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「なぜあの時…」

(ワーレンさんが震えている?)

違う、揺れているのは私の方。

魔王が恐ろしい相手だとわかっているのに、何故体が動いたのか、私自身でも理解出来ていない。


魔王はほんの数分前、何も言わず私達の前から去ったが、きっとまた会う事になりそうで不安だ。


会ったばかりの印象とは一変し、魔王の威厳、威圧というものは、老いてもなお死すら覚悟するほどだった。


人ならざる存在を名乗るだけの事があると、認めざるを得ない。


「あの魔王に立ち向かうなんてすごいよ!」

あの方は息子にすら魔王と呼ばれているのか。

私はあんぐりと口を開けてしまう。


それにしても魔王と息子が親子、と云うのはなんとも不思議な感覚がある。

一目見ればワーレン、リングドースは整った容姿をしている事が判る。

魔王も老いはあれど、若い頃、はきっとハンサムだったのだろう。

しかし、魔王のその異質な呼び名で家族という雰囲気が絶たれているせいか魔王と父性が一致しない。

―――

「お嬢さんこれから…いつまでもお嬢さん、なんて呼ぶのは変だね」

ワーレンをチラリと見るリングドース。


「…名は?」

それでまだ目の前にいる少女の名を知らない事に気がついたワーレンが少女に名をたずねた。


「テトゥラアナ=スペイラーグです」

身なりのよい令嬢はそれに相応しいたたずまいで、惑うことなく名乗った。


「スペイラーグ!?」

令嬢の名を聞いたリングドースは驚きながら聞き直す。

「どうした」

ワーレンはいぶかしげにリングドースの様子をうかがう。

「なんでもないよ。あ、スペイラーグ家は森の付近に住む貴族って聞いているよ」

テトゥラアナはコクリと頷く。


「彼女の身なりから貴族か富豪だろうと考えていた」

言葉のとおり、驚いた様子はない。

ワーレンに続いてリングドースはテトゥラアナのドレスに目をやる。

「お子様はちょっと好みじゃないかな」

リングドースは悪気はなさそうにクスリと笑った。


「そうか、やはりお前とは趣味が合わない」

ワーレンを見ていたテトゥラアナは少しどきりとして、視線をそらす。

“趣味が合わない”とはどういう意味だろう。テトゥラアナはとても気になった。


「兄さん、どうして貴族のお嬢さんがこんな場所にいるんだよ?」


「だから俺についてきたからだと数分前にも言っただろう」

何をいっているんだといわんばかりの表情をした。


ワーレンの言っていることは合ってはいるが正しくはない。

リングドースは、なぜ貴族が護衛もなしに一人出歩いて、森の奥にある館にいるのかを聞いているのである。


「改めて聞くよスペイラーグのお嬢さん。どうして兄貴といたのか」

黙秘は許さないと言いたげなリングドースの視線に根負けし、テトゥラアナは渋々理由と経緯を説明した。


「見かけによらないというかなんというか、仮に縁談やら親の勝手に決めた婚約者が用意されていたとして、すっぽかされた男は哀れだね」

リングドースはやれやれという素振りをした。


「すみません」

「いや…俺に謝られてもね」

リングドースは苦笑いを浮かべる。


「貴族の令嬢は皆、自分がない者と思っていたがお前は勇気があるんだな」

彼とは違いワーレンは称賛した。


「ありがとうございます…?」

「…兄貴は自分でも似たようなことしてるからね君みたいに結婚から逃げたり」

テトゥラアナとワーレン、二人はまったく違う人間のようで少しだけ似ているのだとリングドースは言う。


テトゥラアナはどういうわけか、嬉しい気持ちになるのだった。

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