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テトゥラァナが家を抜け出し、魔王の邸宅に居候して丁度一週間が過ぎた。


リングドースは新聞をめくり、テトゥラァナの失踪は話題になっているかを確認している。

「なんの変化もないな…貴族のお嬢様が消えたとなれば普通は騒ぎになるのに」

今日の記事を全て読み終え、テーブルにパサリと置く。


「きっと騒ぎを起こしたくないのだろう」

「娘が失踪してるのに体裁を気にするなんてな」

二人はテトゥラァナをチラリと見る。


「お茶です」

特に気を悪くした様子は見せることなく、いつもとおりの振る舞いをしていた。


「悪いね」

リングドースは右手にカップを、左手にクッキーを持つ。


「ワーレンさんも」

「いや、君にメイドのようなことをさせるわけには…」

「お気遣いなく、私は居候ですもの」




誰もが寝静まる夜更け、街灯の明かりもなく星は綺麗に輝いている。

私は暗ければ捜索隊に見つかることもないだろうと庭に出る。


「そこに誰かいるのか?」

カサリと草花を踏む音と声でワーレンさんだとわかる。

「すみません私です」

驚かせないように明るみに出た。


眠れないのか、と彼は訪ねる。

「はい、ワーレンさんは見回りですか?」

「俺も眠れないんだ」

彼の視線の先にはベンチがある。

眠れるまで話すのもいいかと思い互いに腰かけた。


「出会ったときもこのような状況でしたね」

一週間前の夜、森での出会いを思いだしながら呟く。


「夏とはいえ夜中は冷えるな」

ワーレンさんは私の肩に自分のマントをかけてくれる。

「貴方が寒いのでは?」

寒いというなら彼もその筈で、借りるのはためらった。


「魔王の息子が風邪をひいたら笑い話にしかならないな」

暗くて見えないが少しだけ笑っているようだ。

明るい場所なら彼の貴重な表情を見られただろう。

少しもったいない。

私はマントを二人で羽織れるよう彼に寄り添った。

ワーレンさんは特に嫌がっている様子も驚く素振りもなくそのまま受け入れてくれている。


「あの…ワーレンさん?」

話しかけても反応がなく、おかしいと思い耳をすますと、寝息を立てているのがわかった。


寝ているから何も言わなかったのか、寄り掛かった後に寝たのか、わからないのは残念である。


そんなことを考えている内に時間は驚くほど短く過ぎていった。


あとどれだけの間、ここでこうしていられるのだろう。

もし見つかればすぐに連れ戻され、今度こそ本当に自由ではなくなる。

監視の目があればこの森に住む彼にはもう二度と会えないのだから。

ほんの最近知り合ったばかりで、互いのことはまだなにも知らない。

ワーレンさんが寝ている今の内に言ってしまおう。

「寂しいです」

言葉が浮かばないのでそれだけを囁いた。

寝ている彼にとどく筈もない。

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