⑦
「寂しくなどない。ここにいる」
「はい…」
ワーレンはテトゥラァナを近くに引き寄せる。
寝ていると思ってさらけ出した本音を聞かれて、恥ずかしいと同時に嬉しくも感じ、もどかしくなるテトゥラァナ。
「戻るぞ」
「ええ」
二人は裏口の扉を開け、中へ入った。
部屋へ戻る途中ワーレンは立ち止まる。
「寂しいなら一緒に寝るか?」
「え!?」
突飛な一言にテトゥラァナは開いた口がふささがらない。
「冗談だ」
彼は冗談を言うタイプではない、と無意識に印象付けていたので余計に驚いたのである。
テトゥラァナは複雑な心境になりながら空き部屋へ入った。
次の日の朝、テトゥラァナは家へ戻ることを決意する。
「なんで!?」
「いつまでもお世話になるわけにはいきません」
この城で過ごした約一週間、ほんの少しの自由で、テトゥラァナは胸がいっぱいになった。
同時にいつまでもこの安寧にいたことが苦しくなる。
微かにめばえ始めたワーレンへの気持ちは、自由で生まれた恋心は本来貴族の令嬢に必要ないものだ。
目に見えない暗黙の規律に縛られるのと同じく、本当の自由に憧れ、与えられて始めは楽しめたとしても最後には辛くなるのだと知ってしまった。
「兄貴、どうする?」
「なぜ俺に話をふるんだ?彼女が決めたなら一番いい考えだろう」
ワーレンが自身の心情に気がついていないままで、よかったとテトゥラァナは安堵、そのまま城を歩く。
大丈夫、いまなら諦められる。
初恋の思い出として、記憶に留めるだけで済む。
目から溢れる雫を振り払い、テトゥラァナは森を歩いた。
「無事に帰ってきてよかった…」
無事に帰宅したテトゥラァナを涙ながらに出迎える。
「もうしわけありません」
気が抜けて頭を垂れる。
「今はゆっくり休んで、ね?」
母親に促され自室で仮眠を取った。
しばらく眠っていたテトゥラァナは夕方になり目が覚めたので、部屋から出る。
すると、信じられない後継を目の当たりにした。
「やあ、また会ったね」
なぜかリングドースが両親とともに食事をとっていたのだ。
「本当は誕生日の日、婚約者の彼を呼ぶはずだったのよ」
誕生日にそういう話をされるのは想像がついていたが、問題はリングドースがテトゥラァナの婚約者であるということだった。
リングドースは気まずさからか目線を会わせないでいる。