 明田川と二人でタブレットを覗く。


 そこには、旗と3と1に囲まれた、二つの白いマスが映っていた。

 この段階ならば、素人の自分でもすぐに分かる。


「に、二択……?」


 ただそこにあるだけの、一桁の数字達が。

 無機質に『確立は半々』と告げていた。


 ――ここまできて、最後の最後で運勝負になるなんて。


「ど、どうするんだよ……。

 なにか、必勝法とか、法則とかないのか?」


 縋るように尋ねる明田川。


「ない……。完全に運だよ」


 答える屋久杉の声は震えていた。


「それじゃあ――」


 残された道は四つ。


 端末で正解のマスを開き、三人で生還するか。

 端末で地雷のマスを開き、三人ともリタイアするか。


 この中の誰か一人が片方のマスへと入り――

 それが正解なら三人で生還。


 地雷ならば、その一人を犠牲に残り二人が生還。


「こ、ここまで俺がパネルを開いたんだ!

 絶対に行かないからな!」


「ま、待ってくれよ……、

 他になにか方法があるんじゃないのか……?」


「無いんだよ! どうしようもないんだ!

 どうやっても最後に二択が出てくることもあるゲームなんだよ!」


 それ以上言葉を口にすることができない。

 なにか言おうとしても、空気が抜け出るように音を失ってしまう。


 どうすることもできない三人を置いていくかのように――

 残り時間を示すカウントは、ただ数を減らしていくのみだった。






「終わった――」


 ゲームの状況が映し出された、大型モニターの前にいたのは――


 最初に脱落した、小此木だった。


「……ふぅ」


 全てが終わったというのに、気分はあまり晴れない。


 事前に撮っておいた(・・・・・・・・・)偽物の映像だった(・・・・・・・・)とはいえ。

 自分が死んだと思い込んだ彼らが、ショックを受けていた場面を見たからだろうか。


 それとも――

 最後は時間切れという、あっけない結末で終わったからだろうか。


 自分一人で最後のパネルを開くこともできず。

 一蓮托生と、全員で覚悟を決めることもできず。


 最後は三人とも泣きながら奈落の底へと落ちていった。

 自分の時とは違い、硬いコンクリートが待ち受けている奈落へと。


 まぁ、仕方のないことだろうと思う。


 たかだか、十数年生きた程度の高校生では――

 自分を犠牲にして他を生かそうなどという、高尚な精神なんて持ち合わせていないのだ。


「そんな精神を持ってれば――

 自殺者が出ることもなかったんだろうな」


 自殺者の両親は泣いて喜ぶだろう。


 自分の娘を殺した――

 正確には、自殺に追いやった奴らを殺すことができたのだから。


 ――自分達の高校で投身自殺をしたのは、幼馴染である木野田(このだ)だった。


 幼稚園から高校まで、家族ぐるみで付き合いのある、自分のたった一人の幼馴染。


 原因なんて、嫌でも耳に入ってくる。

 酷い振られ方をしただとか、それより悪い噂も――


 その一つ一つを聞いているだけで、気が狂いそうだった。

 自分に、何一つ相談してくれなかった事実が、心を蝕んだ。


 だからこそ――自殺の真相を調べ上げた。


 誰が関わっているのか分かった時点で、彼女の両親にそのことを伝え――

 この会社の話を出したのだ。


「本日のご利用、誠にありがとうございました」


 ――殺人代行会社。


  平たく言えば、殺し屋。


 たまの趣味でネットの深くまで潜っていて、

 偶然みつけた眉唾物の情報。


 まさか、自分が使うことなんてないと思っていたが、覚えておいて正解だったと思う。


 そこに金額は書かれていなかったが、連絡先が出ていたので、迷わず連絡を取った。


 普通ならば到底払えない金額だったが――

『ゲームとしての形をとり、生き残る確率が残されている』

『依頼者である自分も、途中まで参加する』

 という条件付きで、保険金の中で支払える金額での依頼を行ったのだ。


 彼女の両親も――

 『これで彼らが、運よく生き延びた場合は、

  この町を離れて、すべて忘れて暮らすことにする』

 と、条件を了承した。


 ――自分は、これが失敗した時には人生を捨てるつもりで殺してやろうと考えていたが。


 これが、今回の“ゲーム”の顛末。


 明日から自分は、何事もなかったかのように日常生活を送り続けるのだ。


 ここで、学生三人が殺されたことを知る人など現れないのだから。

 そのための、殺人代行会社なのだから。






『――またのご利用が無い事を祈ります』


 最後にかけられたその言葉が、頭の中で繰り返し響いていた。



衝動的に描いた結果がこれだよ。

一気に書き上げた結果がこれだよ。

まぁ、だいたい想像した展開だったのではないでしょうか。


ホラーが描きたかった。

ボードゲームのリアルものが描きたかった。

たったそれだけの意志力。


もうちょっと丁寧に書けば、

面白くなりそうだと思わなくもない。


他のゲームを使っての、

シリーズ化する感じもあるけど……、

きっと気のせい……。


ちなみに――、

30×24の地雷99個で挑戦した結果、

一回目は6分弱でクリア、

二回目は途中でミスして失敗。

三回目で最後で二択を迫られミスしました。


やばい、二回死んでる。

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